• 立命館大学衣笠総合研究機構
    准教授
  • 開沼 博Hiroshi Kainuma
VOICE

2021.03

地域が自立した復興不可欠
多くの方の現地訪問が何よりも力に

東日本大震災から10年が経ち、福島県内の被災地域も日々復興が進んでいますが、将来に向けて復興はどのように進むべきなのでしょうか。震災直後から福島の復興に関わってきた開沼博先生に伺いました。

この10年でよくここまで進んできたと思います。インフラはほぼ復旧し、福島第一原子力発電所の事故による避難指示が解除された地域の帰還も進んできました。これからは、各自治体や地域の住民が自立して雇用・産業を育て、病院、学校といった生活基盤の上に、より魅力的な地域を作っていく力が重要な段階にきています。

最初の数年は先行きが見えませんでした。それでも、多くの自治体では首長が避難開始の相当初期の段階で「必ず戻る」と明言し、強固な意志を貫き通しました。これが住民に勇気を与え、今では例えば、事故を起こした福島第一・1~4号機がある大熊町には既に800人以上が居住し、元々過疎化が進んでいた川内村では住民の約8割が戻っています。こうしたことも、この10年間の成果だといえます。

今後、将来を見据えた産業振興策を考える必要がある中で、国家プロジェクトである「福島イノベーション・コースト構想」は、そのけん引役になりえます。実際、同構想に基づいて福島ロボットテストフィールドなど最先端技術の開発拠点が立ち上がり、国際教育拠点の誘致も進んでいます。また、廃炉作業はもちろん、それ以外にもエネルギー、農林水産業、医療といった分野で新たな技術や知見も生むための前提が整えられつつあります。今後、同構想が地元行政・企業や教育機関とうまくかみ合っていくことで、具体的な成果を生み出すことが求められます。常磐線・常磐道も開通しました。筑波研究学園都市のように、東京からの利便性を生かして、長期的な研究・教育・産業の基盤が確立すると良いですね。

復興が進んでいる反面、残念ながら風評問題は依然として残っています。科学的事実に基づかない認識が固定化されていることが背景にあります。これを払拭するには、国が先頭に立って科学的な事実の共有に努め、国内外に根付かせることが重要です。

震災と原子力災害を後世に伝えるために「東日本大震災・原子力災害伝承館」は開設されました。意識的に伝えないと当時の記憶や記録は簡単に消えてしまいます。宮城県や岩手県にも伝承施設があり、祠(ほこら)や石碑なども含めれば数百カ所にも及びます。これらを一体で巡って学べる「伝承ロード」が既にあることを対外的に知ってもらうことも、震災を後世に伝えるために重要です。同時に研究者を育てる必要もあります。自然災害にとどまらず、新たな社会危機に対応できる人材を育てる場になる必要があります。

伝承館の周辺地域も工場の誘致や農地の整備が進んでおり、物産店や酒蔵も戻ってきています。今後3年から5年で、双葉町をはじめこれまで放置されがちだった被災地の風景は大きく変わるでしょう。読者の皆さんには伝承館とあわせて福島の観光地をぜひ訪ねていただき、そこで感じ取った事実をより多くの方々と共有いただきたいです。福島地域と関わることは決してハードルが高いことではありません。「訪れてもらえばもらうほど嬉しい」というのが地元の率直な感覚だと思います。

(2021年2月3日インタビュー)

PROFILE

1984年福島県生まれ。東京大学文学部卒。同大学院学際情報学府博士課程単位取得満期退学。専門は社会学。2020年から東日本大震災・原子力災害伝承館上級研究員を務める。著書に『日本の盲点』(PHP研究所)、『はじめての福島学』(イースト・プレス)、『福島第一原発廃炉図鑑』(太田出版、編著)など。