- ジャーナリスト
- 有本 香氏Ms. Kaori Arimoto
2023.08
リスクをしっかりと見つめ直し
立場や強みを踏まえた政策展開を
エネルギー分野は今、脱炭素に向けた大きな転換期にありますが、エネルギー安全保障を巡る様々な課題も明らかになってきました。現在の日本を取り巻くエネルギー事情を踏まえ、今後の日本のエネルギー安全保障や国際社会における立ち位置はどうあるべきでしょうか。国際問題や日本国内の政治問題など幅広い話題に精通するジャーナリストの有本香さんに伺いました。
日本のエネルギー安全保障が大きな脅威にさらされてきていると思います。日本は長らく石油の輸入を政情が不安定な中東地域に依存してきましたが、その輸送路であるシーレーンの安全が確保しにくくなっている現状があります。日本に近いところでは、南シナ海や台湾海峡を見れば明らかです。
また近年、中国が中東諸国への外交攻勢を活発化させており、日本の購買力が相対的に低下しています。まず石油に関して他の国に買い負けしないよう、外交などを通じて日本の優位性を立て直す必要があります。
一方、再生可能エネルギーの導入に国を挙げて注力していますが、性急すぎたのではないかと懸念しています。大規模に山地を開発する太陽光・風力発電所の建設に対して、地元住民の方からの不安の声が全国各地から届いています。外国資本の参入にも注意が必要で、すでに国防上の重要な施設の周辺に海外資本が再エネ施設を開発している事例もあります。
そうした中、岸田政権が政策を転換し、原子力発電所の再稼働や次世代炉開発などに取り組むと決めたことは、評価すべきでしょう。また昨今、円安などの理由から、日本企業が生産拠点を海外から日本へ戻す動きがありますが、原子力の稼働により、工場の操業に必要な電力を安定的かつ安価に供給することが可能となります。現に、工場の新設や国内移転に関しては原子力の再稼働が進んでいる九州地域が選ばれるケースが多いようです。
加えて、日本は世界的にも優れた火力発電技術を有していることも忘れてはなりません。むしろもっと世界へ輸出していくべきです。日本の高効率な火力発電で途上国における電力需要の増加をまかなうことができれば、経済発展とともに、CO2排出量の削減にも大いに貢献できます。私自身、途上国の政府関係者から日本の火力発電技術を求める声を聞くことがあります。
ロシアのウクライナ侵攻により、エネルギー安全保障上の課題が深刻化する中で、欧州が先導してきた脱炭素の潮流に追従するだけでなく、真に日本の国益にかなうエネルギー政策を進めるべきです。そして、何よりもこういった日本を取り巻くエネルギー事情を国民に知ってもらうことが重要だと私は考えています。
(2023年6月23日インタビュー)
PROFILE
1962年、奈良市生まれ。東京外国語大学卒業。雑誌編集長や企業広報を経て独立。国際関係や、日本の政治をテーマに取材・執筆・発信活動を行う。著書・共著に『中国の「日本買収」計画』(ワック)、『「小池劇場」の真実』(幻冬舎文庫)、『「日本国紀」の副読本学校が教えない日本史』(産経新聞出版)など多数。YouTubeにて『ニュース生放送 あさ8時』(月~金)を主宰。