荒木電事連会長定例記者会見発言要旨


(1999年1月22日)





◎ 今年になって初めての会見。今年も、昨年に引き続き、部分自由化に向けた具体的なルールづくりや競争導入への備え、さらに原子力の推進、とりわけ原子燃料サイクルやバックエンド対策の推進が、私ども電気事業者の主要なテーマになると思う。
  いずれも、21世紀のわが国の経済社会に大きな影響を与えるテーマであり、私ども事業者も全力で取り組んでまいる所存。エネルギー記者会の皆さま方には、今年もどうぞよろしくお願いしたい。

◎ さて、本日、私から申し上げたいことは2点。 1つは最近関心が高まっている西暦2000年問題への取り組み状況について。2点目は、WANOの総裁、議長の来日について。

◎ まず、2000年問題への取り組み状況について。
○ 2000年まで余すところ1年を切ったが、コンピュータの西暦2000年問題への関心も急速に高まっている。電事連や各社に対し、マスコミの方々からのお問い合わせや、これに関する記事、番組も増えているようだ。
○ 10月の会見の際にも申し上げたが、電気事業の場合、重要なシステムとして、事務処理系では、電気料金収納に係わるシステム、また制御系では原子力、火力発電所のほか、水力、変電、給電などのシステムがある。
  これらのシステムについては、お手許の資料-1の表のとおり、全数洗い出しが終わっており、改修が必要な箇所については、各社で計画的に作業を行っている。なお、重要システムのうち、模擬テストまで完了しているものは、12月末で、事務処理系が約9割、制御系が約8割となっており、順調に作業が進んでいる。
○ 2000年問題での皆さんのご関心は、やはり、2000年を迎た時に、原子力発電所などの制御系システムにトラブルが生じ、停電や異常電圧などが発生するのではないかということだと思う。
○ ご承知のとおり、電力供給を直接コントロールしているシステムについては、発電機の出力調整のように、電力需要の変化に合わせて時々刻々、リアルタイムで制御しなければならない。
  このため、「年月日」情報は制御系システムには必要がなく、したがって、カレンダーは制御系では用いていない。したがって、2000年が来ても供給支障等が発生する心配がないということを確認している。
○ また、最近、システムに組み込まれたマイクロチップの中に時計機能を持たせているケースが、問題になっている。
  これらについても、システム納入メーカーなどと協力し、設計書やチップメーカーへの仕様書を確認することで、やはり直接制御に係わる部分には、年月日情報は用いられておらず、問題がないことを確認している。
○ ちなみに、全国で51基ある原子力発電所のユニットのうち17基、火力発電所は305基中217基が、既に2000年問題への対応を完了しているが、模擬テスト等で問題が生じているものは1基もない。
  なお、発電所の定期検査の機会をとらえて改修を実施しているため、ユニットによっては、今年の後半までかかるものも若干ある。対応が遅いのではないかと心配される向きもあるが、既に模擬テストを実施し、問題ないことを確認しているシステムと同一仕様のものであるので、心配ないと考えている。
○ 以上のようなことから、西暦2000年問題が、電力供給に支障を及ぼすことはないと考えているが、より対応に万全を期すため、燃料調達などについても、電力会社のコンピュータとは直接つながってはいないものの、各社ごとに、取引先である商社や石油会社から情報収集や確認を行っている。
  さらに、危機管理対策についても、本年6月までに策定する予定である。
○ なお、2000年問題への各社の取り組みや進捗状況については、昨年11月から、電事連および各社のホームページに掲載しているので、ぜひ一度ご覧いただきたい。

◎ つぎに、世界原子力発電事業者協会=WANO、World Asso ciation of Nuclear Operatorsの総裁と議長の来日について。
○ 本日、WANOのアラン・カプシス総裁とザック・ペイト議長が電事連を訪問され、私どもの社長会で各社社長と懇談を行った。
○ お手許の資料-2をご覧いただきたい。
  WANOは、チェルノブイル原子力発電所の事故を契機に、1989年に設立された民間組織であり、原子力発電所の安全性や信頼性向上のために、世界の約130 の発電事業者が、政治的な要素を抜きにして、相互に情報交換や技術支援を行っている。わが国からは、9電力のほか、日本原電(株)、電中研、核燃料サイクル開発機構が参加している。
○ しかしながら、近年、チェルノブイル事故の記憶の風化や、世界全般にわたる原子力発電所の運転実績の向上、さらには、原油価格の低下、規制緩和によるエネルギー間競争の激化など、エネルギーを取り巻く環境の変化により、WANO活動への事業者の参加意欲に低下が見られるようだ。
  こうしたことから、今年で10周年を迎えるWANOへのさらなる理解と支持を求めるため、今回、韓国、中国、日本の事業者をトップ自らが訪問されたとのことだ。
○ 本日の懇談で強く印象に残ったことは、ザック・ぺイト議長が、「現在、世界中で電力業界の競争・再編の嵐が吹き荒れており、その経済的な圧力が原子力発電の安全性を低下させることに繋がるのではないか」という懸念を話されていたことだ。
○ 確かに、電力市場の自由化が進んでいるアメリカでは、ここ数年、原子力についてもリストラの動きが多く見られる。
  昨年7月に初めて売却された「スリーマイル・アイランド1号機」のように、効率が良く、商品価値のある発電所は、売却されたり運転認可期間の更新が行われており、そうでない発電所は、運転認可期間の満了前であっても早期に閉鎖されているようだ。
  また、オペレーションコストを下げるため、原子力発電所の運転を運転管理専門会社が一括して請け負う動きも出てきているようだ。
○ こうしたリストラの動きは、アメリカだけにとどまらず、今後さらに広がっていくものと思われるが、原子力が単に投資の対象となり、経済性を優先するあまり、安全面で落とし穴が生じることにならなければよいと考えている。
○ また、欧米とは対照的に、アジア地域では、経済成長に伴う電力需要の伸びに対応するため、世界最大の原子力市場と言われる中国をはじめ、原子力開発が急速に進展していくことが予想されている。
  これらの地域には、既に商用炉を保有しているものの、いまだ情報面で閉ざされ、安全面で課題が残る国々や、中国など、原子力発電の建設や運転管理に十分な経験を持たない国が含まれている。
  さらに、インドネシアやベトナムをはじめとして、商用炉導入に向けて、検討を進めている国も多数存在している。
○ 今日いらしたザック・ぺイト議長もお話になっておられたが、こうしたどこかの国で、もう一度チェルノブイル級の事故が起きるようなことがあれば、世界中に影響を与え、商業用の原子力利用は道が閉ざされてしまう可能性が大きい。
○ そうした意味からも、エネルギー資源に乏しく、エネルギーセキュリティー確保や地球環境問題への対応で、原子力に頼らざるを得ない私ども日本の事業者は、自らの安全性の向上に一層取り組んでまいるとともに、世界各国の原子力の安全性向上についても、私ども自身の問題として、最大限の努力を払う責務があると、今回の懇談を通して意を新たにした次第。