荒木電事連会長定例記者会見発言要旨



( 1998年6月17日 )




◎本日、私から申し上げるのは、2点。  
 1点は、この夏の電力需給の見通しについて。もう1点は企業間電子商取引推進機構=JECALSへの参加について。

◎まず、この夏の電力需給の見通しについて。
 今年は各地とも梅雨入りが平年より早く、6月3日頃までに、北海道を除く全国で梅雨入りした。しばらくは、うっとうしい日々が続くことになるが、梅雨が明ければ夏本番となり、10社の電力需要もピークを迎える。そこで、本日は、この夏の電力需給について、まずご説明したい。
○夏場の電力需要に影響を及ぼす最大の要因は気温だが、気象庁の6〜8月の3か月の長期予報によれば、今のところ、今年の夏の平均気温は「平年並」になる可能性が高いとのこと。また、わが国の冷夏・暖冬などの原因となる「エルニーニョ現象」も、昨年の秋に最盛期を迎えた後、徐々に弱まり、5月後半からは、エクアドルからペルー沖の海面の水温が急激に低下して、ほぼ平年並みに戻ったとのことだ。こういったことを考えると、極端に気温が低くなることも、まずないのではないかと考えている。
○こうしたなか、この夏の10社全体の最大電力、いわゆるピーク需要の見通しについては、お手元の資料- 1にあるとおり、1億7,794万kWになるものと想定した。
○10社の最大電力は、猛暑であった平成7年度に、これまでの最高の 1億7,113万kW を記録して以後、2年連続で過去最大を下回わり、ピークを更新していない。
 しかし、今年の夏の最大電力については、8・9年度、 2年間のルームエアコンの合計出荷台数が1,500万台にも達しており、さらに今年度も700万台程度となる見通しであることなども考慮すると、通常の高気温(各社で異なるが、東京電力の場合、9都市平均の最高気温が33℃程度)となった場合、過去最高の7年度の記録を680万kW程度上回る数値が見込まれる。昨年からは約1,000万kW程度上回ることになる。
○一方、こうした電力需要に対する、供給力としては、火力等を中心に電源設備の増強が順調に進み、昨年9月から約610万kW増加し、トータルの供給力は1億9,545万kW、供給予備率としては、夏場の期間を通して10%程度を確保できる見通し。
○数字の上では、一見余裕があるように見えるこの夏の電力需給であるが、ピーク需要の約4割は冷房需要によるもの。したがって、電力消費は、気温のわずかな変化にも大きく影響される。例えば、昨年の夏の実績では、ピークの発生時期に、気温がたった1度上がっただけで、全国で、茨城県1県分の電力を上回る約470万kWもの需要が増加した。
 今年の需給は大丈夫だと思っていても、予想外の猛暑が到来したり、設備トラブルが発生したりして、冷や汗を流すといったこともあり得るので、油断は禁物だと考えている。今後の需給運用にあたっては、細心の注意を払ってまいりたい。
○一方、供給力の増強とあわせて、需要面から電力ピークのシフトやカットを行い負荷平準化を図るDSM=についても、積極的に取り組んでまいりたいと考えている。
○例えば、資料-1の2頁をご覧いただきたいが、料金制度によるDSMのひとつとして「需給調整契約」がある。
 これによるピークシフト効果は、昨年の夏時点で、全国で約780万kWにも上っており、各社とも今年の夏に向けて一層の加入拡大に努めているところ。
○このほか、蓄熱システム・機器によるDSMとして、「エコ・アイス」や「エコ・ベンダー」などの普及拡大にも積極的に取り組んでいる。
○氷蓄熱空調システム「エコ・アイス」の設置数は、ここ数年増え始めており、平成9年度末の導入軒数は、全国で約2,300軒、ピークシフト効果も約20万kWとなった。
○平成10年度からは、氷蓄熱システムに対する国の補助金制度も創設されており、今後は、小さな規模から中程度の規模のものまで、いろいろな大きさの建物に適したシステムをそろえて、多様なお客さまにご提案していきたいと考えている。
○このほか、ピークシフトができる飲料用の自動販売機「エコ・ベンダー」も、電力各社が奨励金を出して製造・普及を後押ししたことにより、9年度末までの3年間で全国で約29万台も普及した。これは、全国の飲料用の自動販売機普及台数約206万台の14〜15%にもなり、ピークシフト量は15万kWにも達する。
○このように、「蓄熱」は、負荷平準化の決め手。昨年7月から本格的に活動を開始した(財)ヒートポンプ・蓄熱センターでは、今年から7月を「蓄熱月間」とすることを提唱しており、蓄熱システム普及に向けたさまざまな行事を各地で計画している。
 各省庁の後援や、経済界、関係諸団体の協賛も既にいただいているようだが、私どもとしても、各行事に積極的に協力するとともに、負荷平準化に向けて強力に取り組んでまいりたいと考えている。 以上が需要関連。

◎つぎに、企業間電子商取引推進機構=JECALSへの参加 について。
○CALSの実用化をめざして、この7月に設立される予定の企業間電子商取引の推進組織であるJECALS(Japan Electronic Commerce/CALS Organization)に、電力業界として参加することを本日の社長会で正式に決定した。
○CALS( Commerce At Light Speed)については、これまでも何度かこの場でご紹介させていただいているが、CALSとは、資料-2 にあるとおり、製品や設備について、その設計、開発から、調達、運用に至るまで、一連のライフサイクルにわたって発生する、文書、図面、数値データなどの全ての情報をデータベース化し、関係者で共有して、活用するためのコンセプトである。
○私ども電力は、このCALSが、効率向上やコストダウンにつながり、わが国の産業の発展にも大きく役立つものと考え、平成7年5月に、国や各企業とともに「CALS技術研究組合」=NCALSを発足させ、以来、今年の3月まで、わが国の産業界全体として将来的にCALSをどう実現すればよいかについて研究を行ってきた。 具体的には、東京電力の火力発電所のポンプの取り替えを実証モデルにして、CALSの標準仕様で、設計、製造、据え付け、試験、調達等ライフサイクル全般に亘る業務が実施できるか、機能面、運用面などでの検証を行ってきた。 さらに、火力発電所でメーカーとやりとりする技術連絡書にCALSを適用し、実際の業務への活用を進めている。
○こうした3年間の活動の結果、日本の民間企業の仕事の進め方にあったCALSの定義づけや、CALSの概念でシステムを作る場合の汎用的なガイドラインの作成など、初期の目的を達成することができた。
 しかし、今後、実際の業務にCALSを適用し、普及させていくためには、さらに実用的な検討を行う必要がある。
○こうしたことから、NCALSの成果を引き継ぎ、CALSの実用化、普及拡大を目指す新組織として、この7月に国が、企業間電子商取引推進機構=JECALSを発足させることになった。
 電力としても、これまでの経緯なども踏まえて、評議会員として積極的に活動に参加することとした次第。