• 京都大学複合原子力科学研究所
    教授 博士(工学)
  • 黒﨑 健Ken Kurosaki
VOICE

2020.10

日本の将来にはサイクル確立が必要
正確な情報発信し信頼向上を

使用済燃料の再処理や高レベル放射性廃棄物の最終処分など、原子燃料サイクルを取り巻くさまざまな取り組みが動き出しています。ではなぜ、日本にとって原子燃料サイクルが重要で、これからどのように進めていけばよいのでしょうか。サイクルについて詳しい黒﨑健先生にお話を伺いました。

六ケ所再処理工場が新規制基準に合格したのは、日本原燃のこれまでの努力が実ったものといえます。一方で当初計画より大幅に遅れたことは事実で、今後はその間どのようなことをしてきたかきちんと説明しながら、運転開始まで着実に進めてほしいと思います。

再処理を含む原子燃料サイクルが日本において必要な理由は大きく分けて3つあります。一つ目は資源の有効活用。原子力発電所から出る使用済燃料はただのごみではなく、まだ使える燃料が多く残っています。エネルギー自給率の低い日本では、そうした燃料を再利用していくことが必須といえます。二つ目は、再処理によって高レベル放射性廃棄物の量を減らしたり、有害度を下げられるということ。三つ目は、使用済燃料中のプルトニウムを燃料として使うことで、プルトニウム保有量をこれ以上増やさないようにできることが挙げられます。

サイクルの確立に向けて、再処理工場の次はMOX(ウラン・プルトニウム混合酸化物)燃料工場の稼働を目指します。それによって、軽水炉でMOX燃料を使用するプルサーマルのサイクルが完成します。さらに将来的には、プルトニウムをより積極的に燃料として活用する高速炉サイクルが目標となります。

ただし、サイクルを進めるうえで前提となるのが、使用済燃料の中間貯蔵と高レベル放射性廃棄物の最終処分です。ここをあいまいなままにしておくことはできません。ちょうどいま、北海道の自治体で最終処分の文献調査に関する動きが出てきており、私も注目しています。

地層処分という最終処分の方法については、技術的にほぼ確立されており、客観的に最も実現性の高い方法として、日本だけでなく世界の専門家の間で見解が一致しています。さらに一般に理解を広げていくには、正確な数字と根拠に基づく情報を発信することと、関係各所が着実に実績を積み重ねて信頼を得ることが必要です。また、スウェーデンやフィンランドなど先行して地層処分を採用し、検討を進めている国もあります。そうした事例を紹介することも安心感につながると思います。

最終処分のような問題を考えるときには、自分がいいと思う立場だけでなくその対となる立場についても良く知って比較することが肝心です。将来の世代へ宿題や負担を全く残さないことは難しいですが、できるだけ軽く、納得できる形で残せるよう考えることが大切ではないでしょうか。

(2020年10月2日インタビュー)

PROFILE

1997年大阪大学工学研究科原子力工学専攻博士前期課程修了。阪大准教授などを経て2019年4月より現職。専門は材料科学・原子力工学。核燃料・原子炉材料の物性評価や熱電変換材料の開発を中心に研究している。