• 翻訳家/
    杏林大学 外国語学部 准教授
  • 関 美和Miwa Seki
VOICE

2020.08

世界をありのままに見るためには
まず自分の中の偏りを認識することが大切

データを基に世界をありのままに見ることの重要性を説く「FACTFULNESS(ファクトフルネス)」が世界的ベストセラーとなっています。同書の魅力と、そうした習慣を身に付け、実践する方法について、翻訳者の関美和さんにお考えを伺いました。

ファクトフルネスがこれだけたくさんの方に読まれている理由はいくつかあると思います。まずはこの本が指摘する、今ある世界をありのままに見られない原因であり、誰もが持つ「10の本能」について、色々な層の方に共感いただいたことだと思います。

もう一つは、世の中や未来のことについて「そんなに悲観的にならなくて良い」という内容です。特に日本でよく読まれているそうですが、日本人は世界の中で最も悲観的に考えると言われています。それと同様に、世界中で不安を抱える方々に響いたのではないでしょうか。この本は、世界では災害で亡くなる方や極度の貧困に苦しむ方が年々減っているなど、実は長いスパンで見ると世界は良くなっているという客観的な事実とともに、「人ってこういう傾向があるね」ということを、クイズや著者の失敗談を交えながら、分かりやすく平易な言葉で述べています。それが多くの方の心を捉えたのだと考えています。

ファクトフルネスを実践するためには、世の中をありのままに見られないのが人の常で、それが自分の中にもあることをまず認識することが大切です。例えば、高齢者の危険運転のニュースに触れると、「高齢者には運転させられない」と思ってしまいがちです。でもそこで一瞬立ち止まり、これはもしかしたら思い込みで、高齢者の中にも安全に運転している方や免許を返納している方がたくさんいるという事実が報道されていないのではないかと気づく、もしくは考えられるよう、訓練することが重要だと思います。

最近の新型コロナウイルスの関係でもそうですが、世の中にあふれる情報の中で何を信じたら良いのかが分からず不安に思い、この本を手に取る人も多いと聞きます。どんな世界でも両面の意見があり、「これが正しい」ということはありませんし、どんな人にも偏った見方があります。まずはそれを認識し、自分が強く反応する出来事に出会ったら、逆の立場から見たらどうなのかなと、あえて考えることが大切なのではないでしょうか。

(2020年7月29日インタビュー)

10の本能…①分断本能②ネガティブ本能③直線本能④恐怖本能⑤過大視本能⑥パターン化本能⑦宿命本能⑧単純化本能⑨犯人捜し本能⑩焦り本能

PROFILE

慶應義塾大学文学部・法学部卒業。電通、スミス・バーニー勤務の後、ハーバード・ビジネス・スクールでMBA取得。モルガン・スタンレー投資銀行を経てクレイ・フィンレイ投資顧問東京支店長を務める。主な翻訳書に、「アイデアの99%」(英治出版)、「TED TALKS」(日経BP社)、「ゼロ・トゥ・ワン」(NHK出版)など。アジア女子大学(バングラデシュ)支援財団の理事も務める。