国の命運を握る「計算」には安定したエネルギーが必要になる

vol.19

竹内 薫氏

サイエンス作家

竹内 薫氏

1960年東京生まれ。東京大学教養学部卒、東京大学理学部卒、マギル大学大学院博士課程修了(高エネルギー物理学理論)。科学をテーマに精力的に著述活動を展開し、テレビ番組のナビゲーター、コメンテーターとしても活躍中。近著に「99.996%はスルー 進化と脳の情報学」「素数はなぜ人を惹きつけるのか」「老化に効く!科学」など。

いまから15年後には人工知能・ロボット社会が到来すると言われています。それを第三次(もしくは第四次)産業革命と呼ぶ人もいます。すでにアメリカでは会計士の仕事が人工知能に取って代わられ、世界中の自動車会社が人工知能による自動走行車の開発で鎬を削っています。

一方、日本が誇るスーパーコンピュータの「京」。創薬の計算、台風の計算など、さまざまなシミュレーションができる優れものですが、いまから15年後には、京はパソコン並みの大きさになると言われています。つまり、誰もが「マイ京」を使って仕事をする時代がやってくるのです。

つまり、東京オリンピックから10年たつと、世界は、「計算社会」に突入します。そのとき、日本が世界から「おいてけぼり」にならないために必要となるのが「エネルギー」です。なぜなら、人工知能もロボットもマイ京も、電気なしには動かないからです。

個人的に私は、50年後には人類のエネルギー問題は解決されるだろうと楽観視しています。次世代の高性能電池が普及し、「小さな太陽」である核融合炉が実用化されれば、人類は計算社会を無限に発展させることができるでしょう。

でも、15年後の社会は、爆発する計算量をまかなうためのエネルギーが深刻な問題となるはずです。「計算は国家なり」という第三次産業革命の進行とともに、世界と伍して戦うために、今から、日本のエネルギーを考えなくてはなりません。基本的には、再生可能エネルギーを含めた、エネルギーのベストミックスで乗り切ることになるでしょう。でも、その際、原子力発電を欠かすことはできないと私は考えます。

日本には、原子力発電に反対の立場の方も大勢います。安全性については、その方たちの意見に真摯に耳を傾けるべきです。しかし、グローバル化と計算社会の到来を見据えるのであれば、厳格な安全対策と地域の理解を得た上で、いまは、原子力発電の再稼働を進めていくべきだというのが私の意見です。

2015年10月27日寄稿