国家エネルギー戦略について

vol.17

宮家 邦彦 氏

キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹

宮家 邦彦 氏

1953年神奈川県生まれ。東京大学法学部卒、78年外務省入省。
外務大臣秘書官、日米安全保障条約課長、在中国大使館公使、在イラク大使館公使、中東アフリカ局参事官などを経て2005年退官。
06年10月から07年9月まで総理公邸連絡調整官。
06年4月から立命館大学客員教授、09年4月から現職。
外交・安全保障が専門。

私達にとってエネルギーの確保は重要な課題だが、この世にエネルギーに特化した戦略やジオポリティックス(地政学)などは存在しない。エネルギー問題は国家戦略の一部だ。原発再稼働だ、いや再生エネルギーだなどと騒ぐ前に、国家目標を実現する手段としてエネルギーを考えるべきではなかろうか。

ではどうすべきか。当然、エコノミストと国際政治戦略家とではエネルギーに対する見方が異なる。営利を追求するなら、経済的合理性を優先するエコノミストが正しい。他方、経済的合理性を超えた戦略的・地政学的利益を求めるなら、やはりエネルギーを国際政治の手段として捉える必要がある。

重要なことは経済学と地政学を混同しないことだ。現在中東で起きている現象は百年に一度のグローバルなパワーシフトの一部に過ぎない。現在、イラク、シリア、イエメン、リビアなどで起きている現象は今後の国際エネルギー供給を揺るがしかねない大変動の序曲なのかもしれないのだ。

そのような大変動への対応は、地政学的発想の乏しいエネルギー屋やエコノミストだけでは無理だろう。同様に、市場や技術を知らないマクロの戦略家・安保屋だけでも対応は難しい。ここはエネルギー関連の政治・経済・軍事に通じた安全保障的思考のできる人材を養成する必要があると考える。

そのためには各異業種間の専門家交流が必要だ。エコノミストと地政学者の交流だけでは足りない。政治分野だけでも異業種は多く存在するからだ。例えば、エネルギー戦略の日米協力を考えるとしよう。これには中東、アジアだけでなく、軍事面を含む安全保障の専門家の参加が不可欠となる。残念ながら、日米の中東屋は驚くほどアジアを知らないし、アジア屋も中東などに関心はない。ワシントンですら、アジアと中東地域を安全保障やエネルギーの観点から複眼的にフォローできる人は限られている。

いま、このような人材を日本で養成することが、日本のエネルギー戦略を確立する近道となろう。

2015年4月20日寄稿