
安全対策に対する残余のリスクの低減
私たちは、これまでも原子力発電所の安全対策を講じてきましたが、福島第一原子力発電所の事故を教訓に、「同様の事故を二度と起こさない」という固い決意のもと、より一層の安全性向上に取り組んでいます。
「安全対策にゴールはない」この言葉を心に刻み、たゆまぬ努力を積み重ね、さらなる安全性・信頼性の向上に取り組んでいきます。
福島第一原子力発電所 事故以前の対策
- 緊急時炉心冷却装置の設置
- 異常検知停止装置の設置
- インターロック、フェイルセーフなどの設計思想
- 地震対策など余裕のある安全設計
事故後の緊急安全対策
- 非常用電源の増強
- 冷却機能の強化
- 津波対策の強化
東日本大震災発生時、太平洋沿岸のすべての原子力発電所では地震動を検知し、設計通りに停止しました。
すべての原子力発電所で、福島第一原子力発電所を襲った地震と津波に相当する災害が発生しても、同様の事故に至らないレベルまでリスクを低減させました。
より一層の安全性向上策
地震と津波に備える
- 地震対策の強化
- 防波壁・防潮堤の強化
- 水密扉の設置
重大事故を防ぐ
- 非常用電源の強化
- 冷却機能の確保
- 格納容器の破損防止・水素爆発防止
- 竜巻・火災対策の強化
事故を想定した訓練
- 各種訓練からのフィードバック
- シビアアクシデント発生後、事故収束作業の支援
さらなる安全性を追求するための取り組み
- 原子力産業界全体の取り組み
- リスク研究の推進
私たちは福島第一原子力発電所の事故を教訓にリスクの低減を追求していきます
地震に伴う津波によって引き起こされた福島第一原子力発電所の事故を教訓に、従来の想定を厳しく見直し、耐震性を高める補強工事や浸水防止対策など、原子力発電所の安全を確保する対策に取り組んでいます。

大地震からの安全を確保するため、より詳細な地質調査や耐震工事を行っています。たとえば、発電所の地下構造をより詳細に把握するため、深度1000m超のボーリング調査の実施や、敷地内の断層の活動性などを調べるため、巨大な溝を掘って地層を露出させて観察するトレンチ調査などを行っています。また、最新の知見を基に、大きな地震動の起こる可能性を見直し、耐震安全性を評価し、必要に応じ耐震性を高める追加工事も実施しています。

科学的な知見に基づいて想定される津波の高さなどを割り出し、堅固で巨大な防波壁・防潮堤を設置しています。このほか、重要な海水ポンプなどを津波から守るため、そのエリアに防水壁を設けるなどの措置も講じています。

仮に津波が発電所を襲っても、海水などが原子炉建屋などに流入しないよう、重要な設備のある建屋の入口には、水密扉を設置する取り組みを進めています。水密扉は押し寄せる津波の水圧などで壊れない強さとともに、隙間から海水が入り込まない密閉性を備えたものです。


福島第一原子力発電所の事故の教訓から、原子力発電所の重大事故の発生・進展を防ぐ対策はもとより、もし事故に至っても、その影響をできるかぎり緩和する対策の一層の充実を図っています。
![PWR[加圧水型軽水炉]の事例](images/2015_vol4/figure-02_01.gif)
自然災害によって外部からの電源が途絶しないよう、送電ルートの多重化や、電気設備の浸水対策を施しています。また、発電所内の常設の非常用電源が機能しなくなる事態も想定し、移動可能な高圧発電機車を複数配備しています。さらに、重要な設備の制御に使う直流電源も強化しています。


複数ある冷却機能が同時に喪失しても、これを補完する多様な冷却手段を確保します。たとえば、原子炉の冷却に必要な海水ポンプなどが故障した場合に備え、念のため予備品を確保するほか、可搬型の注水・給水ポンプなどを配備しています。水源もタンク、河川、貯水池あるいは海水など、多様化を図っています。


炉心損傷などにより原子炉格納容器の圧力が異常に上昇した場合、放射性物質の外部への放出を極力抑えつつ、その圧力を下げる手段として、「フィルタ・ベント」を設置します。また、発生した水素が爆発しないよう、格納容器内の水素を酸素と結合させ、水蒸気にする水素再結合装置なども配備します。

猛烈な強風を伴う竜巻による飛来物が設備に損傷を与えないよう、鋼板や強靭なネットによる防護対策を講じています。また、森林火災への対応として、敷地内の樹林を伐採して防火帯を設ける取り組みを実施しています。

重大事故に対するハード面の対策だけでなく、所員の緊急時の対応力などソフト面の対策も重要です。電源や冷却機能を確保する現場の初動対応はもちろん、国、自治体など関係機関との連携を図る手順の確認など、様々な事態を想定した訓練を行っています。また、過酷な事態を想定し、新たに設けた非常用設備などを有効に活用できるよう、マニュアルも整備しています。





現在、日本原子力発電 敦賀総合研修センター内に「原子力緊急事態支援センター」を設け、作業員の被ばくを可能な限り低減するため、遠隔操作できるロボットなどの資機材を集中的に管理・運用しています。もし事故が起きた場合でも、確実に操作ができるよう、現場を模擬した状況での操作訓練や、これらの資機材を事業者に届けるなど、事業者の緊急対応活動を支援する役割を果たします。
原子力発電所では、新たな規制基準のクリアはもとより、さらなる安全性・信頼性を高める取り組みを継続して実施しています。例えば、2012年11月に発足した原子力安全推進協会(JANSI)は、独立した立場と強い指導力のもと、国内外の安全性向上に関する最新知見を収集・分析し、事業者の安全性向上の活動を積極的に評価するとともに、提言や支援等を通じて事業者の活動を牽引しています。

2014年10月、原子力発電の抱えるリスクを継続的に低減する目的から、電力中央研究所に「原子力リスク研究センター」を設置しました。ここでは、巨大地震など低頻度であるものの大きな被害をもたらす事象のメカニズム解明や、事故の発生リスクのさらなる低減、また、もし事故が起きてもその被害を最小限にとどめるための研究開発を行います。事業者としても、「原子力リスク研究センター」の活動を最大限に尊重し、ここでの研究開発成果を事業活動に反映していきます。
[参考]安全対策の考え方と東日本大震災での状況
原子力発電所では、放射性物質の影響を周辺環境に及ぼさないよう、厳重な品質管理や点検・検査の実施はもとより、運転・保修に携わる要員の資質向上などを通じた安全確保の努力を重ねています。
技術的には、「機械は故障する」「人はミスをする」ことを前提に、何重もの安全対策を講じる「多重防護」の考え方を採用しています。
この「多重防護」に基づく設計により、異常の発生防止を図るとともに、異常の拡大や、事故への進展を防ぐ対策を講じています。さらに、事故に至っても、その影響を緩和する対策も用意しています。
中でも、原子炉の安全を確保するため、「止める」「冷やす」「閉じ込める」という機能を重視しています。

福島第一原子力発電所では大地震の後に発生した巨大な津波によって、非常用電源や炉心を冷却するポンプなどが使用できなくなり、1、2、3号機が炉心損傷に至り、放射性物質を放出する重大な事故となりました。この教訓として、津波に対する備えが不十分だったことが挙げられます。一方ほかの原子力発電所にも津波が襲来しましたが、従来の安全対策が功を奏し、安全を確保することができました。

