容赦なく体力を奪う過酷な雪山での作業支えるのは「冷静さ」と「使命感」

vol.04

北陸電力 神岡営業所

坪田 崇さん

その日、雪の重みで倒れた樹木によって電線が損傷し、山間(やまあい)の集落が停電した。

坪田たちの作業班はただちに出動する。一刻も早く現場に向かわなければならないが、車でたどり着けるような場所ではない。雪山の道を歩いて向かうしかない。
氷点下の寒さ、かんじきを履いても膝まで埋まる新雪、背負うのは重さ20キロの装備。体力は容赦なく奪われる。靴底から伝わる雪の冷気で足は冷え、痛み始める。
それでも黙々と歩く。山深い現場なら登りの雪道を3時間も歩き続ける。

作業班は一列になって前進するが、踏み締められていない雪に踏み出す先頭がいちばん辛い。先頭を交代しながら進み、体力を温存する。消耗する体力を計算に入れなければ、過酷な作業の安全と効率は維持できない。現場に到着するまで、設備の被害状況は分からない。装備も限られている。それでも修理しなければならない。いかなる状況にも対応できる技術と経験が求められる。一ヵ所の修理を終えても気は抜けない。豪雪は同時多発的に電力設備を襲う。凍てつく寒さの中、現場を移動しての復旧作業は夜を徹することもある。人目に触れない雪山で厳しい自然から電気を守る坪田たちのひたむきな努力が、日本の電力供給を支えている。

消防士だった父は火事や台風など災害の度に呼び出しがかかった。幼い頃、家族を忘れて現場に向かう父をよく思わなかったが、いつしか自分も似たような使命感に動かされていることに気づく。「山深い集落にも電気を待っている人がいます。高齢の人がほとんどです。屋根の融雪に電気を使う家が多く、本当に電気は必要なんです」。近年は携帯電話やテレビ局の中継基地が増え、インフラの確保という点でもこれまで以上に山間部への電力供給が重要になってきている。

坪田は今、現場を熟知するベテランの技能を若手に引き継いでいく努力をしている。例えば、樹木の倒壊で切れた電線を、その場の手作業で結んでしまう技能は、電線の圧着機を持ち込めない現場で必要だ。
また、停電の原因となる樹木を撤去するにはチェーンソーも使用する。狙った方向に倒す技術はもちろん、樹木が密集する現場で、どの方向に倒すか判断する力も求められる。これらは場数を踏まないと中々身につかない。ベテランが若手を連れて現場に行き、実際にその手際を見せ、経験させる訓練も行なっている。

安全の確保も同様だ。ベテランは何気なく仕事をしているように見えて、実は作業中の危険を巧みに避けている。「先輩の動きを単に真似するのではなく、裏に潜むリスクを意識するようになってほしい」。雪雲の隙間からようやく差し込んだ日光を受け、静かに語ってくれた。

Enelog No.4 繋ぐ力インタビュー映像