太田電事連会長定例記者会見発言要旨
(1999年10月15日)





◎ 本日は、9月30日に発生した株式会社JCO東海事業所の事故に関する、私ども電気事業者の今後を含めた対応状況について、申しあげたい。

○ 事故発生から、はや2週間が経過したが、地元では依然としてさまざまな風評被害の影響が続いているということを聞くと、国民の皆さまが受けたショックや不安の大きさを改めて痛感している。 とりわけ、原子力利用について、当初より一貫して理解と協力の手をさしのべてこられた東海村の方々の憤りや失望感は、察してあまりあるものがある。
○ 事故発生直後の私どもの対応については、10月1日の会見でも申し上げたが、地元の皆さまに一刻も早く安心していただけるよう、放射線測定や汚染チェックなどのため、これまでに最大時約670名、延べ2,700名の要員派遣や、モニタリングカー、サーベイメーターなどをはじめとする様々な資機材の提供を行ってまいった。こうした支援要員の昼夜を分かたぬ作業によって、身体の汚染検査を受けられた住民の方々の数だけでも約15,000名にもなる。
○ 今回の事故に接して、私どもが何よりもショックを受けたことは、事故が、技術的に予見できなかったとか、うっかりミスとかいった原因で発生したものではなく、組織だって違法なマニュアルを作成し、さらにそれすら守らなかったという、原子力産業はもとより普通の企業であってもありえないような、企業モラルや安全文化の欠如によるということだ。
○ 私は、今回の事故が発生した週の始めまで、カナダのヴィクトリアで開かれた世界の原子力発電事業者の集まりであるWANOの総会に出席していた。総会では、世界4つの「地域センター」のひとつである「東京センター」を代表して話をする機会があり、「原子力発電所は十分安全と思った瞬間から安全文化は崩壊を始めている。国民に信頼される原子力発電事業者になるにはどうあらねばならないかという意識を、全ての原子力関係者が持ち続け、考え続けることが大切である」、あるいは「原子力発電の経済性は安全性、信頼性の向上に伴って実現されるもので、経済性の追求が先にきたら、後で悲惨な目に会うだろう」といったことなど、安全文化や風土の重要性について話をしてきた。 その直後の事故だっただけに、たいへん大きなショックを受けたし、JCOのような燃料加工あるいは放射性廃棄物管理などに携わるような周辺企業にも、安全文化や風土を共有するようなWANO的なセンター組織が必要ではないかと感じた。
○ こうしたことから、既にお知らせさせていただたとおり、 10月5日に電事連内に「JCO東海事故関連特別委員会」を立ち上げ、私ども自らの運転管理等の再チェックを行うとともに、原子力産業界全体で安全文化・風土をいかに共有化していくか等について検討を行うこととし、これまでに2回開催した。
○ このうち、自らの再チェックについては、原子炉等規制法に基づく保安規定等に照らして、原子力発電所で不適切なマニュアルが作成・使用されていないか、運転管理、燃料管理、被爆管理等について徹底的な調査を実施し、各社とも適切に作成・使用されていることを確認して、昨日、資源エネルギー庁に報告を行っている。
○ また、安全文化・風土の共有化に関する検討では、昨日の通産大臣との意見交換の中でも申し上げたが、先ほど触れたWANOのような、安全に関するセンター組織を設立し、原子燃料を扱う事業者や放射性廃棄物の管理や輸送を行う事業者など、広く国内の原子力産業に参加を呼びかけていくこととした。
○ 現在、私どもが参加しているWANOは、チェルノブイル原子力発電所の事故を契機に世界約130 の原子力発電事業者が参加してできた民間組織であるが、これまで、会員で構成された国際チームが発電所を訪問し、安全を評価し合うピアレビューをはじめ、コンピュータネットワークによる運転管理やトラブルに関する情報交換、あるいは事業者相互の訪問による情報・技術交換など、様々な活動を実施している。
○ 私どもが現在考えているセンターを核とするネットワーク構想は、こうしたWANOの活動をモデルにして、従来ともするとありがちな厳しい監査や査察といったユーザー側からの一方的なチェックを行うというのではなく、同じ原子力に携わるイコールパートナーとしての立場から、お互いに情報を交換し合い、チェックし合うことにより、原子力産業界全体のレベルアップが図られればよいと考えている。 また、私ども電力では、これまでプラントメーカーとのコミュニケーションはよかったが、いわゆるフロントエンド、とりわけ今回のJCOのような燃料加工以前の事業者とのコミュニケーションがなかった事も事実で、こうした点も改善されるのではないかと思う。
○ 今後、どこにセンター組織を置くのか、あるいはメンバーの範囲や活動内容、設立の時期など、具体的に詰めなければならないことは多々あるが、安全に関わる問題でもあるし、「鉄は熱いうちに打て」の諺どおり、シンプルかつ効果的な組織作りを行い、年内には立ち上げたいと考えている。
○ 先日の会見の際にお話ししたが、今回の事故は、法律上、あるいは契約上からも私どものチェックの目が直接届かないところで起こった事故ではあるが、同じ原子力に携わる企業が起こした事故ということで、結果として、立地地域や社会の皆さまとの信頼関係も大きく損なわれてしまう。 また、私どもの発電所は、原子燃料加工施設をはじめとする関係企業の健全な運営を前提として成り立つものであり、今回のような事故が発生した場合には、原子力発電所の運転そのものが脅かされる可能性もはらんでいる。
○ こうしたことを考えると、原子力産業界全体の安全文化の向上や、あるいは失われた信頼の回復に、やはり私ども電気事業者ができうる限りの努力を払わなければならないと思う。
○ エネルギー資源が極めて乏しいわが国の実状や、地球環境問題への対応、さらには今後の電力需要の伸び等を考えると、私どもに与えられている選択肢は極めて少なく、今後とも原子力を電源の柱の一つに据えて、ある一定量を開発して行かなければならない。
○ 今月の25日から来月5日まで、ドイツのボンで気候変動枠組み条約第5回締約国会議=COP5が開かれる。お手許に資料をお配りしているが、私ども日本の事業者も、ワークショップを開催したり、ブースを開設して、COP5の参加者に、有効な地球温暖化対策としての原子力の必要性を主張してまいりたいと考えている。
○ 今回の事故で失われたものはあまりに大きく、リカバリーには大変な努力を要すると思うが、私は、原子力が日本の将来を切り開き、社会に貢献できるものと信じている。 信頼回復に向け、できる限りの努力をしてまいる所存であるので、ここにお集まりのエネルギー記者会の皆さま、さらには社会の皆さまのご理解をぜひともお願いしたい。
○ 私からは以上。


資料:原子燃料再転換施設の事故に対する電力の対応について
資料:(参考)WANOについて
資料:気候変動枠組み条約第五回締約国会議(COP5)における電力業界としての主な活動