「情性」とは?…法律家の視点から

vol.14

弁護士住田  裕子 氏

弁護士

住田 裕子 氏

1951年兵庫県生まれ。東京大学法学部卒業。
東京、大阪等の地検検事を経て、87年女性初の法務省民事局付検事として民法・国際私法等の改正を担当。
90年には全省庁女性初の法務大臣秘書官に就任。
司法研修所教官等を経て、96年弁護士登録。
NPO長寿安心会の代表として、長寿社会の安全安心な社会づくりと東日本大震災の復興支援のために奮闘中。
現在、「住田裕子の老後安心相談所」などの著書・論文も多数。

学業優秀で、将来は検事に、との希望を持っていた女子高生による猟奇的殺人
事件。精神鑑定手続きに入ったが、鑑定書には「情性欠如」、「共感性欠如」など
の文言が見られるのではないだろうか。

人の痛みがわからない感性。戦国時代なら、恐れを知らぬ勇敢な兵士となった
であろう情緒に欠ける性向である。

このような者が、殺戮に向かわず、理性的に生きたとき、果断な決断をする冷徹
なリーダーになれるともいわれる。

逆に、情緒にすばらしく富み、創造性にあふれる資質が備わる者は、芸術面で
その才能を発揮できるだろう。

この両極端の資質の保有者は、1%ほどもいないはず。凡人たる私は、情性と
理性をほどほどに持ち、このバランスをとっていくのが、賢明な途と考えている。

人との交流で必須の「情性」も、政策決定の際には、注意を要する。特に、恐怖心、
不安感、憐憫の情などが強すぎると、「今、必要であるがゆえに、一定のリスクを
取るが、このリスクを限りなくゼロにするための手法を磨く」という、合理的な
選択肢が取れなくなってしまう。

たとえ、悲惨な事故があっても安全対策を進めつつ航空機は飛び続けるように。

ところが、反捕鯨団体の「鯨がかわいそう」という強固な情緒・感性に対して
は、理論的説得は困難といわれる。「脳死」は人の死として認めない、という意見
なども類似する。

まさに、エネルギー政策でも同様の側面があろう。3・11の津波による原発
事故は、今も苦難が続く。

被災された方々の痛苦は察するに余りあり、二度とこのようなことがあっては
ならないと心から願う。

当然ながら、「反原発・即原発廃止」の意見が強いが、果たして我が国は、今、
原発なしで耐えられるのだろうか。

情緒的意見は十分理解できるが、バランスの取れた理性的判断が要請される局面
となっている。

司法に携わり、報道する側にも立つ身としては、情緒にのみ働きかける手法は避け、
冷静に、理性的に判断し得るものを提示していきたい。

2014年8月18日寄稿