- みずほ銀行 産業調査部
資源・エネルギーチーム 次長 - 田村 多恵氏Tae Tamura
2024.02
電化率上昇で将来の電力需要は増加
電源投資の環境整備が今後より一層重要に
2050年カーボンニュートラルに向かう中、中長期的な電力需要は電化率の向上に引っ張られる形で増加するシナリオが有力視されています。既存電源の経年化も進む中、電気事業者が供給力を確保していくにはどのような課題があるのでしょうか。電力広域的運営推進機関の「将来の電力需給シナリオに関する検討会」で委員を務める、みずほ銀行産業調査部次長の田村多恵さんにお伺いしました。
当行では中長期の電力需要について、2030年頃までは省エネ効果などで減少傾向、その後は、家庭・業務部門や運輸部門を中心に電化率(最終エネルギー消費量全体に占める電力消費量の比率)が高まっていくと見ており、2050年度の電力需要は約1.2兆kWh程度に増加すると想定しています(2020年度の発電電力量は約1.0兆kWh)。
我が国においては、カーボンニュートラルの実現に向けては「電化」が欠かせませんから、省エネは進みつつも電力需要は増加することを見込んでいます。既存の発電所の経年化が進んでいくことも考慮すると、現状の電源の体制では電力が不足することが想定され、中長期的に供給力をいかに確保していくかが重要になってきます。
再生可能エネルギー(以下、再エネ)の導入拡大は、国家としてのエネルギー自給率向上・脱炭素化を考えても重要なことです。しかし、天候等により再エネの発電が減少するときにも、頼りになる安定的な電源がしっかりと電力供給し続けられるようにしておく必要があります。
例えば需給バランスを調整できる揚水発電所ですが、このような大きな設備をこれからの日本でかつてのように作るのは難しいため、経年化が進んでいる既存の揚水発電所は守っていかなければなりません。揚水発電所の所有者が大手電力会社に限られることもあってか、国は積極的な支援を打ち出せずにいるように見えますが、揚水発電所の維持・更新、場合によっては新設に対して、十分な支援が行われるべきです。
火力発電所についても、稼働率が低下している状況で投資回収の予見性を持つのは非常に難しくなっています。火力発電所を新設しても投資費用を回収できるかが不安視されるようになり、固定費を回収できる仕組みとして長期脱炭素電源オークション制度などが整えられました。しかし、この制度は、卸電力市場などの他市場で得た収益の約9割を還付しなければいけないなど、民間の発電事業者にとって本当に魅力的か、十分な投資インセンティブとなるかという疑問点もあり、引き続き関係者で議論されていくべきだと思っています。
電気事業者も民間事業者である以上、様々なステークホルダーの理解を得ながら投資できる環境が必要です。国には、将来の電力需要の増加に対しても安定的に電力を供給できる電源の体制を整備するために、電気事業者が着実に投資を進められるような環境を整えていくことを求めたいと思います。
(2023年12月12日インタビュー)
PROFILE
2002年みずほ銀行入行。支店勤務、不動産ファイナンス営業部、産業調査部のアナリスト業務を経て、2023年4月より産業調査部資源・エネルギーチーム次長。総合資源エネルギー調査会(経済産業大臣の諮問機関) 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会委員、電力広域的運営推進機関 将来の電力需給シナリオに関する検討会委員などを務める。
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