荒木電事連会長定例記者会見発言要旨


(1998年10月16日)






◎ まず、最初に、このたびの使用済み燃料輸送用キャスクのデータ改ざんに関して、若干申し上げたい。
○ 既に皆さまご承知のとおり、六ヶ所への使用済み燃料輸送や発電所の構内輸送に使用する「キャスク」の製造過程において、中性子遮蔽材の分析データに改ざんがあることが明らかになった。
  私ども電気事業者は、使用済み燃料の運搬の都度、キャスク外部の放射線量の測定を行い、安全を十分に確認したうえで輸送を行ってきており、外部への影響という点では心配ない。
  しかしながら、厳しい品質管理が要求されるはずのキャスクの製造過程でこうした改ざんが行われ、原子力事業全体に対する多くの方々の信頼を損ねたことは、極めて残念である。
  私どもは、今回の事態を自らの問題として深刻に受け止めており、徹底した原因究明を行うとともに、関係する企業を含む業界全体の体質・風土にまで踏み込んで、こうしたことが二度と起こらないよう、各社ごと、および電事連台で再発防止に取り組んでいくことを今日の社長会で申し合わせた。

◎ 続いて、私の方から3点ほど、ご報告申し上げたい。

◎ 1点目は、コンピュータの西暦2000年問題に関する取り組みについて。(資料1)
○ コンピュータの西暦2000年問題とは、従来のコンピュータプログラムでは、西暦を下2桁で扱うようになっているために、西暦2000年を1900年と誤認してしまい、その結果コンピュータシステムに不具合が生じることをいう。
  西暦2000年が約1年後に迫っている今、金融や情報通信など社会・経済的に重要な分野への影響に関心が高まっており、私ども電力会社に対しても、2000年を迎えた際に停電や電圧異常などが発生する心配はないのか、社外からのお問い合わせが増えてきている。
  このたび、2000年問題に対する電力の取り組み状況がまとまったので、この機会にご報告したい。
○ 電力会社では、コンピュータやマイコンを組み込んだ機器を、他の産業と同様、電気料金の計算や資材調達などの事務処理系に利用しているほか、電気を安定的・効率的にお届けするため、発電・送電・変電・配電などの各部門で、電力設備の制御、監視、運転管理など制御系に数多く利用している。
  その数は、10社合計で事務処理系プログラムが約44万3千本、制御系のシステムが約4,600システムと非常に多い。
○ こうしたことから、電力各社とも、2000年問題には、2年程前から積極的に取り組んでおり、コンピュータやマイコン搭載機器の調査をメーカーとともに実施し、対策のために改修が必要となる箇所の把握をほぼ完了している。
○ そうした調査の結果、電力設備の制御系システムについては、
 o発電所の出力を調整するなど、電力供給に直接かかわるようなシステムは、日付情報を制御に使っていないため、機能に支障はなく、停電や電圧異常などは発生しない
 o 一方、監視や管理機能の面で、システムの一部に、日付を含むデータの印刷や表示が正しくできないもの、運転状況などのデータの記録ができなくなるものがあることが判明した。
○ これら監視や管理機能の面で改修が必要なコンピュータやマイコン搭載機器については、現在、各社が計画的に改修作業を進めており、修正したプログラムを停電作業や定期点検にあわせて入れ替えたり、マイコン搭載機器のチップ交換などを行っている。
  制御系で、制御・監視や管理業務に直接関わる重要なシステムは約1,500システムあるが、現在、約5割について作業が完了しており、来年中には全ての作業が確認テストを含めて完了する予定である。
○ また、お客さまの電気料金計算など、重要な事務処理系プログラム約93,000本についても、電力設備の制御系と同様に改修作業を進めているが、現在、作業の進捗率は約8割であり、来年6月末頃までには、すべて完了する予定である。
  なお、料金計算システムは、銀行、コンビニエンスストアなどとシステムでつながっており、そうした社外の料金収納窓口との連携についても確認しながら作業を進めている。
○ 以上のような各社の着実な取り組みによって、西暦2000年問題は、電力の供給信頼度に何ら影響するものではないと考えているが、今後ともこの問題への対応に万全を期すため、先月、私が委員長となって、電事連内に「コンピューター西暦2000年問題対応委員会」を設置した。
  電力会社間の連携をより緊密にして情報の共有化を図るとともに、他産業の動向調査や、インターネットなどを使った外部への情報提供にも積極的に取り組んでまいりたいと考えている。

◎ 2点目は、COP4に向けた取り組みについて。(資料2
○ 来月の2日から13日までの12日間、アルゼンチンのブエノスアイレスで気候変動枠組み条約 第4回締約国会議」=COP4が開催される。
○ 今回の会議では、排出権取引をはじめとする柔軟性措置の枠組みや、途上国の温室効果ガス抑制に向けた取り組み、吸収源である森林等の取り扱いなど、昨年のCOP3で採択された京都議定書の具体化に向けた検討が行われる。
  いずれも大変重要な意味を持つテーマであるが、各国の意見の開きは大きく、交渉の前進には大きな努力が必要と予想される。
○ 昨年のCOP3では、2010年におけるわが国の温室効果ガス削減率がマイナス6%に決まり、その後、政府の基本方針として「地球温暖化対策推進大綱」が決定された。
  電力分野での対策の柱は、省エネルギーと原子力立地の推進であり、特に原子力では、今後12年間で約2,500万kW、約20基の新規開発が織り込まれている。
○ 私ども電気事業者は、供給責任を果たしつつ、こうした目標にできる限り近づくよう全力で取り組んでまいる所存だが、原子力の立地を巡る情勢は極めて厳しい状況にある。COP4のような場において、政府関係者やNGOを含め、多くの参加者から原子力に対する広い理解を得ることも大変重要であると考えている。
○ こうしたことから、昨年のCOP3に引き続きCOP4においても、アメリカ、ヨーロッパの電力業界や電気事業者と協力し、温暖化防止に対する電力、とりわけ原子力の有効性などについてPRする計画である。さらに、柔軟性措置についても「温室効果ガスを地球規模で効率的に削減するために、市場メカニズムが十分に機能するような制度にすべき」という電力の考え方などをアピールしてまいりたいと考えている。
  ちなみに、今月の5日、6日に、途上国を招いてパリで開かれた「IEA電力技術ワークショップ」でも、途上国をはじめとする多くの参加者から原子力の有効性の確認と柔軟性措置への期待が表明され、こうした意見交換の意義について高く評価された。
○ COP4での具体的な活動については、お配りした資料をご覧いただきたいが、ブースを開設してパネル展示や資料配付を行ったり、途上国を含めた各国のマスコミ、オピニオンリーダー、政府関係者を招きフォーラムやワークショップを会場の内外で、開催する予定である。
  こうした私どもの活動が、COP4での合意形成の一助にでもなればと思っている。

◎ 最後に東京電力社長として、先日、資料を配布させていただいた「中期経営方針」について一言申しあげたい。
○ 「中期経営方針」というのは、今後5年程度先を視野にいれて、中期的に目指すべき経営の基本方向を示すもの。今回3年振りに新しい「中期経営方針」を策定し、今月12日・13日の両日、店所長・部長合同会議を開催して、社内に伝達、指示した。
○ 中身は3つの柱からなっており、
 oお客さまと株主・投資家から選択していただける経営体質の確立
 o公益事業としての使命達成と、新たな成長・発展につながる可能性の追求
 o自律的で柔軟な組織運営の強化と、人材の積極的な活用
というもの。
○ こうした柱を掲げた背景には、経済の低成長化に伴う電力需要の減速傾向と、小売市場の自由化を控え、電気事業がかつてない大きな構造転換期を迎えているとの認識がある。
  とりわけ、小売市場の自由化は、実際にどれくらい新規参入があるかわからないが、自由化対象が特別高圧のお客さまだとすれば、当社の場合、総需要の30%弱に相当することを考えると、対応如何で、経営に大きな影響がでることも予想される。
○ 従って、「お客さまと株主・投資家に選択していただける経営を目指す」を第一の柱として掲げた次第。
  何よりもお客さまから「やっぱり電気は東京電力」と言われ、当社を選んでいただくよう、今後価格・サービスの両面での競争力を全社をあげて強化していく所存である。
○ また、競争市場化によって、マーケットの当社に対する評価は、企業としての安定性だけでなく、むしろ企業努力の成果である収益性や将来性等を一層重視するようになるはず。
  従って、株主・投資家のご期待に応えるためには、経営体質をさらに強化することが大切であり、今回の基本方針では、経営努力の成果・結果としての利益目標や財務体質に関する目標を新たに定めた次第。
○ 具体的に申し上げると、
 ・利益については、経常利益を3年間平均で2,000億円以上確保すると同時に、ROA、ROEについてはそれぞれ1%、8%の達成を目指し、
 ・財務体質については有利子負債を3年間で1,000億円以上削減して自己資本比率を13年度末に11%台へ高めることを目標とした。
○ 従来は設備投資額や修繕費、諸経費などといった、いわば作業プロセスでの指標を目標としてきたが、そうしたことを達成した後の最終的な仕上がりとして、利益水準・財務体質といった目標を新たに掲げることにした次第。今後、厳しい経営環境の中で、コストダウン、効率化を徹底的に押し進め、目標達成に向けて、果敢に挑戦していきたいと考えている。