• エネルギーアナリスト
  • 大場 紀章Noriaki Oba
VOICE

2019.12

温暖化防止を考える難しさ
政治的決断も不可欠に

12月は「地球温暖化防止月間」です。温室効果ガス排出削減について考えるに当たって、どのようなことに留意すべきでしょうか?エネルギーアナリストの大場紀章氏にお話を伺いました。

「温室効果ガスを2050年に80%削減」という長期目標を考える際には、温暖化を防がねばならないという地球レベルの話と、気候変動交渉における国際政治上の日本の立場、そして我々の日常生活がどうあるべきか──など、様々なレイヤー(層)の話を同時に考えなければならない難しさがあります。国として高い目標を掲げることが間違っているとは思いませんが、日本のエネルギー供給を巡る環境を見ると、目標達成のためには相当な無理をしなければなりません。理想は分かるけれど、目標達成を前提に将来の事業を考えると手詰まりになってしまう、というのが産業界の本音ではないでしょうか。

では、どうすればいいのか。今後の技術的イノベーションに期待する、というのが一つの考え方です。革新的エネルギー・環境戦略など国の政策においても、水素エネルギー、CCUS(二酸化炭素回収・利用・貯留)、原子力発電の各分野でイノベーションが起きれば、温室効果ガスを大幅に減らせる、とされています。水素やCCUSについては、コスト目標も設定されています。

ただ、温暖化防止を優先しすぎると、他の政策的目標との間で齟齬が生じることにもなりかねません。例えば、温暖化防止の観点から考えると、CO₂排出量が多い石炭をまず減らすべきですが、エネルギー安全保障の観点からは、最も供給が危ぶまれる石油への依存を減らすことを優先すべきです。温暖化防止を優先する余り、エネルギー安全保障がなおざりにされてしまうことがあれば、非常に危ういと思っています。本来は、政治が責任を持って、もっと明確な方向性を示すべきで、そうしてもらわないと事業者の側も非常に動きにくい。原子力政策にも同じことが言えます。政治的な決断がはっきりしないから、そのしわ寄せがいろいろな所に出てきています。

こうした状況の中で、将来のエネルギー政策の在り方をどう考えていくべきでしょうか。私は、何のためのエネルギー供給なのか、という基本に立ち返るべきだと思います。“流行”に踊らされたり、“正義”を振りかざしたりするのではなく、人々の日々の営みを支える事業がどうあるべきか、ということをしっかりと念頭に置いて考えていくべきです。

(2019年11月21日インタビュー)

PROFILE

2008年京都大学大学院理学研究科博士後期課程を単位取得退学。エネルギー・環境・交通・先端技術分野の調査研究を行うシンクタンク・テクノバに入社。2015年よりフリーに転身し、日本データサイエンス研究所フェロー、Nanobell執行役員等も務める。専門は、エネルギー安全保障、材料化学、意思決定理論、人工知能応用技術等。