SPECIAL
ISSUE

2020.08

「トリチウム」について、
専門家の先生にお話を伺いました。

福島第一原子力発電所では、放射性物質のトリチウムを含む処理水を、発電所敷地内で保管し続けています。現在、国においては、処理水の処分方法について、国民の皆さまのご意見もお聴きし議論を進めています。今号では、専門家の先生にトリチウムに関してお話を伺いました。

専門家の先生
東京医療保健大学名誉教授 草間 朋子 先生
日本理科教育支援センター代表 小森 栄治 先生

Q1トリチウムってなに?

トリチウムは水素の一種で、「三重水素」ともいいます。普通の水素は原子核が陽子1個だけですが、トリチウムの原子核は陽子1個と中性子2個でできています。トリチウムの原子核は不安定で、ある程度時間が経つと放射線を出し、安定的なヘリウムに変化します。

トリチウムは自然界にも一定の量が存在します。水分子(H2O)の一部として、水蒸気や雨水、海水、水道水などの中に広く存在しており、人体にも取り込まれています。

Q2放射線ってなに?

放射線の正体は、目に見えない粒子や光(電磁波)です。粒子の種類や光の性質によって、アルファ線、ベータ線、エックス線、ガンマ線、中性子線などがあり、それぞれエネルギーの大きさ、物体を通り抜ける力(透過力)が違います。

強い放射線は生物の細胞を傷つけ健康に悪影響を及ぼすことがありますが、一方で放射線のエネルギーや透過力は医療・工業・農業など様々な分野で役立っています。また、天然の放射線も存在しており、私たちは宇宙や大地、空気中、食べ物などからの自然放射線を四六時中受けながら生活しています。

Q3トリチウムを含む水だけ取り除くことはできないの?

水に溶けたり混ざったりした放射性物質は、ほとんどがろ過や吸着といった方法で取り除くことができます。しかしトリチウムは多くの場合「水」として存在しており、通常の水もトリチウムを含む水も化学的性質は変わりません。最新の技術でもトリチウムを含む水だけを分離するのは非常に困難です。

そのため、国内の原子力・放射線施設からは、ごく微量のトリチウムを含む排水が、国などが定めた排出基準を守った上で海洋や下水に放出されています。海外でも同じように海洋などへの放出が行われています。

どちらも水化学的性質は同じ

Q4トリチウムは体に悪いの?

トリチウムが出す放射線はベータ線です。トリチウムのベータ線はエネルギーが小さいため透過力が弱く、人間の皮膚も通り抜けられないので、体外のトリチウムによる健康への影響はありません。

普通に暮らしていても体内には微量のトリチウムが存在しますが、それで健康被害を受ける心配はありません。トリチウムは普通の水素と同様に、特別な動きをしたり特別に濃縮されたりすることなく、代謝によって体外に排出されます。

Q5原子力発電所から出るトリチウムが心配です

天然に存在するトリチウムも原子力発電所で発生するトリチウムも違いはなく、天然か人工かで区別して心配する必要はありません。トリチウムを含む排水は厳しい排出基準を守って放出されており、周辺住民などに健康影響が出たことはありません。

基準の例として、世界保健機関(WHO)では飲料水のトリチウム濃度を1リットルあたり1万ベクレル以下と提案しています。日本の原子力発電所近くの海で測ったトリチウム濃度は最大で同21ベクレルと、十分低いものでした。

MESSAGE

草間朋子 先生

多くの環境要因の中で、放射線は、人の健康影響に関するデータが豊富であること、ごく微量の放射線や放射性物質でも測定できる技術が開発されていることが大きな特徴です。どのくらいの量(被ばく線量といいます)の放射線を受けると、どのような影響が表れるかが研究で明らかにされています。

放射線の影響は、「放射線を被ばくした」ではなく、「どの程度被ばくした」かが重要です。私は長く放射線防護・安全の研究・教育に携わってきた経験を踏まえ、自然界にある放射線や放射性物質、X線診断などの身近な放射線を通して、被ばく線量の大きさを理解していただく活動を続けています。今回の記事が皆さまに理解を深めていただくきっかけになることを期待しています。

草間朋子 先生

小森栄治 先生

福島第一原子力発電所でたまり続けるトリチウムを含む処理水をどう処分するか問題になっています。海洋放出したら風評被害で打撃を受けると漁業関係者は心配しています。

トリチウムは水素の同位体です。同位体については来年度から中学でも学びますが、今までは高校物理で学ぶので、多くの方にとって初めて聞くような言葉となっています。トリチウムから出る放射線の強さなどは、大学で放射線を専門に学ぶか、積極的に本やネットで調べないと、知る機会もありませんでした。処理水の処分が問題になっている今こそ、トリチウムについて知る必要があります。トリチウムに対する理解が、風評被害を防ぐ決め手のひとつになるはずです。

小森栄治 先生

電気新聞 特設サイト トリチウムの基本Q&A

このたび、電気新聞がトリチウムの基本を学べる特設サイトを開設しました。草間先生と小森先生に監修をお願いし、科学的根拠に基づいて、トリチウムや放射線について皆さまがお持ちの疑問、不安にやさしくお答えしています。ぜひご覧ください。

電気新聞 特設サイト トリチウムの基本Q&A
https://www.denkishimbun.com/tritium_qa/index.html

QRコード電気新聞 特設サイト トリチウムの基本Q&A
電気新聞 特設サイト トリチウムの基本Q&A