エネルギー効率の良い、安心、元気な高齢化社会をつくろう

vol.08

関西大学 政策創造学部教授

白石 真澄氏

関西大学大学院修士課程工学研究科建築計画学専攻修了。西武百貨店、ニッセイ基礎研究所主任研究員、東洋大学経済学部教授を経て2007年4月から現職。バリアフリー、少子・高齢化と地域社会をテーマに、テレビ出演や講演など幅広い分野で活躍中。教育再生会議委員(内閣官房)、社会資本整備審議会委員(国土交通省)など国の審議会の委員も務めた。

誰もが安全に暮らせる住まい、家族に看取られての穏やかな終末期、この平凡な願いをかなえることが庶民にとっては難しくなってきている。世界最速のスピードで高齢化を経験するわが国は、超高齢化社会へのハード・ソフト面の準備が追いつかない。住宅事情や親子の扶養意識、地域社会の変化などが、高齢者の生活にも影を落としてきた。たとえば高齢者の持ち家は古く「手すりの設置」、「段差のない室内」、「車椅子で通行可能な廊下」というバリアフリー3条件を備えた住宅は全住宅の6.7%、共同住宅のうち、道路から各戸の玄関まで車椅子で通行可能な住宅の割合は10%しかない。低所得で住む場所を手当てできない高齢者の増加、また溺死・転倒など住宅内の死亡者は1万3千人と交通事故死者の2倍以上、さらに「孤独死」は年間3万人にもなる。高齢者の自助努力や家族の介護を前提とした仕組みが機能しなくなっているが、財政赤字を考えれば安全網は脆くなり、今後、高齢者だけの世帯が増えればこの傾向はさらに進むだろう。今後20年間で世帯主が65歳以上の世帯は400万、75歳以上である世帯は443万世帯増加する。

高齢化や世帯動態は今後のエネルギー消費にも影響を及ぼす。在宅時間が長いことから、家庭における高齢者のエネルギー使用量は標準より高いと考えられているし、子どもの独立後も高齢者が広い住宅に住み続ければ、世帯人数の減少にもかかわらず、住居面積が変わらない限り暖房効率等は悪化する。米国では単身世帯が2人世帯に比べて1人当たりのエネルギー消費量が17%も多いと言われている。そこで、高齢者に集住化してもらい、活動的な高齢者を増やし、在宅時間を減少させれば、家庭内のエネルギー消費量は増加しない可能性もある。

高齢者とエネルギー関係の見守りについてはこれまで、魔法瓶メーカーが無線式の通信機を内蔵したポットの使用状況をインターネットで子ども世帯に送るなどの取り組みを行ってきた。また、検針員が検針やボンベ取り換え、集金で高齢者家庭を訪問した際、メーターが前回と変わらなかったり、郵便物がたまったりなどの異変に気づけば、各市町村の担当窓口に連絡するという事例があるが、そうでない場合は手遅れになるケースもある。現在、高齢者のサービス付き住宅は高齢者人口の1割にも満たない。公営住宅や空き室の多い団地を利用し、日中を皆で過ごせる共同の食堂と居間を設置し、各戸の電気使用量を常時ボランティアが一括してモニターでチェックし、異常を早期に発見できるような仕組みにすれば、エネルギー効率を高めながら高齢者の安心な住空間も確保できるのではないだろうか。