太田電事連会長定例記者会見発言要旨
(2000年10月13日)



◎ まず、10月6日に発生した鳥取県西部地震に伴い、被害にあわれた皆さまに謹んでお見舞いを申し上げたい。 
 私は電気事業に携わる者として、痛切な思いで報道に見入っていたが、地元中国電力さんは、発生後わずか15分で対策本部を立ち上げ、迅速な対応に当たられた結果、2時間程度で停電を復旧させ、電力設備にも大きな被害は出ていないと聞いている。 
 前月の会見でも申し上げたが、今年は自然災害が大変多い。社会のインフラをあずかる者として、その責任は重く常に万全の体制で臨みたいと考えている。

◎ さて、本日、私から申し上げるのは次の2点。 
 1点目は、JCO事故後の取り組みについて。 
 2点目は、気候変動枠組み条約第6回締約国会議、いわゆるCOP6への取り組みについて。

◎ まず、JCO事故後の取り組みについて。 
 JCOウラン再転換施設で臨界事後が発生して1年が経過した。私ども電気事業者は、同じ原子力に携わる者として、この事故で作業員の方の尊い命が失われた上に、一般の方々まで被ばくされたこと、そしてこの事故の背景にモラルや安全文化の欠如があったことに大変大きな衝撃を受けた。 
 こうした事故を二度と起こさないために、私どもは原子力産業界全体の安全文化の共有化や向上を目的として、昨年12月、NSネット(ニュークリアセイフティーネットワーク)を設立した。

○ 現在、NSネットでは、お手許の資料−1にあるように、積極的に活動を進めている。 
 概略を申し上げると、1つ目は、「原子力安全文化の普及」である。具体的には、トップや管理者層の原子力安全意識の高揚を図るため、セミナーを開催するとともに、会員事業所を巡回して安全推進活動に関する意見交換や講演を行う「安全キャラバン」を実施している。このキャラバンは、今年度中に会員の約半数にあたる17事業所で実施する予定。  
 2つ目は「会員間の相互評価」いわゆるピアレビュー。 これは、会員の専門家でチームを編成し、会員事業所を訪問し合い、組織・運営、緊急時対策など安全に関する共通の課題6分野について対等の立場から評価を行うもの。この結果をもとに課題を摘出したり、良好事例を水平展開する。 
 これまで、三菱原子燃料さんなど核燃料物質等を扱う5事業所で実施しており、来週17日からは東京電力福島第一原子力発電所を訪問する予定。今後、13年度までの2年間で、こうした施設を持つ23会員の事業所を全会員の中から先行して実施する計画である。  
 3つ目は「原子力安全に係わる情報交換・発信」である。 これは、会員間でトラブル情報やヒューマンファクターに関する知見を交換し、安全に関する情報の共有化を図るもの。 
 なお、ピアレビューの報告書をはじめNSネットの活動状況についてはホームページで公表しているので、皆さんにも是非ご覧いただきたい。

○ NSネット以外にも、私ども電気事業者としては、まず 各発電所ごとにマニュアルのチェックなど安全確保に係る業務の再点検や、原子力災害対策特別措置法に基づき「原子力事業者防災業務計画」を策定している。さらに、9電力会社・日本原電・電源開発・日本原燃の間で独自に「原子力災害時における原子力事業者間協力協定」を締結するなど、業界全体としての防災対策にも取り組んでいる。 
 また、国においても、原子力安全委員会の体制強化や保安検査官・原子力防災専門官の設置、国・自治体・事業者一体となった原子力防災体制の確立など安全管理や防災対策を強化してきた。  

 こうした中で、8月に中国電力島根原子力発電所3号機が電源開発調整審議会に上程され、さらに昨日、再処理事業の使用済燃料搬入に係る安全協定を締結させていただくことができた。官民あげての再発防止策への取り組みが、少しずつだが実を結びはじめてきたのではないかと思う。

○ JCOの事故で失われたものはあまりに大きく、社会の皆さまの信頼を回復するのには大変厳しいものがある。 
 全ての原子力に携わる者が地道に徹底した安全管理に努力していくしか道はないと思う。JCO事故1年を迎え、私ども電気事業者は、その先頭に立って、安全の実績を積み重ね、一歩一歩安全意識・安全文化の普及・向上に努めていくことを改めて胸にした次第である。

◎ 次に、COP6への取り組みについてだが、ちょうどひと月後の11月13日から24日まで、オランダのハーグでCOP6が開催される。
 97年のCOP3で導入が決まった京都メカニズムは、ルール等を今回のCOP6までに決定することとされている。これについては、まだ各国の合意がなされておらず、その意味で今会議は大きな区切りとなる重要な会議と位置づけられている。

○ 既にご案内のとおり、私どもは、環境問題への取り組みを経営の最重要課題のひとつとして位置づけ、自主的かつ積極的な取り組みをしてきている。 
 特に、CO2については、電力として「2010年度におけるCO2排出原単位を 1990年度実績から20%程度低減するよう努める」ことを目標に、原子力の推進や熱効率の向上などに努めている。

○ 具体的なメカニズムの内容は資料−2の2枚目をご覧いただきたいが、今回議論される排出量取引などの京都メカニズムについては、地球規模でコスト効果的にCO2等の排出抑制が可能であり、私ども電気事業としても国内対策を補完する手段として、大変重要と考えている。 
 さらに、私どもが持っている電力技術やノウハウを海外へ移転し、お役に立つことができるというメリットもあると思う。

○ こうしたことから、昨年のCOP5に引き続き、COP6においても欧米の電力業界と協力し、原子力の地球温暖化対策としての有効性やコスト効果的な京都メカニズムのルールや枠組みについて重点的に訴えていく計画である。
  特に、原子力については、一部の国に、途上国と先進国の間で温室効果ガス排出削減プロジェクトによって得られた削減量を分配できる「クリーン開発メカニズム(CDM)」の対象から外すべきという動きがある。これについては、途上国において、今後増大するエネルギー需要に対しCO2を排出しない原子力の導入が欠かせないことから、まずもって、「プロジェクトのホスト国である途上国の自主的な選択権を尊重すべき」と主張していきたい。  
 また、京都メカニズムについては、電力としての考え方や積極的な取り組みについて途上国政府関係者等、参加者への幅広い理解が得られるよう努めていきたいと考えている。

○ 電力関係者の活動内容については、資料−2の1枚目のとおりだが、途上国を含めた各国の政府関係者、オピニオンリーダー、マスコミの方々を招きワークショップやフォーラムを開催したり、ブースを開設してパネル展示やパンフレットなどの配付を行う予定である。 
 こうした私どもの取り組みが、COP6の合意形成のお役に立てられればと願っている。

○ 私からは、以上。