2021.03
震災と原子力災害の記憶
しっかりと後世へ伝え
2020年9月に開館した「東日本大震災・原子力災害伝承館」は、災害の記録や記憶を教訓として収集・保存・研究し、しっかりと後世へ伝えることを目的としています。原子力災害を取り上げていることが大きな特徴の一つです。伝承館の上級研究員を務める開沼先生に施設を案内していただきました。
双葉町の沿岸部に立地している伝承館には、震災関連の展示に加え、住民の証言などを映像で紹介するコーナーも設置してあります。開館してから今年1月末までの4カ月間で約3万5000人が来場。そのうちの約3割は福島県外の方々で、「想定を超える反響」(開沼先生)だそうです。
工夫を凝らした各展示ゾーン
館内は5つのゾーンに分かれています。まずは導入部として、幅約15m・高さ約7mの大型ワイドスクリーンで5分ほどの映像が流れます。この映像は「災害の自分事化」と「福島の経験と教訓の未来への継承」という2つのメッセージを来館者に伝える役割を担います。
スロープを上がると、災害を象徴する黒色を基調としたゾーン1「災害の始まり」とゾーン2「原子力発電所事故直後の対応」で、震災と津波、原子力発電所事故についての貴重な資料や映像を見ることができます。津波で流されてガレキの下から見つかった道路標識や郵便ポスト、日用品などに加え、避難所の様子が分かる映像や救急受け入れ患者ボードといった当時の資料を展示。避難生活や事故対応などの証言を映像によって振り返ります。
ここから先は、ゾーン3「県民の想い」とゾーン4「長期化する原子力災害の影響」、ゾーン5「復興への挑戦」をテーマに掲げた白色を基調としたゾーンとなっています。ゾーン3・4では復興に向けた県民一人一人の意気込みなどを映像で見ることができるほか、放射線の影響に対する県民の意識変化や福島県産品の風評などの影響を知ることができます。ゾーン5では福島イノベーション・コースト構想などの情報を発信しています。
伝承館で正確な情報を
これらの展示物のうち、開沼先生は「特に帰還困難区域の状況や住民の意識変化が分かるコーナーを見てもらいたい」と話しています。例えば「放射線の影響が将来深刻化するか」とのアンケート結果が展示されており、事故から3年後は約24%の住民が「とてもそう思う」と回答。それが同9年目には約9%に減少しています。「子供を外遊びさせるか」とのアンケートでは、事故が起きた年は約67%が「させない」と答えていたのに対し、4年後には約3%まで減少。開沼先生は「線量データをオープンにしたことで正しい情報が伝わった結果」と言います。
それでも県外の人には福島県産品への懸念がいまだに残っているのが実状です。開沼先生は「伝承館で正しい情報と知識を持ち帰ってもらいたい」と強調します。
人々の交流再生の場に
伝承館のすぐ隣に建設された「双葉町産業交流センター」も昨年10月にオープンしました。飲食店や民間企業の事務所が入る複合施設で、双葉町の産業復興や観光交流などの中核を担います。また、これらの施設と隣接する、沿岸部の双葉・浪江両町にまたがる被災地域を「福島県復興祈念公園」として整備。現在、一部が供用されています。震災による教訓の伝承と人々の交流の場とするのが目的で、国内外に向けて復興に対する強い意志を発信しています。
新たな産業基盤構築へ
最先端ロボットの技術拠点目指す
東日本大震災と原子力災害で失われた福島県浜通り地域などの産業基盤を創出するため、政府は国家プロジェクトとして「福島イノベーション・コースト構想」を進めています。その主要プロジェクトの一つが各種ロボットの開発拠点である「福島ロボットテストフィールド」。開沼先生と共に最先端の研究施設を訪ね、研究成果を学びました。
福島イノベーション・コースト構想では、①廃炉②ロボット・ドローン③エネルギー・環境・リサイクル④農林水産業⑤医療関連⑥航空宇宙——の各分野においてプロジェクトを推進。研究開発や人材育成、交流人口の拡大、情報発信などを実現する基盤整備に取り組んでいます。
災害対応ロボ 空飛ぶクルマ開発進む
福島ロボットテストフィールドは福島県浜通り(太平洋側地域)の南相馬市に立地。工業団地に隣接する敷地面積は約50haと広大です。500mの滑走路を備えた無人航空機エリアのほか、水中・水上ロボットエリア、インフラ点検・災害対応エリア、開発基盤エリアを備えています。案内してくれた本宮幸治・事業部長によると、陸海空それぞれのロボット開発施設がそろっている「世界でも有数の開発実証拠点」だそうです。
2018年に運営を開始し、昨年3月に4エリア全21施設がそろいました。現在は開発基盤エリアにデンソー、綜合警備保障といった企業や学術機関、ベンチャー企業など20団体が入居。橋などのインフラ点検用ドローンや警備用ドローン、災害対応ロボット、空飛ぶクルマなどの開発に取り組んでいます。
訓練ほか様々な催しにも活用
これらの試験や操作訓練に加え、試験用トンネルなど各フィールドの施設を用いた消防訓練なども行われています。化学プラントを模した試験設備もあるため、非日常風景を求めたコスプレの撮影会をはじめとした各種イベントで使われるケースもあるそうです。
ロボットの社会実装支える
活躍の場が広がるドローンについては、現在、自動車の車検のように民間検査機関などで安全検査を行う認証制度を国が検討しており、「今後はその認定機関となれるよう様々な取り組みを行っていく」(本宮さん)とのこと。ロボットとドローンの技術基準や運用ガイドラインを国が整備するための拠点となることも目指しており、ロボットの社会実装により、安全で豊かな社会の実現に貢献しています。
COLUMN|廃炉創造ロボコン
-
次世代がロボット技術の未来を切り拓く
全国の高等専門学校生が自作のロボットで福島第一原子力発電所の廃炉関連技術を競う「廃炉創造ロボコン」(主催=日本原子力研究開発機構、廃止措置人材育成高専等連携協議会)の表彰式が今年1月に開催されました。2016年の開始以来、5回目となる今大会には14高専が参加。審査の結果、福島高専が最優秀賞を受賞しました。
国内外から出場校が集まる廃炉ロボコンでは、各チームが高い技術と若さあふれる斬新なアイデアを機体に盛り込み、難題に挑みます。大会当日も参加校同士で交流を深め、切磋琢磨し合うことが、ロボット技術の向上とそれを担う人材の育成につながっています。
今回、福島高専の選手として出場した機械システム工学科4年生の武田匠さんは、「『福島第一の廃炉』問題への興味が福島高専に進んだ大きな理由。震災から10年となる今年にそれに携わることができ、良い経験になりました」と喜びを語ってくれました。
東京電力福島第一原子力発電所
着実に進捗する廃炉作業の現在
福島第一原子力発電所の事故から10年が経過し、復興への取り組みが進展する一方、今なお避難を余儀なくされている方々が大勢おられます。再び安心して暮らしていただける福島とするため、復興と廃炉は車の両輪であり、安全確保を大前提に着実に廃炉を進めていく必要があります。
同発電所では現在、中長期ロードマップに基づき廃炉作業を進めています。その現状と今後の計画についてお伝えします。
廃炉に向けたロードマップ
福島第一原子力発電所では、廃炉・汚染水対策関係閣僚等会議で決定される「東京電力ホールディングス(株)福島第一原子力発電所1~4号機の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」に基づいて廃炉作業を進めています。ロードマップでは冷温停止後の期間を、使用済燃料取り出し開始まで(第1期)、燃料デブリ取り出し開始まで(第2期)、廃止措置終了まで(第3期)に分けており、現在は、ロードマップ中の第2期にあたります。
1~4号機で燃料取り出し着々
-
地震発生後の津波で非常用電源を失い、1~3号機は炉心を冷却できずに炉心損傷に至りました。また、その際に発生した水素が原因で1、3号機の原子炉建屋では水素爆発が起こりました。4号機は定期点検中で炉内に燃料がなかったため原子炉の損傷はなかったものの、3号機から流れ込んだ水素で原子炉建屋が水素爆発に至りました。
廃炉に向けては、各号機の建屋内使用済燃料プールに残された燃料を取り出す必要があります。4号機では2014年に取り出しが完了、3号機も今年2月28日に完了しました。1、2号機は取り出しに向けた準備作業や工法の検討などを進めています。
燃料デブリ取り出しへ準備進む
1~3号機の中には、原子炉内にあった燃料や燃料被覆管などが溶け、冷えて固まった「燃料デブリ」が存在します。これらも取り出す必要があり、ロボットで格納容器の内部調査を行うなどの準備を実施しています。
取り出しは2号機から始める計画です。2021年内の試験的取り出し開始を目標としていましたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響により英国で行われているロボットアームの開発工程に遅れが生じました。現在は2022年の開始に向け工程見直しなどを行っています。
汚染水・処理水対策の進捗
-
地下水や雨水が原子炉建屋に入り、放射性物質を含む水と混ざることで汚染水が発生します。汚染水は、多核種除去設備などで浄化処理してトリチウム以外の放射性物質の大部分を除去できます。現在発電所敷地内のタンクでは、保管中の国基準(敷地境界線量)を満足する状態で水を貯蔵しています。今後、国による処理水の取扱方針が定まり環境に放出することになった場合は、環境放出時の国基準(告示濃度比総和)を超えた保管水はトリチウム以外の放射性物質が同基準を満たすまで再浄化するとともに、トリチウムも同基準を満たすよう処理します。
タンクの計画容量は約137万㎥で、今年1月現在の貯蔵量は約124万㎥です。汚染水低減の対策を行ってきた結果、2020年の発生量は1日当たり140㎥となり、目標の同150㎥を前倒しで達成しました。しかし、このまま継続するとタンクは2022年秋以降に満杯となる見込みです。貯蔵を継続するためのタンクや使用済燃料・燃料デブリの一時保管施設など、今後の廃炉作業に必要な施設の設置に向け、敷地全体の利用について作業の進捗に合わせて検討を続けています。
電気新聞 特設サイト トリチウムの基本Q&A
このたび、電気新聞がトリチウムの基本を学べる特設サイトを開設しました。草間先生と小森先生に監修をお願いし、科学的根拠に基づいて、トリチウムや放射線について皆さまがお持ちの疑問、不安にやさしくお答えしています。ぜひご覧ください。
Twitterで停電・災害関連情報を発信しています
-
停電・災害情報を発信する専用のアカウントを開設しています。
台風や地震などによる停電情報、設備状況等について発信しておりますのでぜひ、ご覧いただくとともに、フォローをお願いいたします。電気事業連合会(停電・災害情報)
@denjiren_saigai
https://twitter.com/denjiren_saigai