• 東京大学生産技術研究所
  • 研究顧問 工学博士
  • 金子 祥三Shozo Kaneko
VOICE

2019.05

再エネ増加で迫られる対策
エネルギー源のバランスが不可欠

再生可能エネルギー発電の急増は二酸化炭素(CO2)排出削減などに貢献する一方で、電力安定供給への影響といった課題も現実のものとなりつつあります。各エネルギーの特性や国内外の電力システムの事情に詳しい金子祥三先生にお話を伺いました。

再生可能エネルギーは優れたエネルギー源ですが、太陽光や風力は天候などにより出力が変動するというデメリットもあります。この変動を補うには、①調整用電源を利用する②電気を貯めておき、必要なときに取り出す——という2つの方法があります。前者は出力の調整がしやすい火力発電が使われます。一方、後者は現状において、大量の電気を貯めることができ、コスト的にも安い蓄電池(バッテリー)がないため、揚水発電が最も一般的に使われています。揚水発電は、発電所の上下に貯水池を設け、余剰電力で下池から上池にポンプで水を汲み上げておき、必要な時に放水して発電する技術で、高低差が重要なため、山が多い日本に適した方法です。

昨年、宮崎県にある九州電力の小丸川揚水発電所を視察しましたが、すばやく出力調整ができる可変速発電機が採用されていました。これは日本が世界に誇る技術で、電力系統の規模が比較的小さい九州に大量の太陽光発電が導入されながらも電力の安定が保たれている裏には、こうした努力の積み重ねがあります。

また、九州本土では昨年秋以降、国の優先給電ルールに従い太陽光発電の出力制御が行われました。春・秋の天候が良く電力需要が少ない時期には、発電量が需要を上回ってしまう場合があります。火力の抑制や揚水の活用、他地域への送電などにより再エネを最大限活用して、それでも余る分は電力系統に接続しないという対応です。

こうしたケースに備えて、高コストの蓄電設備を準備すると不経済です。また、原子力などのベース電源は長時間一定出力での運転に強みがあり、短時間での出力調整に向きません。国民負担などの観点からも再エネの出力制御が、現状ではもっとも現実的な方法だといえます。

今後も再エネ導入量は増えていきますが、完全無欠なエネルギー源はありませんし、一つのエネルギー源に依存するのはセキュリティー面でも危険です。複数のエネルギーを組み合わせるバランスが大切です。

火力や原子力などの大型集中電源も役割はなくなりません。切り捨ててしまえば建設や運転の技術が失われてしまいます。電力システムは一朝一夕で構築できるものではありませんから、エネルギー全体を俯瞰して長期的な計画を立て、取り組んでいくことが重要です。

(2019年5月8日インタビュー)

PROFILE

東京大学工学部機械工学科卒業。工学博士。三菱重工業にて発電用ボイラの設計および石炭ガス化、太陽電池、燃料電池などの研究開発に従事し、特許取得150件。取締役・原動機副事業本部長などを歴任。2001年より(株)クリーンコールパワー研究所副社長として石炭ガス化複合発電(IGCC)25万kW実証機の設計・建設・運転を統括。2008年より2015年まで東京大学生産技術研究所特任教授(「先端エネルギー変換工学」担任)。2018年度日本機械学会賞(技術功績)受賞。