2024.09
脱炭素の切り札 ヒートポンプ
普及拡大へ政策支援を
カーボンニュートラル実現に向け、国際的にヒートポンプへの関心が高まっています。ヒートポンプは、大気熱などの環境熱を利用することで給湯や空調の大幅な省エネルギー化を図るシステムです。多くのメーカーから機器が展開され、社会の様々な場面で活躍していますが、2050年のカーボンニュートラル達成、GX(グリーントランスフォーメーション)実現へは一層の導入加速が不可欠です。そこで電気事業連合会は、国内での普及拡大へ向けた提言を打ち出しました。その要点について解説します。
普及拡大へ向けた6つの提言
電気事業者は供給側における化石燃料の利用削減へ向け、再生可能エネルギー(以下、再エネ)の導入拡大、安全確保を大前提とした原子力の利用推進、水素・アンモニアといった非化石燃料を使用する火力の開発推進などの施策に全力で取り組んでいます。脱炭素の実現には、これらに加え、需要側での電化の促進が重要です。
ヒートポンプとは、熱が高いところから低いところへ移動する性質を利用し、冷媒を圧縮して温度を上げたり、膨張させて温度を下げたりすることで大気熱などの環境熱を集めて移動させ、活用する技術です。投入した電気よりも多くのエネルギーを得ることができるため非常に高効率な技術で、ボイラーなどと比べ大幅な省エネを図ることができます。
一般財団法人ヒートポンプ・蓄熱センターが試算した、2050年カーボンニュートラル達成に向け電化が大きく進んだ想定のシナリオでは、ヒートポンプによるCO2削減効果は2020年度比で年間1億トンを超えます。これは、2020年度の「エネルギーを起源とするCO2排出量」約9.67億トンの約11%にあたります。ヒートポンプは、非常に大きなCO2削減のポテンシャルを有しているのです。
そこで電気事業連合会は次のような、6つの柱からなるヒートポンプ普及への提言をまとめました。
提言01:ヒートポンプ等の普及拡大の実現に向けた方向性の打ち出し
普及拡大に向けては、政策の方向性の明確化が重要です。現在、策定に向けて議論されている次期エネルギー基本計画に、需要側でのヒートポンプ等の導入を重点施策として明確に反映することが望まれます。
環境熱はエネルギー供給構造高度化法で「再エネ」と定義されています。次期エネルギー基本計画でも同様に、再エネであると明確に位置付けることが肝要と考えます。
提言02:ヒートポンプ等の導入等にかかるコスト支援の実施
ヒートポンプ機器の初期費用は燃焼系機器より高価となる傾向があるため、導入費用を調達する際の金利優遇措置や、導入時の補助対象・金額の拡充といった支援を行うことで、消費者や設備投資担当者がヒートポンプを導入するための動機付けとすることが必要です。
また、メーカー側にも税制上のインセンティブといった支援措置を講じることは、機器価格の低減や国内製造のメリット拡大による産業振興にもつながります。

一般財団法人ヒートポンプ・蓄熱センターホームページをもとに作成
提言03:ヒートポンプ等の導入促進を目的とした技術支援の拡充
ヒートポンプや蓄熱システムは「貯湯タンクを必要とする」などの特性上、一定の設置スペースが必要となります。スペース確保は普及拡大を阻む要因となることから、機器の小型化が必要です。また、産業用分野での普及拡大のためには、温度帯域の拡大といった機器の高度化が望まれます。メーカーがこうした技術開発に持続的に取り組めるよう、経済的支援が必要です。
また、相対的に導入が進んでいない寒冷地での普及拡大のため、外気温が低くても暖房能力が低下しない寒冷地向けヒートポンプ機器の量産化・性能向上に向けた技術支援を図り、価格低下や効率向上を促していくことも重要です。
提言04:ヒートポンプ等の設置主体(開発事業者、施工業者など)への支援
ヒートポンプ等は導入する側の認識不足から、設置検討の候補に挙がらないという課題が生じています。導入側の知識面の不足を補うための支援を行うことで、ボトルネック解消につながります。
また寒冷地はこれまでヒートポンプの導入割合が低かったことから施工業者自体が不足しており、工事費の高騰や工期の長期化といった問題が顕在化しています。施工人材の育成も対策が必要です。
集合住宅などでは、新築時に一旦導入された設備は、その後の転換が非常に難しくなる「ロックイン問題」が大きな課題として存在します。デベロッパーなどの開発事業者がヒートポンプ設置住宅の建設を積極的に行えるよう、啓発活動や導入支援などの環境整備を実施していくことが必要です。
提言05:ヒートポンプ・蓄熱システムの柔軟性(フレキシビリティ)活用促進
太陽光発電を中心とした再エネの導入進展に伴い、必要に応じて再エネの出力制御が行われています。2023年12月に経済産業省・資源エネルギー庁が公表した「出力制御対策パッケージ」では、ヒートポンプ給湯機の導入などを通じた日中の電力需要の創出・シフトが対策として打ち出されました。デマンドレスポンス(以下、DR)が対応可能となる機器開発が円滑に進むよう、電気事業者とメーカーが連携して検討していくことが必要です。
また、DRの拡大には消費者がインセンティブを実感し行動変容する枠組みが必要です。政府、電気事業者、メーカーなどが協調して検討を進め、枠組みの構成に必要な制度支援が行われることが重要です。
大規模施設などで導入される蓄熱システムも、DRに活用することで再エネ余剰電力の有効活用につながります。
提言06:ヒートポンプ等の技術の特性・利点の認知度向上に向けた働きかけ
ヒートポンプ技術の省エネ性能についてはある程度社会に認知されていますが、法律で再エネと位置付けられている環境熱を利用する技術であることはあまり認知されていません。情報発信の強化により、ヒートポンプが優先的に選択されるような機運につながることが期待されます。また、ヒートポンプは産業プロセスでも有用であることや、寒冷地でも対応可能であることといった最新の正しい情報を認知して頂けるよう、発信内容の充実にも努めていく必要があります。
2050年カーボンニュートラルの達成に向けては、政策的な位置づけを明確にした上で、メーカー、施工業者、金融機関、小売電気事業者など、関係する担い手がそれぞれ役割を果たし、業界の垣根を越えて、一体となって進めることが重要です。
電気事業連合会では、次期エネルギー基本計画の策定に向けて、ヒートポンプ機器等の利活用の推進を求めていくとともに、認知度向上に向けた広く一般への広報活動や、DR活用に向けた小売電気事業者への働きかけなど、積極的に取り組んでまいります。

ヒートポンプのエネルギー自給率向上効果
欧州ではヒートポンプで利用される環境熱は再エネとして計上されていますが、日本での環境熱の有用性に対する認知度はまだ低い水準にとどまります。2009年制定のエネルギー供給構造高度化法では再エネと定義されているものの、現状ではエネルギー自給率の算定根拠となる総合エネルギー統計などには反映されていません。日本の2020年度のエネルギー自給率は11.3%となっていますが、(一財)ヒートポンプ・蓄熱センターの試算によると、大気熱を計上すれば15.9%に改善します。さらに大気熱利用の拡大が見込まれる2050年度には21.9%にまで向上するとしています。
ヒートポンプ機器の普及拡大による大気熱利用の拡大は、化石燃料輸入への依存を減らすことにも大きく貢献し、エネルギー自給率向上につながります。これを消費者に明確に伝える観点から統計へ大気熱を計上することも、普及促進へ有効な施策といえます。

原子力バックエンド事業の確立に向けて
原子力発電の安定的な稼働に必要なバックエンドの取り組みについて、様々な動きがありました。
原子力発電所から発生する使用済燃料は、再処理により重量にして約95%が燃料として再利用できます。再利用できないものとして残った放射能レベルが高い廃液を、「ガラス固化体」に加工したものが高レベル放射性廃棄物です。
2020年11月に開始した北海道寿都町、神恵内村の高レベル放射性廃棄物等の最終処分地選定に関する文献調査について、2024年2月に調査実施主体の原子力発電環境整備機構(以下、NUMO)が調査結果を取りまとめた報告書の原案を経済産業省・資源エネルギー庁の審議会に提出しました。その後、同審議会で議論され、8月に報告書案の審議が終了し、大筋で了承されました。
文献調査とは、その地域の地質図などの文献・データや学術論文などを収集し、地層処分に関心を示していただけた地域の皆さまに事業を深く知って貰うとともに、次の調査に当たる概要調査を実施するかどうかを検討していただくための材料を集める事前調査的な位置づけの調査です。
報告書案では、寿都町については全域、神恵内村については村南部の一部エリアが概要調査の候補として示されました。今後、NUMOが報告書を完成させた後、北海道知事および寿都町長・神恵内村長へ報告書を送付し、公告・縦覧や意見募集、説明会などを実施する予定です。
2024年5月には、佐賀県玄海町が文献調査の受け入れを表明しました。寿都町、神恵内村に続く3自治体目です。
町の調査受け入れ表明を受け、NUMOは、玄海町での文献調査実施を盛り込んだ2024年度事業計画変更認可を経済産業相に申請。認可を得られたため、6月に調査を開始しました。
使用済燃料を再処理するまで安全に保管する中間貯蔵の取り組みに関しては、リサイクル燃料貯蔵(以下、RFS)が、リサイクル燃料備蓄センター(青森県むつ市)の操業を今秋に開始する予定です。同センターは、使用済燃料を原子力発電所敷地外で中間貯蔵する国内初の施設です。RFSに出資する東京電力ホールディングスと日本原子力発電から、燃料集合体を金属キャスク内に閉じ込めた形で搬出・輸送され、貯蔵建屋内に最長50年間保管する計画です。貯蔵建屋は2010年に本格着工し、2013年8月に完成を迎えていました。2024年8月には地元自治体や隣接自治体との間で安全協定を締結しています。
原子燃料サイクルの中心的役割を果たす日本原燃の使用済燃料再処理工場(青森県六ケ所村)は8月、竣工目標をこれまでの「2024年度上期のできるだけ早期」から「2026年度中」に延期する方針を示しましたが、安全性向上対策工事や審査プロセス全体は着実に前進しており、今後、設工認審査への対応を進め、新たな竣工目標の達成へ全力で取り組む姿勢です。
原子力事業者はバックエンドの確立へ向け、今後も一つ一つの取り組みを着実に進めていきます。
(本記事は2024年9月17日時点)