安全の追求 やる気は表情が語る

vol.07

スポーツジャーナリスト・大阪芸術大学教授

増田 明美氏

1964年、千葉県いずみ市生まれ。成田高校在学中、長距離種目で次々に日本記録を樹立する。1984年のロス五輪に出場。92年に引退するまでの13年間に日本最高記録12回、世界最高記録2回更新という記録を残す。現在はスポーツジャーナリストとして活躍。2007年7月には初の小説「カゼヲキル」(講談社刊)を発表。2001年から10年間、文部科学省中央教育審議会委員を務める。厚生労働省健康大使。

銀杏並木がまるで金色の灯りのよう。夏に開催されたロンドンオリンピック、パラリンピックの日本選手達の活躍が蘇る。先日重量挙げ女子48キロ級で銀メダルに輝いた三宅宏実さんとお父様の義行さんにお会いした。宏実さんは楚々とした人で、私服だととても競技者には見えない。義行さんはメキシコ五輪の重量挙げフェザー級銅メダリスト。しかし敢えて娘には同競技を強制しなかったそうだ。何故なら「本人がやる気にならなければ、頑張り切れませんよ」と義行さん。宏実さんが重量挙げを始めたのは15歳の時だった。シドニー五輪でその競技をテレビで観て心を打たれ、「私もやりたい!」と。目を輝かせて話す娘の覚悟が本物かどうか、父は3カ月間観察し確かめた。そして12年計画を立て、親子で見事銀メダルに輝いたのである。

平成22年に点検不備を公表した中国電力島根原子力発電所。その後発足した安全文化醸成のための会議に委員として参加している。地元の委員から厳しい意見が多い。「誓いの鐘」を設置する報告があった時も「そんなカタチだけのものは要らない」と。でもその時に「その鐘を見るたびに肝に銘じたいのです」と厳しい顔で言われた副社長さんの顔が目に焼き付いている。

中国電力の本気度はホームページに公開されている不適合情報からも見て取れる。「管理事務所の消火栓の水漏れ」まで記載。全てを公開する施策は「言っても無駄」という意識を排除するだろう。また地元との対話も重視している。10月初旬の会議、所長さんが真っ黒に日焼けした顔で現れたので尋ねると、地元の運動会やお祭りなどで日焼けしたとのこと。見学会や定期訪問など小まめに行っているようだ。

原子力発電が必要であることは多くの人が理解している。安全対策に原子力規制委員会が旗を振ることも重要だが、一番大事なことは、電力会社や協力会社の社員一人ひとりの「安全を追求するんだ」という“やる気”だと思う。国民はそのやる気を注視している。