FOCUS

2020.02

電力システム強靭化へ取りまとめ案
環境変化を踏まえ具体策提示

北海道胆振東部地震や2019年台風15号など相次ぐ自然災害を契機に、電力システムのレジリエンス強化の重要性が再認識されています。総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)は「持続可能な電力システム構築小委員会」(以下、構築小委)において、その具体策を議論しました。

2019年11月に設置された構築小委は集中的に議論を重ね、翌12月に「中間取りまとめ(案)」(以下、取りまとめ案)を提示しました。この中では、災害時の電力安定供給確保はもちろん、再生可能エネルギーの大量導入やデジタル化といった最近の環境変化も踏まえたレジリエンス強化の具体策がまとめられています。以下で、その内容を見ていきましょう。

復旧費用、相互扶助で

災害時の早期復旧のためには、関係者間の連携を強化する必要があります。取りまとめ案は、全国の各エリアを担当する一般送配電事業者同士の連携について定めた「災害時連携計画」をあらかじめ作成しておくことを制度上求めるべきだとしました。また、災害復旧にかかる費用については、全国大で負担し、費用を回収する「相互扶助制度」(図1)を創設すべきとしました。

一般送配電事業者同士にとどまらず、一般送配電事業者と自治体など関係行政機関の連携強化も重要です。取りまとめ案では、必要な場合に一般送配電事業者の持つ電力データを関係行政機関に提供するよう求める制度整備を進めるべきだとしました。こうした電力データについては、災害復旧対応だけにとどまらず、例えば、電力契約情報に基づく銀行口座開設の不正防止や、電力使用量に基づく運輸業の配送効率向上など、様々な活用が考えられます。ただ、これらのデータには個人情報が含まれるため、消費者保護に万全を期した仕組みづくりが重要になります。

(図1)相互扶助制度のイメージ

中間取りまとめ(案)より作成

連系線増強へ方向性

緊急時にエリア間で電力を融通したり、再生可能エネルギーの稼働率を高めて最大限に活用していくには、一般送配電事業者のエリアを結ぶ地域間連系線の増強を進める必要があります(図2)。取りまとめ案では、その費用に関し、他の審議会での議論も踏まえながら、増強に伴う3Eの便益(安定供給強化・価格低下・CO2削減)の受け手が負担することをあらためて確認しました。具体的には、▽広域メリットオーダー(費用の安い順に電源を稼働)による便益分は原則全国負担▽安定供給確保の便益分は、各地域の一般送配電事業者が負担することを前提に日本卸電力取引所(JEPX)の値差収益を活用▽再生可能エネルギー由来の効果分は再エネ特措法上の賦課金方式を採用── としました。

(図2)地域間連系線の増強計画

中間取りまとめ(案)より作成

一方、電力ネットワーク形成の考え方に関しては、「プル型」(電源からの個別の接続要請にその都度対応)から「プッシュ型」(広域機関や一般送配電事業者が主体的に電源のポテンシャルを考慮し、計画的に対応)への転換が重要だとしました。そのためには、中長期的な系統形成の方向性を示した「広域系統長期方針」や、費用対効果分析に基づき主要送電線の整備計画を定めた「広域系統整備計画」の策定が求められます。取りまとめ案はその上で、「広域系統整備計画」を届出制とし、国が関与することで系統増強が適切に行われているかを担保すべきだとしました。

発電事業者が送配電網を利用する際に支払う託送料金に関しては、制度見直しの議論を踏まえつつ、コスト効率化を促す観点から「収入上限制度」(図3)を導入すべきだとしました。収入上限の範囲内で一定の利益を確保できる仕組みになるため、一般送配電事業者がドローンやAI(人工知能)を使った効率化に自ら積極的に取り組むことが期待できます。取りまとめ案では、制度の詳細については今後詳細検討を進めるべきだとしました。

(図3)収入上限制度のイメージ

中間取りまとめ(案)より作成

分散化へ新制度を

近年の台風被害では、山間部などで停電復旧に時間を要した事例が多く報告されました。こうした地域を主要系統から切り離し、独立系統にすれば、長距離の送配電線を維持するコストが減り、同時に災害への耐性も高まると考えられます。取りまとめ案では、こうした特定の独立した地域においては、一般送配電事業者が系統運用と小売供給を一体的に行う新たな仕組みの導入が必要になるとしました。その際には、需要家の小売供給契約の自由が制約されることになるため、丁寧な説明を行い、理解を得る必要があります。

平時は主要系統とつながり、災害時は分散型電源を使って独立運用できる「マイクログリッド」にも期待が高まっています。この分野に新たな事業者の参入を促すには、一般送配電事業者から配電系統を譲渡・貸与できる「配電事業ライセンス」の導入が必要になります。取りまとめ案では、一般送配電事業者と同様の規律を課すことを基本としつつ、配電事業の特性に応じた規制内容にすることが適切だとし、今後の検討の方向性を示しました。また、災害時に電力需給が逼迫した際に効果的にアプローチできるよう、アグリゲーター(自家発や再生可能エネを束ねて電力卸供給を行う事業者)を、発電事業者と同様に経済産業相への届出制にすることも提案しました。

このほか、自由化の進展により発電事業者が新たな電源投資を行うのに必要となる長期的な予見可能性が低下していることを踏まえ、レジリエンス強化の観点から新たな制度措置が必要だと指摘。具体的な検討を深めるべきだとしました。

今回の中間取りまとめ案は、レジリエンス強化の方向性を示したものです。今後はこの方向性に沿って具体的な制度改正などが進められることで、電力システムを再構築し、中長期的な環境変化に対応できる強靭化を図っていくことが求められます。

国の審議会が台風15号の復旧検証
電事連、さらなる対応迅速化へ検討

2019年台風15号によって浮き彫りになった課題を検証するため、内閣官房に政府の検証チームが設置されました。本年度中に検証報告書を取りまとめる予定です。政府全体の検証に先立ち、電力分野の検証結果がこのほどまとまりました。

検証結果を取りまとめたのは、経済産業省の審議会「電力レジリエンスワーキンググループ」(以下、同WG)です。大規模な停電に見舞われた東京電力パワーグリッド(東電PG)などの検証結果を踏まえ、停電復旧に関する課題や対策の方向性を議論しました。電気事業連合会は、同WGの検証結果に記載された課題や対策に着実に対応していく考えです。今後は、災害復旧の迅速化に向け、一般送配電事業者間の連携に関する「災害時連携計画」の案を電力各社と共に作成していきます。

電事連では同WGにおいて、いくつかの事項については特に速やかに検討する方針を明らかにしましたので紹介いたします。

復旧や電源車に関する手順整備

台風15号における高圧線復旧対応においては、東電PGが初動時において他電力からの応援を有効に活用できなかった反省がありました。このため、復旧迅速化に向けたマニュアル(復旧手順書)を定めていく方針です。また、各社の電源車を他社が運転できるよう、操作手順を整備したり、万一損害が発生した場合の賠償の取り扱いについても整理していきます。東電PGの検証結果に基づく知見の共有や、各電力会社における関係機関との連携の好事例を業界大で学びあう体制も構築していきます。

地方自治体との連携強化

同WGでの審議を踏まえて、各電力会社は、各地方自治体に対して事前伐採のお願い、あるいは自治体による電源車派遣の重要施設拠点のリストアップなどについて協議してまいります。その際は、現場に近いところでの地域実態を踏まえた調整や創意工夫などをきめ細やかに反映しつつ協議させていただくものと考えております。

災害時の燃料確保

非常災害時の復旧活動に必要なガソリン・軽油の調達にあたっては、各電力会社において各地域の石油販売業者または小売販売店と優先供給に関する協定などを進めております。今後、想定される大規模災害に備え、優先供給に関する協定締結の促進などの対応について、国での議論を踏まえつつ検討を進めてまいります。
いずれにしましても、電事連としては各電力会社と協調しながら、さらなる電力レジリエンス強化に努めてまいります。

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