- 電力中央研究所
グリッドイノベーション研究本部
ENIC研究部門 主任研究員 - 甲斐田 武延氏Takenobu Kaida
2024.09
欧米で熱を帯びる「政策支援合戦」
ヒートポンプ普及の鍵はエネ価格比率
世界的に脱炭素への切り札としてヒートポンプへの期待が高まっています。日本のメーカーが得意とする分野ですが、電力中央研究所の甲斐田武延主任研究員は「国内では普及が進みづらい状況にある」と指摘します。欧米各国が「支援合戦」ともいえる普及策を打つ中、日本に必要な施策を伺いました。
ヒートポンプは「脱炭素技術の中でも特に効率が高い」「エネルギー自給率を向上させられる」「エネルギーコストを削減できる」といった特長があり、「カーボンニュートラル」「エネルギー安全保障確保」「経済成長」の同時達成に有効です。欧米各国では閣僚級の政策当事者もこうした特長を認識しており、「支援合戦」ともいえる施策を打ち出しています。
例えば各国とも民生用の暖房や給湯の分野で、補助金や税控除による導入支援を行っています。エネルギー効率が比較的下がりやすい寒冷地向け機器については技術開発・実証の支援を行っています。米連邦政府はヒートポンプを国防上重要な製品と位置付け、「国防生産法」に基づき国内生産を強化しようと、資金を投入し、工場の新設や拡張を進めています。
日本も導入支援は行っていますが、普及が進みづらい状況にあります。その最大の要因が、2次エネルギー価格比、つまりガスと電気の価格比です。日本では、電気料金に再生可能エネルギー発電促進賦課金(以下、再エネ賦課金)が加算されています。
例えばドイツは、再エネ賦課金を廃止して再エネ支援の費用を税で賄い、電気料金だけでなく社会全体で負担することにして、ガスと電気の価格比を縮めました。英国は、燃料価格に再エネ導入費用を乗せることによる「リバランス」を検討しています。日本も電化を阻害している環境の改善が必要と思われます。
欧州ではヒートポンプのエネルギーである環境熱を再エネと位置付け、エネルギー統計の中でも既に反映しています。日本も一部法律でそう位置付けてはいるものの、実際はその熱量をカウントしていない状況です。統計に反映されると、見える化され、認識も変わってきます。これも普及にあたり大事なことと思います。
(2024年7月29日インタビュー)
PROFILE
2011年3月九州大学大学院工学府機械科学専攻修了。同年4月電力中央研究所入所。主に産業用ヒートポンプの技術開発や技術展開に関する研究に従事。2019年6月から2020年3月までフランス電力(EDF)ルナルディエ研究所訪問研究員。国際エネルギー機関(IEA)ヒートポンプ技術協力プログラムAnnex48(産業用ヒートポンプ)、Annex58(高温ヒートポンプ)の委員を歴任。
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