• 電力中央研究所 社会経済研究所
    研究推進マネージャー
    (セキュリティ・サステナビリティ)
    ・上席研究員
  • 上野 貴弘氏UENO TAKAHIRO
VOICE

2025.11

ベンチマーク設定に不可欠な
「バランス」の視点

地球温暖化対策を専門とする電力中央研究所の上野貴弘氏は、GX-ETSについて各国の事例や教訓を参考に制度設計が進められていると解説します。特に発電部門については、「3E」(安定供給、環境、経済効率性)を基調に設備形成されてきた経緯を踏まえることが重要と指摘。排出削減を促しつつ、産業競争力や国民生活への影響を抑えることが大切であり、海外と比較して日本のみ規制水準が突出して高い状態にならないようにすることが必要と説きます。

GX-ETSは先行事例であるEUなどを参考にしつつ、制度設計を工夫しています。例えばEUでは排出権の取引価格が乱高下したことで、脱炭素投資が進みづらい状況がありました。これに対し日本は排出枠の市場価格に上限・下限を設け、価格の安定性と予見性を確保し、企業の投資判断を促進します。

2026年度からの第2フェーズは排出枠の割り当てを無償とし、国民生活や産業活動への影響を抑えます。ただ将来的には発電部門への有償オークションが予定されており、電気料金などに炭素コストが反映される可能性があります。EUは既に有償化されていますが、エネルギーコストへの影響はまだ限定的です。これはロシアによるウクライナ侵攻の影響が甚大で相対的に見えにくかったことも一因ですが、排出枠価格の上昇に伴って影響は拡大するので、今後の動向を注視する必要があります。

GX-ETSは発電だけでなく、鉄鋼や化学など多様な業種にまたがる制度であり、業種ごとの特性をベンチマークに反映させることが重要です。特に発電事業は長きにわたり3Eを基調とするエネルギー政策の下で構築されてきました。そのため、コストに加え安定供給維持などの観点も踏まえることが望まれます。

発電設備は設置に長い時間がかかります。その期間に事業者に脱炭素への投資余力を奪うほどのコストを負担させると、かえって脱炭素に悪影響を及ぼすおそれがあります。GX-ETSにより事業者が排出を削減するインセンティブを確保することが不可欠ですが、移行期においては厳しすぎるベンチマーク設定にならないよう、バランスを取る必要があります。

米国のパリ協定脱退などで国際協調が揺らいでいますが、気候変動問題自体がなくなるわけではありません。国際情勢のさらなる変化も見越して、日本は一貫性ある対応を取るべきと考えます。

ただ日本が中国、韓国や東南アジアといった貿易上の競争相手と比べ、一方的に高い炭素コストを負担することは産業競争力の低下を招きます。炭素規制が比較的緩い国へ産業が移転し、結果として地球全体の排出量が増えてしまう「炭素リーケージ」という問題も懸念されます。

日本のGXは「2050年カーボンニュートラル」を掲げますが、脱炭素一辺倒ではなく、経済性や安定供給も考慮した政策です。そのためGX-ETSも制度設計を通じて、影響緩和措置を多層的に組み込んでいくことが大切です。

(2025年9月26日インタビュー)

PROFILE

2004年東京大学総合文化研究科修了、電力中央研究所入所。米国の未来資源研究所(RFF)客員研究員などを経て2018年より現職。経済産業省、環境省、内閣官房で有識者会議の委員を務め、2025年からは経産省産業構造審議会イノベーション・環境分科会「排出量取引制度小委員会」委員を務める。著書に「グリーン戦争」(中公新書)。

MEMORIES OF EXPO 2025

大阪・関西万博
「電力館 可能性のタマゴたち」

82万人が来館
ありがとうございました

大阪・関西万博が10月13日に閉幕しました。電気事業連合会が出展したパビリオン「電力館 可能性のタマゴたち」は半年の期間中に約82万人の方にご来館いただきました。

電力館は、タマゴ型デバイスを手に館内を巡り、未来のエネルギーについて楽しく学べる体験型の展示が特長で、パビリオンで初めてお子さま向けの予約枠を設けるなど、とりわけ次世代層にエネルギーの特性や面白さを伝え、関心を持っていただくことに注力しました。

あらためて国内外からご来館の皆さまに、感謝申し上げます。

  • 電力館をご視察される愛子内親王

  • タマゴ型デバイスを手に「潮流発電」を楽しむ親子連れの来館者

  • 未来のエネルギー「核融合」を体験する子どもたち

  • 空間いっぱいの光と音とタマゴ型デバイスが連動し、いのちの輝きを体感いただいた「輝きエリア」

  • 屋外ステージに人気タレント・小島よしおさんを迎えてのクイズ・トークショー

  • 修学旅行や校外学習などで多くの小中学生が来館

  • 最終日の外装膜への寄せ書きイベントには約1,000人が参加

  • 最終日はスタッフ全員で来館者を見送り