SPECIAL
ISSUE

2021.03

福島復興、未来を見据える取り組み紹介

東日本大震災から10年。福島では震災と原子力災害の影響が今も残っていますが、福島の方々の未来を見据えた奮闘により、復興は一歩一歩着実に進んでいます。
農作物や水産物では厳しい検査による安全・安心の確保を大前提に、新たな商品や販売方法を創出する人たちがたくさんいます。また、福島の魅力や伝統を確かに受け継ぎ、発信していこうという活動も活発です。そうした取り組みの一部をご紹介します。

ワンダーファーム(いわき市)

おいしいトマトで福島を元気に

2013年にオープンした体験型のトマト農場です。トマト狩り体験のほか、トマトジュースなどのオリジナル商品を購入したり、レストランで新鮮な地元食材を使った多彩なメニューを楽しんだりできます。
福島の素晴らしい作物や農家の存在を守り継ぎ、福島の元気を取り戻すためにワンダーファームは生まれました。「自分たちで作って、付加価値を高め、売る」という6次産業化を念頭に、「地域農業のハブ」を目指しています。
首都圏からのアクセスも良く、大人から子供まで楽しめるワンダーファームで、新鮮なトマトを味わってみてはいかがでしょうか。

所在地:福島県いわき市四倉町中島字広町1
店休日:月曜日(祝日などの場合は火曜日)、年末年始
公式サイト:http://www.wonder-farm.co.jp/

数種類のトマトの収穫体験などができる

数種類のトマトの収穫体験などができる 提供:ワンダーファーム

福、笑い

新しいおいしさ、今秋デビュー

全国屈指の米どころとして知られる福島。それにとどまらず、「日本一の米をつくりたい」との想いから14年をかけて生み出された新品種が「福、笑い」です。
特長は「かおり、あまみ、ふくよかさ」。料理人やお米マイスターからも、豊かな香りや甘み、柔らかさと粘りのバランスが絶賛されています。栽培できるのは、認証GAPを持ち、登録制度で認められた生産者だけ。加えて厳しい基準を満たしたお米だけが「福、笑い」を名乗ることができる「選ばれたお米」です。
今秋から本格的に販売開始予定。ぜひ、福島の人々の想いがつまった「福、笑い」を味わってみてください。

公式サイト:https://fukuwarai-fukushima.jp/

福、笑い

提供:福島県

福島の漁業

試験操業経て、本格操業再開へ

福島近海は暖流と寒流が交わる好漁場で、ヒラメやカツオなど多彩な水産物が「常磐もの」と呼ばれて高く評価されてきました。原子力災害後、沿岸漁業は操業自粛となりましたが、モニタリングなどを積み重ね、安全が確認された魚種に限って小規模に行う「試験操業」を2012年から開始。対象魚種を徐々に拡大してきました。
公的な検査に加え、水揚げした市場でも国より厳しい漁協独自の基準で自主検査を行うなど、安全・安心の確保に努めてきました。近年はほとんど放射性物質は検出されていません。
検査体制の整備に加え、生産・流通体制も一定程度復旧したことから、試験操業は3月末で終了し、4月から段階的に本格操業へと移行していく予定です。
新鮮な福島の海の幸を見かける機会も増えるはず。安心してお召し上がりください。

いわき市小名浜港での試験操業の水揚げ

いわき市小名浜港での試験操業の水揚げ 提供:福島県漁業協同組合連合会

相馬野馬追(重要無形民俗文化財)

勇壮さあふれる伝統の神事

東北を代表する祭りの一つ、相馬野馬追。お行列や甲冑競馬、神旗争奪戦、野馬懸など、一千有余年といわれる伝統を受け継ぐ行事が目白押しです。約400騎もの騎馬武者が集い、旗指物を背に疾走したり、御神旗を巡ってぶつかりあう様は勇壮そのものです。
相馬地方の平和と安寧を祈る神事として地域の人たちの熱意も強く、震災直後の2011年も規模を縮小しながら継続して開催、翌年にはほぼ例年通りの形で実施しました。
今またコロナ禍で、2020年は規模縮小・無観客での開催となりましたが、伝統と熱意に支えられた相馬野馬追は、必ずまた迫力ある姿を見せてくれるはずです。

開催日:毎年7月の最終土、日、月曜日
(2021年のスケジュールなどは、公式サイトでご確認ください)
公式サイト:https://soma-nomaoi.jp/

数百騎の騎馬武者たちが練り歩くお行列

数百騎の騎馬武者たちが練り歩くお行列

大川原地区(大熊町)

一歩一歩営みが戻る復興拠点

全町避難を余儀なくされた大熊町では、今も避難生活を続ける方々がおられる一方、一部地域では避難指示が解除され、少しずつ人々の生活が戻ってきています。その復興拠点となっているのが大川原地区です。
同地区は2019年4月に避難指示解除。5月には町役場新庁舎での業務が、6月には復興公営住宅への入居が始まりました。現在800人あまりが生活しています。
これまでに、仮設店舗や福祉・医療関連施設などがオープンしたほか、「フルーツの里」復活に向けいちご栽培施設「ネクサスファームおおくま」なども開設。町全体の復興につなげるべく、交流や産業の創出が進んでいます。今年4月に常設の商業施設、今冬までに交流施設・宿泊温浴施設が完成する予定。より快適で、にぎわいがある町になります。

新庁舎開庁を祝って作った人文字

新庁舎開庁を祝って作った人文字 提供:大熊町

福島へのメッセージ —— 柳沼淳子さん(フリーアナウンサー)

自身のルーツへの思い、
ますます強く

福島は私のルーツであり、3・11以降、福島のために何ができるかずっと考えてきました。イベントなどで全国を回って、福島の魅力や「いま」を発信する機会をいただく中で、私自身が福島の魅力を再発見し、震災から10年たっても思いは風化するどころかますます強くなっています。
イベントなどに関わっていて印象的だったのは、震災を機に、福島で若くエネルギーに満ちた生産者が増えていることです。福島にしかないものをつくろうと奮闘し、ギネスに認定されるほど糖度の高い桃やブランド牛、驚くほど美味しい野菜なども生まれていますし、情報発信やブランディングにも積極的です。
福島には食、観光、産業などでいいものがたくさんありますが、現在広島に住んでいて、まだまだ全国には知られていないと実感します。加えて、残念ながら放射線の風評被害も残っています。全国の皆さんには、福島の正確な情報を知っていただくとともに、例えばおいしいと思った食材を周囲に広めるといった形で福島を応援してもらえるとうれしいです。
広島は戦災から復興を遂げ、今や平和のシンボルになりました。街のあちこちで、子供たちが平和について自然に学び、考えられるような環境があります。福島も震災復興のシンボルとなるよう、記憶を伝える施設なども整備していってほしいです。そして多くの人に福島の魅力が伝わるよう、私も微力ながら応援と情報発信を続けていきます。

2016年に出演した「チャレンジふくしまフォーラム in 首都圏」

2016年に出演した「チャレンジふくしまフォーラム in 首都圏」

  • 柳沼淳子さん

    写真提供:セント・フォース

  • PROFILE Junko Yaginuma
    1978年福島県郡山市出身。青山学院女子短期大学在学中からアナウンサーとして数々のTVやラジオ番組に出演。震災後は、福島県知事が全国を巡り「ふくしまの魅力と今」を直接伝える「チャレンジふくしまフォーラム」の司会を務めるなど、復興支援活動に精力的に取り組む。子育て中の現在も、シニアワインエキスパートとして福島産の食材やお酒に関する情報発信、ワインエイドなどのチャリティーイベントを通じて応援活動を続けている。