FOCUS

2020.08

強靭で効率的な電力システム構築へ
エネルギー供給強靭化法が成立

「エネルギー供給強靱化法」が2020年6月に成立しました。昨年の台風15号など相次ぐ自然災害を受け、電力システムのレジリエンス(強靱性)向上を図るとともに、再生可能エネルギーの導入拡大やそれに伴う国民負担の軽減を目指しています。

2019年11月、総合資源エネルギー調査会(経済産業大臣の諮問機関)に「持続可能な電力システム構築小委員会」が設置され、レジリエンス強化に向けた具体策を検討してきました。自然災害に備えるだけではなく、再生可能エネルギーの大量導入やAIの進化など急激な環境変化にも対応できるよう、電力システムを再構築するという観点で議論が進められました。

まとめられたエネルギー供給強靱化法案は、電気事業法、再生可能エネルギー特別措置法(FIT法)、石油天然ガス・金属鉱物資源機構法(JOGMEC法)の3法の改正案で構成されています。

電気事業法関係では、①一般送配電事業者間での「災害時連携計画」作成や復旧費用の「相互扶助制度」創設②自治体に必要な電力データを提供するための制度整備③地域間連系線の増強を促進するための制度整備④コストを効率化しつつ送配電網を強靱化するため、託送料金制度にレベニューキャップ(収入上限)を導入⑤配電事業にライセンス制を導入——などの改革を盛り込みました。

FIT法では、コスト競争力がある大規模太陽光発電や風力発電については、固定価格による電力全量買い取りFITから、市場価格に一定額を上乗せして買い取るFIPに移行します。

JOGMEC法では、有事に民間企業による発電用燃料の調達が難しくなった場合、経済産業大臣の要請でJOGMECが調達できる仕組みなどを導入します。

2022年4月の施行に向けて、今後は新しい各制度の詳細設計が進められます。特に「災害時連携計画」など自然災害時のレジリエンスに関する制度については、豪雨・台風シーズンに備え先行して検討が始まっています。

電力システムの強靱化

2019年の台風15号被害などを受け、電力システムの強靱化を図った 提供:電気新聞

レベニューキャップ制度
設備投資と効率化を両立

改正の目玉の一つが、託送料金制度へのレベニューキャップの導入です。

送配電網の強靱化やスマート化を進めていくためには、必要な投資を将来にわたって確保することが必要ですが、それによって生じる国民負担は最大限抑制しなければなりません。従来の「総括原価方式」は、必要な投資額に適切な利潤を上乗せする形で託送料金を決定しており、財源を確実に確保できる一方で、一般送配電事業者が効率化に取り組むインセンティブが働きにくい点が課題とされていました。

レベニューキャップ制度による利用者還元のイメージ

出典:持続可能な電力システム構築小委員会中間取りまとめより作成

新制度では、一定期間ごとに国が事業者に対して収入上限を設定します。上限の水準は事業者が提出する事業計画などを審査した上で決定します。事業者は上限を超えないように託送料金を設定し、企業努力によって費用を削減するとその分利益が増加するので、積極的に効率化に取り組むことが期待されます。

なお、事前に想定できなかった費用や、外的要因による費用の増減については、機動的に収入上限に反映できる仕組みとする方針です。

災害時連携計画
事業者間の応援円滑に

昨年の台風15号や19号で千葉県を中心に大きな停電被害が発生した際、他県や他電力から多くの応援が現地に送られました。それらは復旧の大きな力となりましたが、一部で社内外の連携がスムーズに行かなかったことが課題として指摘されました。

これを踏まえて強靱化法では一般送配電事業者に、事業者間や関係機関との連携体制を強化する「災害時連携計画」の整備を義務付けました。一般送配電事業者10社は早急に計画を策定、2020年7月9日に電力広域的運営推進機関(広域機関)に提出しました。

計画では主な取り組みとして、①復旧方法の統一②設備仕様の統一③被害状況等の現場情報収集のシステム化④電源車の稼働状況等のシステム化⑤電源車等の燃料確保方針⑥連携事例集の策定⑦共同訓練を整理しました。工法や情報収集システムなどを共通化して円滑に復旧を進められるようにするほか、⑥では地方自治体や自衛隊などとの連携事例を水平展開します。今後はこの計画に基づき、災害への備えと災害時の復旧対応をより強化していきます。

台風15号

台風15号では全国の電力会社から応援が集結した 提供:中部電力

FIP制度
太陽光、風力の自立化目指す

2012年度に開始されたFIT制度では、再生可能エネルギーで発電した電気をあらかじめ定めた固定価格で買い取っています。発電事業者は確実性の高い将来の収益を見込むことができ、再エネの急拡大に寄与しました。一方で買い取り費用は「賦課金」として電気料金に上乗せして全消費者から回収するため、普及拡大に伴って国民負担が重くなっているという課題もありました。

新しいFIP制度では、固定価格ではなく、電力の市場価格に一定のプレミアムを上乗せした価格で買い取ります。買い取り価格が変動するため、発電事業者にとって固定価格のときよりもコストダウンに取り組む意欲が高くなるとみられています。

FIPの対象となるのは、大規模な事業用太陽光発電と風力発電です。これらは現時点でも一定のコスト競争力があり、FIPへの移行を通じてさらにコスト低減を図ることで、できるだけ早くその他の電源と市場を統合する「自立化」を目指します。また、小規模太陽光やバイオマス、地熱、小水力などは「地域活用電源」と位置づけ、FIT制度が維持されます。

FIT制度とFIP制度

出典:経済産業省資料より作成

Twitterで停電・災害関連情報を発信しています