今こそエネルギー産業と社会の真の対話を

vol.09

プラネタリウムクリエイター 東京大学特任教授
和歌山大学客員教授 相模女子大学客員教授

大平 貴之氏

小学生の頃からプラネタリウムを作り始め、学生時代にアマチュアで初めてレンズ式投影機の開発に成功。2004年、「MEGASTAR-II cosmos」がギネスワールドレコーズに。ネスカフェ・ゴールドブレンドのTVCMにも出演。家庭用プラネタリウム「HOMESTAR」は世界累計65万台超を販売。国内外へのMEGASTAR設置の他、イベントや異業種コラボなどでプラネタリウムの可能性を開拓している。

小学生の頃からプラネタリウムを作り始め、学生時代にアマチュアで初めてレンズ式投影機の開発に成功。2004年、「MEGASTAR-II cosmos」がギネスワールドレコーズに。ネスカフェ・ゴールドブレンドのTVCMにも出演。家庭用プラネタリウム「HOMESTAR」は世界累計65万台超を販売。国内外へのMEGASTAR設置の他、イベントや異業種コラボなどでプラネタリウムの可能性を開拓している。

私はプラネタリウム・クリエーターを名乗り、一見、原子力やエネルギー産業とはまるで無縁な、星空を人工的に映し出すプラネタリウムの開発や運用という仕事一筋に携ってきたように見られていると思う。しかし一方で、震災前より原子力産業にいくつかの意味で深い関心を抱いてきた。特に、科学技術コミュニケーションの題材という視点においてである。私の携るプラネタリウムは、まさに社会と科学技術の橋渡しという使命を担っているが、星空の美しさや宇宙の神秘を啓蒙しているうちに、技術文明のあり方について自問自答するようになったし、エネルギーこそが文明の未来を占う最も重要な要素だと思い至るようになった。巨大な可能性を秘めながら過酷事故のリスクも併せ持つ原子力を考える事は、技術文明そのものを考える事にもつながると思う。

震災前までは事故のリスクは公には取沙汰されず、過少に喧伝されてきただろう。しかし今回の事故はその矛盾を一気に噴出させた。これは大変不幸な出来事だったが、言い換えると原子力、ひいては文明のあり方について社会的な議論を喚起させる貴重な機会にもなった。今こそ、供給側と需要側、産業界と社会が大いに意見をぶつけ合い、短期的な経済、安全保障から、子孫の事、ひいては我々人類の未来をどう描くかを社会的に議論してゆくべきなのだと思う。

如何なる事情があろうとも、多くの避難民を出す重大事故があったのだから反原発の厳しい声が世論に渦巻くのは当然のことである。それは真摯に受け止めていただかなければならない部分と思う。特にリスクに関する情報発信については大いに改善すべき部分があるだろう。しかし一方、戦後、エネルギー産業に携る人々による、原子力をはじめとしたあらゆるエネルギーの開発と維持のためのたゆまぬ努力があったからこそ豊かな暮らしを続けてこられた事を我々は決して忘れてはならないし、エネルギー産業に携わる方々は、もっと賞賛されるべきなのだ。そして自分達が何故、どのような思いでこの産業に携っているのか、その本当の思いを社会にもっと発信して欲しいと思う。

何故、我が国は原子力利用を推進したのか? もちろん、一言で言い尽くせないさまざまな事情があるだろうが、根源的には、オイルショック以降の化石燃料への過剰な依存からの脱却、また温暖化対策まで含め、人々の幸福のため、という重要な動機とビジョンがあったはずである。化石燃料がごく限られたもので、再生可能エネルギーも文明の主柱を担うには困難がある中で、原子核に秘められたエネルギーの活用は、文明社会を維持・進化させる上で重要な鍵を握ると私は考えている。

たとえ時間はかかっても、エネルギーに携わる方々の思いを社会に発信し、あらゆる角度で議論を醸成していくことが必要である。そして震災前の、臭いものに蓋をしながら原子力を推進してきた頃とは違い、リスクとベネフィットの意識を社会全体で共有できるよう、信頼の再構築をめざした努力をお願いしたいと思う。私も立場は違えど、科学コミュニケーションに携わる者としてどのようにお役に立てるかを日々模索している。