• 日本エネルギー経済研究所
    中東研究センター
    センター長・研究理事
  • 坂梨 祥氏SAKANASHI SACHI
VOICE

2026.05

中東地域の安定に向けて
日本が果たすべき役割とは

中東・イランの政治や地政学を専門とする日本エネルギー経済研究所の坂梨祥氏は、イラン紛争を発端とするホルムズ海峡封鎖は、日本のエネルギー安全保障の脆弱性を示したと指摘します。原油輸入の約95%を中東に依存する現実を踏まえ、エネルギー・資源調達の多層化による「中東依存度の低減」が不可欠であると強調。加えて日本がイランと信頼関係を構築してきた立場を生かし、「中東地域の安定化」へ貢献することも重要と説きます。

今回の紛争により、リスクとして認識するものの「頭の体操」程度に捉えられていたホルムズ海峡の封鎖が現実の脅威として突きつけられました。原油は燃料だけでなく、プラスチックなどの原料としても重要です。エネルギー危機に直結することだけにとどまらず、経済全体への影響は計り知れません。

脆弱性の克服に向けた最大の方策はエネルギー供給構造における「中東依存度の低減」です。化石燃料の調達先を多角化すると同時に、化石燃料そのものへの依存を減らすため、原子力などの非化石電源を最大限活用していくことが、日本の産業全体のレジリエンス(強靭性)強化につながります。

一方で、中東地域の安定化を日本自らの課題と捉える視点も欠かせません。紛争前は全ての国の船舶が自由に通航できた国際海峡が、イランの警告一つで航行保険料の上昇などにより実質的に封鎖できることが示されました。これをニューノーマル(新たな常識)と捉え、完全に元に戻ることはないと考えるべきです。

イランが徹底抗戦を続ける根底には、数千年の歴史を持つ大国としての自負があります。体制の存続を第一に、無条件降伏を拒んでいるのが現状です。一方で体制の存続が主たる目的であるため、合理的な判断をする可能性があります。ただ、米国とイランが互いの認識を見誤れば交渉はままなりません。両国と歴史的に友好関係を維持してきた日本は、両国の立場や考え方を正確に知る、世界でも珍しい立場にあります。例えば現在、イランの外交を担うアラグチ外相はかつて駐日大使を務めた知日派であり、日本と強いつながりをもつキーパーソンです。このような強みを持つ日本は、米国とイランの間に立って両国の考え方を双方に伝えることで、交渉を前進させる役割を果たすことができると考えます。

また、紛争を機に中東諸国の間でも不協和音が広がっています。中東各国にとって日本は大口の需要国であり、貿易を通じ長年培った信頼を基に仲を取り持つ役割も期待されます。これらの国々は脱炭素化による資源ビジネスの先細りに不安を抱えています。資源輸出中心の経済構造から転換を目指すビジョンの実現へ協力していくことは、各国の安定につながり、日本自身のエネルギー安全保障にも寄与します。

(2026年5月7日インタビュー)

PROFILE

1997年東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻で修士号取得。2000年在イラン日本大使館専門調査員を経て、2005年日本エネルギー経済研究所入所。欧州を拠点とする湾岸地域研究組織・Gulf Research Center客員研究員などを歴任し、2018年に再び日本エネルギー経済研究所入所。イラン政治、中東地域の政治・国際関係、地政学およびエネルギー分野を専門に調査・研究に従事。国内外での講演、著書・論文執筆、NHK「日曜討論」などメディア出演を通じ、幅広く知見を発信する。