VOICE

エネルギー自立は国策の根幹
S+3Eの高度化に向け発信

2026.10

経済同友会 副代表幹事/
エネルギー政策委員会委員長/
JFEホールディングス社長

北野 嘉久氏

KITANO YOSHIHISA

北野 嘉久氏

地政学的リスクの高まりやAI(人工知能)・半導体産業の拡大に伴う電力需要増を見据え、経済界としてエネルギー政策にどう向き合うべきか。経済同友会の北野嘉久副代表幹事にうかがいました。

経済同友会は緊迫する中東情勢に伴う資源価格高騰と、中長期的な国内電力需給の逼迫を踏まえ、5月に提言「エネルギー自立を国策の根幹へ ~S+3Eの高度化に向けた意見~」を発表しました。特に近年のAIによる計算需要の爆発的増加や、半導体工場、データセンター立地拡大を考えれば、過去に経験ない規模で電力供給力確保を迫られる可能性があります。

エネルギー政策は単なる脱炭素政策ではなく、成長戦略、産業政策、安全保障政策でもあります。その観点から、多様な電源を組み合わせた日本型エネルギーシステムの構築が必要です。提言でいう「自立」とは国内で閉じる狭い概念ではなく、国際連携を前提に主体的に外部環境のリスクへ強靱に対応できる構造を指します。

エネルギー問題は「再生可能エネルギーか原子力か」の二者択一ではありません。地理的条件や地域ごとの産業、住民理解などを踏まえた「システム・オブ・システムズ」と捉え、個々の電源の優劣でなく、システム全体で社会的総コストを最小化する視点が不可欠です。発電所建設は長い年月を要します。2040年を通過点と捉え、さらに先を見据えた長期的視野と、国際的な産業競争を支える視点を持つ制度設計が求められます。

政府が改定した「今後の原子力政策の方向性と行動指針」で、2040~2050年に向けたリプレース基数目標が初めて具体的に示されたことを、経済界として高く評価しています。投資予見性やサプライチェーンの維持・強化に向け、歯車が動き出しました。2023年の同友会提言「活・原子力」の方向性と軌を一にしており、歓迎すべき前進です。

一方、目標達成への課題は山積しています。喫緊なのは電力会社や設備サプライヤーの人材育成です。安全確保を前提とした規制のアップグレード(審査の効率化・合理化や、透明性の高いルールの下での産業側と規制側の人材流動などによる人材・体制の強化)、高レベル放射性廃棄物の最終処分地確保などを着実にクリアせねばなりません。リプレースの道筋や、事業者が巨額投資を行える環境を国が主導し具体化することが急務です。

国民や立地地域の理解と信頼の獲得も極めて重要です。一方的な必要性の主張にとどまらず、地域にとっての便益を丁寧に語りかける対話が求められます。特に恩恵を受ける消費地と、発電設備を受け入れてきた立地地域で相互理解を深め、エネルギー供給を社会全体で支える認識の共有が重要です。これはエネルギー政策全体を持続可能にする前提条件です。経済同友会は様々な企業・人材がいることを強みに、私自身も先頭に立ち、地域の皆さまと対話し、産業とエネルギーの未来に向けた発信を続けてまいります。

(2026年8月31日インタビュー)

PROFILE

1982年東京工業大学大学院総合理工学研究科修士課程修了、川崎製鉄入社。JFEスチール西日本製鉄所倉敷地区所長、専務執行役員・東日本製鉄所長、副社長などを経て、2019年JFEスチール社長、日本鉄鋼連盟会長に就任。2024年JFEホールディングス社長。2026年には経済同友会副代表幹事に就き、エネルギー政策委員会委員長を務める。

提言「エネルギー自立を国策の根幹へ ~S+3Eの高度化に向けた意見~」は経済同友会公式ウェブサイトでご覧いただけます。