FOCUS

2022.09

脱炭素とエネルギー安全保障の両立へ
欧州で原子力利用拡大の動き

欧州で原子力発電の利用拡大に向けた動きが広がっています。欧州連合(EU)が環境面から持続可能な経済活動を分類する「EUタクソノミー」では、原子力も対象に含まれることになり、今後の投資拡大が期待されます。各国も新たな原子力政策を打ち出しており、脱炭素とエネルギー安全保障強化に貢献できる原子力の役割が再評価されています。

「持続可能」と認定

EUタクソノミーは2020年7月に施行されましたが、原子力を含めることについては判断が先送りされてきました。原子力は発電時に二酸化炭素(CO2)を発生しない電源ですが、万が一の事故時のリスクや放射性廃棄物をタクソノミー上どう考えるべきか議論が続いていたためです。

こうした中、EUの欧州委員会は原子力を条件付きでEUタクソノミーに含める委任規則を2月に提案。審議を担う欧州議会とEU理事会もこれを実質的に承認し、2023年からEU域内で適用されることになりました。

原子力がEUタクソノミーに適合するための条件として、新設の場合は2045年までに建設許可の取得が必要で、既設の場合は2040年までに運転延長認可の取得が必要です。さらに、運用可能な低・中レベル放射性廃棄物の処分施設を有することや、2050年までに高レベル放射性廃棄物が処分できるよう詳細な計画を策定していることなどを求めています。

EUタクソノミーは脱炭素に必要な資金を供給する「サステナブル・ファイナンス」の第一歩として位置付けられています。企業や投資家は、経費や投資額のうちEUタクソノミーに合致するものの割合の開示を求められます。今回、原子力がEUタクソノミーに含まれたことで、原子力への投資が拡大することが期待されます。

各国も活用策打ち出す

欧州各国では、クリーンで安定的な電源として原子力の利用継続・拡大に舵を切る動きが相次いでいます。ロシアのウクライナ侵攻に伴い、エネルギー安全保障の重要性への認識が強まったことも大きな理由の一つと言えるでしょう。

フランスでは、マクロン大統領が2月に行った演説で、2050年までに6基の原子力を新規稼働させるとともに、さらに8基の建設について検討を始めると表明しました。7月にはボルヌ首相が、フランス電力(EDF)を完全国有化し、政府の支援のもと原子力新設を推し進める方針を示しました。

英国政府は4月、2030年までに最大8基の原子炉を新設し、2050年に電力需要に占める原子力発電の比率を現行の約15%から25%に高める方針を掲げました。また、年内にも新規建設を支援する政府機関を設立し、投資や建設の支援を行うこととしています。

目下の供給力対策としての原子力活用の動きもあります。2022年末に脱原子力を完了する予定だったドイツでは、9月に政府が最後に残った3基のうち2基を今冬の非常用予備電源として位置付けると発表しました。予備電源とする2基は2023年4月中旬に閉鎖する予定です。政府は3月に3基の運転を延長しない方針を示していましたが、エネルギー危機の深刻化で原子力の活用継続を巡る議論が再燃。8月の世論調査では、運転延長を支持する回答が約8割に達していました。

図:欧州諸国の原子力発電に関する動き

日本でも新たな方向性

日本でも原子力政策に関する新たな動きがありました。岸田文雄首相は8月の「GX実行会議」で、年末までに「再稼働に向けた関係者の総力の結集」「安全性の確保を大前提とした運転期間延長等既存原発の最大限活用」「次世代革新炉の開発・建設」等に関する具体的な検討を行うよう関係省庁に指示しました。また、来夏以降の電力供給力確保策として、原子炉設置変更許可済みの7基の原子力発電所を新たに再稼働させる意向も示しました。安定供給の再構築とカーボンニュートラルの実現に向け、あらゆる方策を総動員するとの検討の方向性が示されたと言えるでしょう。

YouTube動画「ウクライナ危機とエネルギー」を公開

  • ウクライナ危機などの国際動向と日本のエネルギー事情の関係性を紐解きながら、今後の日本のエネルギーのあり方について考察する動画「エネルギーアカデミー ウクライナ危機とエネルギー ~日本への影響は!?~」を電気事業連合会公式YouTubeチャンネルに公開しました。エネルギー業界の第一人者である株式会社ユニバーサルエネルギー研究所の金田武司氏と人気お笑いトリオ「四千頭身」の皆さんが、ユーモアを交え解説します。ぜひご覧ください。

    サイトはこちら
    https://www.youtube.com/watch?v=upD4W3sd6q8

  • 10分で解説 エネルギーアカデミー

レベニューキャップ制度を導入
投資確保と効率化の両立へ

2023年4月に新たな託送料金制度「レベニューキャップ制度」が導入されます。新制度では、一般送配電事業者が一定期間の事業計画と収入上限について経済産業省の承認を受け、その上限を超えないように託送料金を設定します。送配電網の更新・増強と電力の安定供給に必要な設備投資を確保しつつ、コスト効率化を促すのが狙いです。

託送料金とは送配電網の利用料金のことです。送配電網を所有・運用する一般送配電事業者は、現行では、送電した電力量などに応じて小売電気事業者から託送料金の支払いを受けています。託送料金は最終的に消費者が負担しており、電気料金に占める託送料金の割合は4割程度となっています。

送配電事業は変化に直面

この託送料金で運営される送配電事業は、現在、大きな事業環境の変化に直面しています。

2050年度のカーボンニュートラルの実現に向けて、主力電源となる再生可能エネルギーを支える送配電網の増強やレジリエンス(強靭性)向上が急務となっていることに加えて、現在運用されている送配電設備の多くは高度経済成長期に整備されたもので、設備更新への投資が大幅に増加する見込みです。

一方で、人口減少や省エネの推進などにより、電力需要は2030年に向けて漸減する見通しで、事業者は経営効率化などにより費用の抑制が求められています。

こうした中、送配電網の更新・増強を着実に進めて電力の安定供給を維持し続けるために、徹底した効率化施策による費用減を織り込んだ上で、近年激甚化している自然災害への対応などの様々な環境変化に対応する観点からも、将来にわたって電力設備の強靭化などに必要な投資を確保していく必要があります。加えて、国民負担の増加は可能な限り抑制されなければなりません。この課題を同時に達成するために導入されるのがレベニューキャップ制度です。欧州では、再エネを大量導入する中で必要な投資の確保・コスト効率化を促す同制度が既に導入されています。

図:電気料金の構造と託送料金

資源エネルギー庁ホームページをもとに作成

新制度の仕組みは

現行制度の「総括原価方式」では、電気の安定供給に必要な全ての費用(設備修繕費や人件費など)を総括原価として託送料金が決定されます。事業者が効率化で生み出した利益は事業者のものとなりますが、一定水準を超えると経済産業大臣が料金引き下げ命令を発出します。このため、事業者が自ら効率化に努めるインセンティブは働きにくいとされていました。

対してレベニューキャップ制度では、経済産業省が5年間の規制期間ごとに一般送配電事業者の収入上限を審査・承認します。効率化努力によって見通しよりも実績費用が下がった場合にはその差額を利益とすることを認めることで、事業者が自ら効率化に努めるインセンティブがより働きやすくなります。また、規制期間終了後は、事業者が規制期間中に得た効率化利益の半分を託送料金に還元する仕組みとなっていることから、効率化による成果を消費者に還元することも期待されています。

このほか、気温や景気の動向といった外的要因に左右される需要変動等で生じた収入の増減は、次の規制期間の収入上限を変動させるなどして全額調整されることになっており、事業者は自らが予見・制御できる範囲で、事業計画の遂行とコスト効率化に専念できるようになったといえます。

料金設定手続き始まる

レベニューキャップ制度導入まで約半年となった現在は、最初の規制期間である2023~2027年度の託送料金設定に向けた手続きが行われています。事業者は経済産業省が定めた指針に基づいて事業計画を策定し、その間必要となる費用を見積もり、「収入の見通し」として経済産業省に提出しました。

7月25日に提出された一般送配電事業者10社の見通しによると、送配電網の増強などに必要な費用の増加分が効率化努力を上回り、これを補うため、収入の見通しがこれまでと比べて上昇する想定になっています。今後は国の査定で見通しが適正かどうか精査され、その後、査定結果などを踏まえ、各社の収入上限と託送料金が正式に決定し、2023年4月から導入されます。

図:レベニューキャップ制度の仕組み

資源エネルギー庁資料をもとに作成

女優の今田美桜さんご出演による新CMと連動Webコンテンツをご紹介

  • 9月に放映を開始した電気事業連合会の新テレビCM「環境編」「安定確保編」では、女優の今田美桜さんに出演いただき、脱炭素化や安定供給確保などエネルギーに関する課題を分かりやすくお伝えしています。

    また、電事連サイト内に連動コンテンツを開設。CMのメイキング映像やミニコラム、今田さんによる「節電講座」、さらにCMの内容をテーマにしたWeb限定スペシャルムービーを配信しています。ぜひご覧ください。

    CM連動ページはこちら
    https://www.fepc.or.jp/sp/energymix/

    Web限定スペシャルムービー連動ページはこちら
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    節電情報ポータルサイトはこちら
    https://www.fepc.or.jp/sp/setuden/

  • CM「環境編」

    CM「環境編」

    Web限定スペシャルムービー

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特設サイト「魚食振興について」のご紹介

  • 減少傾向にある魚食量の回復や、風評の懸念払拭のため、電気事業連合会および電力各社ではさまざまな魚食振興に取り組んでいます。

    サイトでは社員食堂でのメニュー提供の様子や名古屋の鮮魚卸二代目「魚屋の森さん」による旅&魚料理動画「魚屋の出張旅」などを公開しています。ぜひお楽しみください。

    サイトはこちら
    https://www.fepc.or.jp/sp/gyoshoku/

  • 魚食振興について~電力各社の取り組みの今~