◎ 8月が夏休みということで、2か月ぶりの定例会見。よろしくお願いしたい。
◎ 本日、私から申し上げるのは、2点。1つは、この夏の電力需給について。もう1点は世界
原子力発電事業者協会=WANO(World Association of Nuclear Operators)の隔年総会について。
◎ まず、この夏の電力需給について。
○ 今年の夏の天気は、太平洋高気圧が北に偏った影響で、関東甲信越より東では猛暑となった一方、中国地方より西ではぐずついた日が続き冷夏傾向となった。
○ 資料-1の1のグラフをご覧いただきたい。7、8月2か月間の最高気温の推移が示してあるが、関東甲信越より東は平年に比べ平均で1.5℃も高めだったのに対し、中国より西では反対に0.6℃のマイナスとなっている。 グラフの下に、全国10都市の今年の「真夏日」の発生日数と平年との差を参考として載せておいたが、同様の傾向が読みとれる。
○ こうした状況を受けて、資料の右側2の表にあるとおり、北海道電力、東北電力、北陸電力の3社が最大電力、日電力量ともに記録(北海道は夏期記録)を複数回にわたって更新しているが、その他の電力については当初の予想を下回り、記録更新には至らなかった。 この結果、この夏の10社計の最大電力は、8月4日(水)の1億6,866万kW(過去最大比
-247万kW、98.6%)で、1996年以降4年連続して過去最大を下回った。 一方、10社計の日電力量については、同じく8月4日(水)に30億9,888万kWhとなり、昨年に比べてプラス0.2%、695万kWhの増と、わずかであるが2年連続して記録を更新した。
○ 以上のように、今年の夏の最大電力はこれまでの記録を 250万kW程度下回る結果に終わったが、実績を分析すると、記録更新の可能性は十分にあったと考えている。 資料の右側3のグラフをご覧いただきたい。この夏の10社計の最大電力の「気温感応度」を78月の平日のデータから分析すると、気温が1℃上がる毎に電力需要が約490万kW(前年差+10万kW/℃)ずつ上昇する傾向が見られる。 すなわち、今年のピークを記録した8月4日の最高気温は全国平均で(10都市加重平均)33.9℃であったが、もし、この日の気温が全国的に1℃高ければ、過去最大を十分に上回っていた計算になる。
○ 最大電力の更新もなく、数字の上ではかなり余裕があったように見えるこの夏の電力需給であるが、地域による天候のバラツキや、ちょっとした気温の違いなどでそうなったものであり、気候条件が揃えば、ほぼ当初の予想(1億7,664万kW程度)どおりの需給状況になったのではないかと考えている。
◎ 以上がこの夏の需給状況であるが、皆さんのご関心が高 い産業用の大口電力需要の動きについても、一言申しあげたい。
○ 7月の販売実績については、先月末に確報を発表したので皆さんご承知のことと思う。 産業用の大口電力は、7月もマイナス1.5%と1997年1月以来、19か月連続で前年実績を下回り、過去最長であった第1次オイルショックの時(1974年6月〜75年11月)を追い越し、ワースト記録となってしまった。
○ ところで、産業活動の実態は、電力会社の販売電力量に自家発分を加えた「自売計電力量」の数字により的確にあらわれる。 資料の2枚目の一番下の表の(b)の欄をご覧いただきたい。自売計電力量は、昨年2月に前年実績を下回って以降、今年の5月まで16か月連続でマイナスの伸びとなっていたが、この6月と7月は、わずかではあるが2か月連続でプラスとなっている。
○ また、表の上の「大口電力カーブ」をご覧いただきたい。 このグラフは、私どもが景気を判断する際に参考にしているもので、一般に、自売計電力量の伸び率が契約電力の伸び率を上回わると「景気拡大期」、逆に下回ると「景気後退期」、グラフの交差点が「景気の転換点」に概ね一致するという特徴がある。 これを見ると、一昨年の11月から今年5月までは、自売計電力量の伸びが契約電力の伸びを下回るという「景気後退期」の特徴が続いていたが、やはり6月、7月は、グラフが逆転している。
○ いずれのデータも、変化の幅が小さく、また2か月の実績だけで景気を云々するのは早計だが、少なくとも数字の上では、景気は依然厳しい状況にあるものの、底打ちの兆しが見えつつあるようだ。
◎ つぎに、WANOの隔年総会について。 今月、20日と21日の2日間、カナダのヴィクトリアでWANOの隔年総会が開かれる。
○ お手許の資料-2をご覧いただきたい。 WANOとは、1986年に起きたチェルノブイル原子力発電所の事故を契機に、1989年に設立された民間組織で、今年で10周年を迎える。 現在、世界約130
の発電事業者が加盟しており、政治的な要素を抜きにして、原子力発電所の安全性や信頼性の向上のために、相互に情報交換や技術支援を行っている。 わが国では、9電力会社のほか、日本原電(株)、電中研、核燃料サイクル開発機構が参加している。
○ 総会は、2年に1度開かれ、会員である全ての事業者が 一堂に会して、WANOの活動方針を協議したり、原子力 発電全般について幅広い意見交換を行っている。 10周年となる今回の総会には、世界35の国・地域から131事業者約350名のメンバーが集まる予定であり、日本からも、各社の社長をはじめ原子力関係者が多数参加する予定。 私自身も、世界4つの「地域センター」のひとつである「東京センター」を代表して、わが国の原子力の現状等について話をすることになっている。
○ 「喉元すぎれば熱さを忘れる」という諺があるが、チェルノブイル事故から10年以上が経過し、事故の記憶の風化は進んでいるし、さらに世界全般にわたる原子力発電所の運転実績の向上、原油価格の低下傾向、規制緩和によるエネルギー間競争の激化など取り巻く環境の変化によって、残念ながら事業者のWANOへの参加意欲に低下の兆しが見られるようだ。
○ そうした一方で、アジア地域では、欧米とは対照的に原子力開発を積極的に推進している国が数多くある。現在、WANO東京センターがカバーする地域内には、運転中の86基に加え、建設中の原子力発電所が24基、計画が明らかになっているものが20基以上もあり、さらに、ベトナム、インドネシア、タイ、マレーシア、そして北朝鮮など、今後原子力発電所を保有する可能性のある国も多数存在している。
○ これらのなかには、情報面で閉ざされ安全に課題が残 る国や、原子力発電の建設や運転管理に十分な経験を持た ない国がある。 また、西欧やアメリカ、日本などのように、高い安全水準を達成している国々であっても、技術者が事故やトラブルを経験する機会が減少するなかで、安全に対する過信や緊張感の薄れなどが生じたり、あるいは自由化の進展による経済性向上への圧力が、原子力発電の安全性を低下させるのではないかと心配する声もある。
○ 原子力発電の場合、どこかのプラントでひとたび厳しい事故が起これば、影響はすぐさま全世界の事業者に及ぶ。ましてや、もう一度チェルノブイル級の事故が起きるようなことがあれば、商業用の原子力利用は道を閉ざされてしまう可能性が大きい。 そうした意味からも、私は、世界の全ての原子力発電事業者が原子力発電所の安全性、信頼性の向上という共通の目的の下に交流し、経験や情報を共有し合うというWANOの役割は、今後とも大変重要であると考えており、今回の会議でも、WANOのさらなる活性化を訴えるとともに、日本の事業者が、世界各国の原子力の安全性向上について、最大限の努力を払う考えであることを伝えてまいりたいと考えている。
○ 私からは以上。