- 日本エネルギー経済研究所 専務理事
首席研究員 戦略研究ユニット担任 - 小山 堅氏Ken Koyama
2023.05
エネルギー安全保障と安定供給の確保へ
地政学リスク踏まえた対応を
エネルギー危機が世界的に深刻化する中、今後のエネルギー情勢の展望と、その中で日本が取るべき道筋はどのようなものか。国内外のエネルギー情勢に詳しい小山堅さんにお話を伺いました。
世界のエネルギー情勢を見極めるうえで、原油価格が80ドル超に高騰した2021年10月は一つの大きな節目だったと捉えています。エネルギー価格の高騰を受け、それまで市場原理を尊重していたEUが補助金の導入を決定し、さらに、欧州委員会委員長が「EUには安定したエネルギー源として原子力が必要」と発言し、最大の政策目標であった脱炭素化に加えてエネルギー安全保障の確保が最優先課題となる流れが明確になりました。
そのような中、エネルギー価格の高騰に拍車をかけたのがロシアによるウクライナ侵攻です。世界最大の化石燃料輸出国であるロシアのエネルギー輸出そのものが、ロシア依存の高い欧州をはじめ、世界各国のエネルギー安全保障のリスク要因として顕在化したのです。幸いにも、暖冬と中国の経済活動の停滞、そして大量の米国産LNG調達などによって欧州はこの危機を一時的に乗り越えることができましたが、原子力を全面廃止したドイツは当面、石炭の利用とLNGに頼らざるを得ず、今後、気温状況や中国の「資源爆食」復帰、供給支障の発生などで、エネルギーの世界的な争奪戦がこれまで以上に激しくなる可能性があります。
ウクライナ侵攻によって世界の分断は深刻化し、西側と中露の対立構造が表面化する中、日本がエネルギー安全保障と安定供給を確保するためには、地政学を意識した戦略が重要です。第三極として存在する東南アジアやインドのエネルギー転換を支援し、彼らに寄り添うことで関係の構築・強化を図るとともに、脱ロシアの観点から存在感を増す中東諸国との連携強化により、国際エネルギー秩序の維持に貢献するべきだと考えます。
日本では、電力需給がひっ迫する事態が昨年2度も発生し、電気料金と卸電力価格の上昇が重大な社会問題となりました。市場原理を活用したエネルギー政策の効用を活用することは大事ですが、競争が進めば、経済合理性の観点から供給余力が減り、エネルギー供給構造の脆弱性が高まる、という問題も生まれます。日本の経済・産業と私達の暮らしを守るためにも、エネルギーの安定供給を真剣に考える時期に来ています。
4月のG7札幌気候・エネルギー・環境大臣会合において、西村経済産業相が発したメッセージのとおり、エネルギー・気候変動問題において重要なのは、最終的なゴールは一つだが、各国はそれぞれの事情を踏まえて多様な道筋を選ぶべきということ。先進国を代表するG7には「地球益」を考えて議論し行動することが求められますが、その中で日本のイニシアチブ発揮が期待されます。
(2023年4月19日インタビュー)
PROFILE
1986年早稲田大学大学院経済学修士修了、日本エネルギー経済研究所入所。専門分野は国際石油・エネルギー情勢の分析、アジア・太平洋地域のエネルギー市場・政策動向の分析、エネルギー安全保障問題。常務理事・首席研究員を経て、20年から現職。政府審議会委員などを多数務める。近著に「エネルギーの地政学」(朝日新聞出版)など多数。