• 電力中央研究所
  • 主任研究員
  • 浜潟 純大Sumio Hamagata
VOICE

2019.08

温室効果ガス削減へ原子力は必要
新増設の判断も喫緊の課題に

電力中央研究所は今年4月、「2050年のCO₂大規模削減を実現するための経済およびエネルギー・電力需給の定量分析」と題した分析結果をまとめました。分析に携わった浜潟純大氏に内容を解説していただきました。

2015年に採択されたパリ協定に基づき、わが国では2019年6月に「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」(以下、長期戦略)が閣議決定されました。この長期戦略では、2050年までの温室効果ガス80%排出削減に向け、CCUS(二酸化炭素の回収・利用・貯留)等の新技術の活用が示されています。温室効果ガスの大規模削減の姿を定量的に示す既存研究でも、その多くでCCS(二酸化炭素の回収・貯留)や水素活用を考慮しています。しかし、こうした新技術は現状では未だ確立されておらず、2050年までにどの程度実現可能となるかも不確実です。そこで、本分析ではまず、既存のゼロエミッション(二酸化炭素等を排出しない)技術である原子力や再生可能エネルギーを活用し、2050年にCO₂排出量の80%削減(2013年の12.4億t-CO₂から2.5億t-CO₂に減少)を達成する電力需給の姿を示しました。

分析の前提条件には、2030年までは経済産業省による「長期エネルギー需給見通し」(以下、需給見通し)の想定を、2030~50年については独自の想定を利用しました。具体的には、電力需要の規模に影響を及ぼす経済成長率は、2030年までを需給見通しの年率1.7%、2050年までを独自に同0.5%と想定しました。省エネは、実質GDPあたりでみた最終エネルギー消費量の低下とし、2030年までは需給見通し並みの年率2.3%、2030年以降は足元20年間(1996~2015年)平均の同1.3%で進展すると想定しました。その結果、非電力部門だけでもCO₂排出量は80%削減の制約を超え、電力部門が仮にゼロでも排出量目標は達成できず、2050年の目標達成にはさらなる省エネの深掘りが必要であることがわかりました。

そこで、省エネが足元20年間平均の約2倍の年率2.7%で進むとして改めて分析したところ、2050年の電力需要は1.1兆kWhとなり、電化率も2030年の28%から2050年に50%まで上昇する結果となりました。この時、産業や家庭などの非電力部門のCO₂排出量は1.82億t-CO₂へ低下するため、電力部門の排出量を0.65億t-CO₂までに抑えることができれば、80%排出削減が達成されます。また、この場合の電力部門の排出量0.65億t-CO₂を前提とした2050年の電源構成を試算したところ、再生可能エネルギーはその時点で最大規模導入されることを想定し、太陽光3.56億kW、風力7,500万kWとした上で出力制御はしない条件とすると、ゼロエミッション電源比率は84%、そのうち原子力発電は18%(2,200億kWh)を占める見込みとなりました(図1)。この時、原子力は仮に86.7%という高い設備利用率を想定しても 設備容量は2,900万kW必要ということになり、この設備容量の達成には、例え全て60年運転可能であったとしても、現在再稼働しているプラントの他に、新規制基準下で設置許可申請済のものと未申請のもの、さらには700万kW程度の新増設が必要となります。

なお、計画段階のものが全て稼働した場合でも2050年以降の原子力の設備容量は減少し、特に2050~60年の10年間では1,400万kW程度減少する見込みです(図2)。このため、2050年以降のCO₂排出量増加を防ぐ観点からは、2050年以降の原子力の在り方についても検討することが重要と考えます。

ここまで、既存のゼロエミッション技術を活用した場合を検討しましたが、仮に原子力の新増設が無く、設置許可申請済の既設炉のみで80%排出削減を達成しようとした場合の選択肢としては、長期戦略でも言及されているCCUSがあります。CCUSは、原子力の設備容量減少を火力で補うことで生じる排出量の超過分を回収して貯留・利用し、80%排出削減を達成するものです。本分析からは、目標とする総排出量の1割以上に相当する0.3億t-CO₂程度を国内で回収し貯留・利用する必要があることも示唆されましたが、仮にこれを産業界で実施する場合には、相応のコスト負担が重荷となり、わが国の製造業の国際競争力に影響が及ぶ可能性も否定できません。

今回の分析では、2050年の80%排出削減に向けた電力需給の全体像を示しましたが、2050年時点で必要とされる原子力発電総量を確保するためには、国民の合意形成に加え、設備投資や工事期間の確保などが必要です。そのための時間的な猶予は決して長くなく、定量的な分析結果に基づいた具体的な議論と決断が求められます。

図1:CO₂80%減を達成する際の2050年の電源構成
図2:計画段階の発電所まで稼働した場合の2050年以降の原子力の設備容量の見通し

PROFILE

電力中央研究所 社会経済研究所 事業制度・経済分析領域主任研究員。2007年入所。専門はマクロ経済・エネルギー需要分析。