立ちはだかる難関を乗り越え 電力ピークを迎える前に運転開始

vol.07

東京電力 建設部 神流川工事事務所
電気制御グループ 副長(2012年9月現在)

鈴村 隆さん

神流川発電所では電力不足が心配された昨年の夏までに建設中の2号機を何としても完成させなくてはならなかった。神流川で採用される揚水式発電では標高差のある2つのダムを設ける。夏の昼間など電気の使用が増える時間帯は上のダムから下のダムに水を落として発電し、逆に使用が減る夜間などに別の発電所から送られる電気で水車を逆回転させ、下から上へと水を汲み上げる仕組みだ。

地下発電所への入り口 建設では、重さ50トンの水車を100分の1ミリ単位の精度で据え付ける工事をはじめ、高度な技術を要する工事が相次いだ。しかし、鈴村にとって、これらの難工事が終わった後にこそ、最大の難関が待ち受けていた。発電所の運転前試験である。100に近いさまざまな試験を設備が整ったものから順に実施していく。鈴村はその総括責任者だった。

発電所の内部。手前に見えるのが発電機の上部。水車は発電機のさらに下にある。 例えば、発電所から電気を送る送電線が落雷などで故障した場合、電気は行き場を失うが、水車や発電機は落下する水で回転を続ける。そのような緊急事態に陥った場合、設備の安全が保たれるか試験で確認しておく必要がある。これらの試験は水を落として発電し、再び汲み上げる実際の挙動の中で行わなければならない。水を汲み上げるには、ほかの発電所から電気を送ってもらわねばならない。しかし、電力事情は異例の厳しさだ。たやすく試験用の融通を受けられる状況ではない。「制約に次ぐ制約で、試験を思い通りに進めることなどできなかった」。また、せっかく上のダムにためた水を放出し、水位を下げた状態の運転試験も必要で、深刻な電力事情に逆らうような辛さがあった。

「かつては当たり前のように行ってきた試験にこれほど苦労するとは……」。原子力発電の停止による電力不足の影響の大きさをあらためて痛感した。

制約下での試験は遅々として進まない。それでも運転開始の時期は容赦なく迫ってくる。鈴村はプレッシャーと焦りで追い詰められた。「限られた時間でも有効に使えば何とかなる」。電気の需要が減少する休日の夜間などピンポイントで確保した時間帯に関係者をすべて動員し、試験を一つひとつクリアしていった。「設備メーカーの人たちも含めて、ここぞというタイミングを逃がさぬよう、関係者全員が常に待機してくれた。本当に仲間に助けられた」。2号機は7月初旬という予定を1カ月も早めて運転を開始した。熱いものがこみ上げ、鈴村は涙があふれるのを抑えられなかった。

「揚水発電は電力の需要がピークに達した時、確実に戦力にならねばならない。求められた時に安定した力を発揮できるよう、運転、メンテナンスの信頼性を常に高めていかなければ」。水の位置エネルギーを巧みに操り、電力の安定供給につなげる努力は不断に続く。

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