- 日本エネルギー経済研究所
研究主幹 - 村上 朋子Tomoko Murakami
2022.05
資源小国としての危機感忘れず
「3つのE」バランスよく意識を
エネルギー安全保障への関心が高まっている昨今ですが、この問題自体は新しいものではありません。なぜ今それが顕在化したのか、そしてどう対応していけばよいのでしょうか。エネルギーと経済の関係に詳しい村上朋子さんに伺いました。
電力需給逼迫やエネルギー価格高騰に直面することで、多くの人がエネルギー安全保障を現実的な危機感をもって受け止めています。ただ、日本が資源小国なのは以前からわかっていたことで、問題が顕在化してから危機感を持つのでは遅すぎるともいえます。
今あるエネルギーのインフラや技術は、非常事態に備えて石油危機のころから何十年もかけて蓄積してきたものです。石油危機が起きる以前から開発を始めていた原子力、石油に代わる燃料の石炭や天然ガス、それに太陽光などの再生可能エネルギーや使う側の省エネなど、あらゆる方面で知恵を絞ってきた結果、電気やエネルギーはあるのが当たり前のものになりました。
しかしその後、福島第一原子力発電所の事故が起きて原子力のリスクが強く意識されるようになったり、気候変動問題への意識が高まったりする中で、相対的に安定供給が失われることへの危機感が低下していたのだと思います。
エネルギーを考える上で重要なのはバランスであって、一つの問題だけに意識が偏ることは避けなければなりません。具体的には「3つのE」、エネルギーの安定供給(安全保障)と経済合理性と環境適合性、すべてに意識を置く必要があります。現在はウクライナ危機もあって安全保障が強調されていますが、それで気候変動対策をおろそかにしていいということにはなりません。
3月に起きた電力需給逼迫はさまざまな要因がありますが、①東日本大震災以降、原子力の長期停止が続いていること②再エネの急速な普及により火力発電の採算性が悪化し、老朽発電所の廃止や新設計画の撤回が相次いだこと——などによって、電源の容量不足に陥ったことが背景にあります。これらは電力自由化を進める上である程度予測されていたことです。
対策として、火力などへの投資確保のため、「容量市場」が導入されました。非常時にも確実に活用できる発電設備容量に価値を付けるというものです。加えて、既に存在している原子力発電所を活用することは最も経済合理性がある選択肢といえます。もちろん原子力を再稼働させるには、定められたプロセスに則って審査を受け、安全性が確認される必要があります。その上で、原子力は3つのEのすべてに大きく貢献できる選択肢であることは認識してほしいと思います。
(2022年4月20日インタビュー)
PROFILE
1992年東京大学大学院工学系研究科原子力工学専攻修士課程修了、日本原子力発電入社。2004年慶應義塾大学大学院経営管理研究科修士課程修了。2005年日本エネルギー経済研究所入所、2011年より戦略研究ユニット原子力グループマネージャー。専門分野は企業経済学、原子力工学。