放射能汚染廃棄物の「出口」

vol.03

(独)国立環境研究所
資源環境・廃棄物研究センター センター長

大迫 政浩氏

京都大学大学院工学研究科博士課程修了。旧厚生省の研究所を経て、(独)国立環境研究所に異動。2011年4月から現職。専門は廃棄物工学。震災以降、東北被災地の災害廃棄物対策について、現地の技術支援に奔走。放射能汚染廃棄物問題の対処においては、環境省における技術基準策定のための科学的基盤作りの役割を担ってきた。震災復興対応の研究活動は(独)国立環境研究所のHPで紹介。

Web site
http://www.nies.go.jp/shinsai/index.html

放射性物質に汚染された廃棄物への対処において最大の問題は、処分先という「出口」の確保です。放射性物質汚染対処特別措置法が8月末に制定され、今年の1月1日から本格施行となり、法運用のためのルール(施行規則:環境省令)や各種のガイドラインなど、当面必要なものは出そろいました。しかし、ルールだけでは問題は解決しません。ルールに基づいて、汚染廃棄物の適正処理を進めていくための仕組みと体制づくりが必要です。
広く汚染された地域の環境の早期回復を図るために、除染措置の推進が図られています。しかし、除染作業を行えば除染廃棄物や汚染土壌が生じることを忘れてはなりません。それらの「汚染廃棄物」をどうするのか?その出口がなければ、行き場を失った汚染廃棄物は地域環境の中に堆積されていくことになり、除染自体もストップすることになるでしょう。出口としての処分先を確保することが必須です。高線量地域では、ごみの焼却灰が処分できずに施設内にストックされており、置き場の確保が出来なくなって「ごみ処理」という都市機能自体が停止する寸前のところもあります。一時的な集中保管場所だけでも確保できれば、そのような自治体の窮状を救うことが出来ます。
そして、「出口」に応じた処理技術(焼却や再資源化など)の新たな思想が必要になっています。「薄めて処分するのか、濃くして処分するのか、分散型で処分するのか、一括集中型で処分するのか」といった方針について、国民全体で早急に社会合意を図り、その方針に基づいて処理技術を開発し、高度化し、適用していかなければなりません。私自身は、出来るだけ分離除去した放射性セシウムを濃集し減容化を図って、国が都や県などと連携しながら一括管理していく方向が正しい姿だと考えています。
私たちの研究所では、放射能汚染廃棄物の問題は研究の範疇ではありませんでしたが、被災した方々の汚染された生活環境を早期に回復することが使命だと考え、この問題に研究者の立場で果敢に取り組んできたつもりです。その結果、現在の廃棄物処理処分の技術が、放射性セシウムの長期的な管理に十分適用でき、地域環境のリスク低減のために重要な機能を果たせるものだと確信しました。今、日本のマネジメント能力が問われています。お互いに責任転嫁するのではなく、行政、産業界、研究者、そして国民一人ひとりがこの問題に真剣に向き合って初めて、魅力ある国民性をもつ新しい日本に変わっていけるのではないでしょうか。