エネルギー問題の理解に科学リテラシーを

vol.12

国際ジャーナリスト

モーリー・ロバートソン氏

ジャーナリスト、DJ、日米双方の教育を受けた後、1981年東京大学入学、1988年ハーバード大学を卒業。現在はテレビ、ラジオ、講演会などで活躍中。カドカワ・ミニッツブックから電子書籍『自分を信じていない時代』『知的サバイバルセミナー』シリーズを出版中。インターネット勃興期から盛んに意見を発信、主に若年層からの熱狂的な指示を得ている。

新興国であるBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)が繁栄の段階にさしかかっている。たとえば、インドでは最近、日本の人口にも匹敵する1億人以上が所得を増やし、新たに中産階級に加わった。国外で勉強した優秀な人材が帰国し、火星探査衛星の打ち上げを成功させるなど、技術力も飛躍的に向上している。グローバリズムが新興国に富をもたらし、中産階級を増大させていることは、貧困の解決につながり歓迎すべきことである。その一方で、所得の増加は、ブランド品や車、マイホームという消費を刺激し、全地球的に急激なエネルギー需要の増加をもたらしている。こうした事実をまず受け止めて、そこから逆算するのがエネルギー問題を考える上での僕の大局観だ。

そのように問題を見つめていくと、資源の少ない日本はやはりエネルギーのベストミックスを考えなくてはいけないという思いに至る。福島第一原子力発電所の事故以降、原子力は倦厭されがちだが、期待されるシェールガスやシェールオイルのリスクは未知数である。また太陽光や風力なども確かに夢のエネルギーだが技術的には途上である。原子力の課題解決が面倒だからと言って、近視眼的に新しい資源や技術に飛びついても、リスクゼロになる訳でもない。

科学の根本は、未知の状況に遭遇した時に、論理を組み立て、理解できないものを少しずつ理解することである。「脱原発」というフレーズの耳障りのよさに惑わされずに、原子力のメリット・デメリットやエネルギー問題の全体像を理解するには、こうした科学のリテラシーが不可欠だ。子供の頃から理数系のリテラシーを高めるとともに、ディベートを通じて賛否両論から物事を見つめる考え方を養うことが重要であるし、もちろん技術者は一般の人にも分かるように丁寧に論理を組み立てて説明する努力をしなくてはいけない。その上で、エネルギー問題は極論を排しながら包括的なビジョンを語り、対話を深めていくことが大切なのではないか。

2014年2月21日寄稿