電気事業連合会

海外電力関連 解説情報

「スペインにおける再生可能エネルギー導入に対する系統安定化対策の実情」

2013年1月25日

 スペインでは、再生可能エネルギーの大量導入に伴って、電力の安定供給のための系統安定化策の必要性が高まった。同国では、①世界で唯一となる再エネ専用の中央給電司令所(CECRE)の設立②火力や水力を電源とする電力予備力の増設③他国への輸出やそのための国際連系線の新設などに取り組んでいる。予備力増加により、予備力調達コストも上昇、電気料金の値上げ圧力が高まっており、再エネ大量導入による課題も明らかになっているのが実情である。

□世界トップクラスの再エネ導入の裏で、高まった供給安定化対策

 スペインにおいては、近年、再エネ導入量が急激に増えており、同国の再エネ年間導入量は2007年に風力発電が世界2位、2008年には太陽光発電が世界1位、2010年には太陽熱発電も世界1位を記録するなど、世界でトップクラスの再エネ導入量を誇ってきた。

 その一方で、風力発電所は在来型電源に比べて規模が小さく、なおかつ設置箇所数が多いという特徴があるため、系統運用者からの抑制などの指令伝達が円滑に行われないといった問題が発生していた。また、風力発電が気候によって発電量に大きな変化を生む間欠性電源であることから、出力の急激な変動に見舞われた。

 例えば、2007年3月19日には、1日の内に4回も45万~100万kWも低下する事態を経験した。送電系統運用ルールの規定により、風力発電の出力抑制はできるだけ回避しなければならないという制約のもと、系統安定化策を実施しなければ、再エネ導入の増加に伴って周波数異常や大停電をもたらす危険性が高まることになる。こうした実情を踏まえて、スペインはどのような対策を採ったのかを紹介する。

□大きな役割を果たすCECRE、風力発電の出力調整も

 スペインの系統運用者(REE)が取り入れた電力系統安定化対策の一つに再エネ専用中央給電指令所の設立がある。系統信頼度を損ねることなく再エネを導入していくため、REEは2006年6月、マドリッド北部近郊にあるスペインの電力系統全体を制御する中央給電指令所にCECREを立ち上げた。CECREは、スペイン全土にある主な再エネ発電所の付近約20カ所に設置された制御所(CCG)を通じて、同国全体にある再エネ発電所の発電を管理・調整するようにしている。

 CECREでは各地の再エネ発電所の最大出力想定や電力系統の安定性監視をリアルタイムで行っている。中央給電指令所では、風力発電出力の予報結果に基づいて、毎日午前11時に翌日の調整電源(火力、水力、揚水発電など)が十分であるかの評価を行い、さらに15分ごとに更新される予報結果によって5時間先の調整電源の必要量の最終評価も逐次行われている。

 スペインでは、再エネ優先規定によって出力を優先的に抑制させる電源順位を①揚水発電②水力発電③石油・ガス発電④コンバインドサイクル発電⑤石炭火力発電⑥原子力発電⑦風力以外の再エネ発電⑧風力発電-としており、風力よりも揚水や水力が優先的に抑制されている。しかし、技術制約上やむを得ない場合は、風力発電も抑制される。CECREは、超高圧系統の短絡などに伴う瞬時電圧低下による風力発電機の脱落の影響を20分おきに解析し、各風力発電所の最大発電可能電力や仮に最も過酷な条件で事故が発生した場合に脱落する可能性のある発電機の容量合計値を算出している。この値が、許容量を超えると連系線の過負荷等による一部負荷遮断に至るため、CECREはCCGを通じて風力発電所に抑制指令を送り、風力発電の抑制を行うシステムも採用しているのである。

 出力抑制などの制御が必要となった場合は、CECREがCCGに指令を出し、発電会社は15分以内に制御操作を実施しなければならない。例えば、電力需要に対する風力発電出力比率が過去最高の60%に達した2012年4月16日の直前である14、15日に、REEは強風のため風力発電出力を上限1100万~1498万kWに設定して数回制御を実施している。

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□気候によって大きく変わる供給比率、海外輸出で調整も

 さらに、REEは再エネ導入量の増加に合わせて、再エネの間欠性を補うための予備力も増加させることで供給信頼度維持を目指している。2012年5月には、REEは再エネ導入に伴って懸念される予備力不足に対応するため、予備力による調達電力量を増やした。こうした風力発電の間欠性を補うための予備力は急増しているのが実情である。

 予備力電源としては、コンバインドサイクル発電と石炭火力発電が上位を占め、次いで一般水力発電、揚水発電が多い。出力制御や電圧制御が可能であり、供給信頼度が電圧の安定性の高さから、火力や水力などの在来型電源が予備力に適しているためである。これらの予備電力は、REEが大手電力会社から主に調達している。ところが、予備力で調達する電力量が増加し、REEが発電会社から調達するコストも増加傾向にある。これら予備力の調達コスト合計は、2007年の2億8600万ユーロ(約340億円)から2011年には4億9000万ユーロ(約583億円)へと1.7倍に増えた。このコストは、系統利用料金に含まれ、最終的には電気料金の値上げ圧力となっている。

 スペインにとって、隣国のフランスやポルトガルへの電力輸出も系統安定化対策の一つである。例えば、2009年11月8日5時50分に需要に対する風力発電の割合が53.7%を記録した際は、国際連系線による電力輸出と揚水に利用によって約360万kWを吸収し、風力発電の抑制を回避した。

 風力発電出力が少ない日と多い日の供給電源は大きく変化する。風力出力が少なかった2012年4月2日3時50分の電力供給は、原子力発電(36.3%)やコンバインドサイクル発電(18.7%)、石炭火力(21.9%)によるものが多く、風力(7.0%)やコージェネおよびその他の再エネ(21.9%)、揚水(-3.0%)が全体に占める比率は少ない。同日の電力輸出も少なく-2.9%だった。他方、スペインで過去最高の風力発電出力を記録した2012年4月16日の供給では、風力発電出力が3時48分に総電力需要(2110万kW)の60.46%(1276万kW)を占めた。この風力出力の急上昇に対応して、火力発電の出力を最少に減らしたため、石炭火力は3.5%、コンバインドサイクルは6.1%を占めるに過ぎなかった。風力とともに増えたのが電力輸出で全体の-11.3%に達し、1日の電力輸出量は6600万kWhと過去1年(2011年4月~2012年3月)の1日平均輸出量1970万kWhの約3.5倍に上った。

 こうした供給構造を見ると、スペインでは自国で調整できなかった余剰電力を国際連系線に流すことで系統安定化を図っていると考えられる。欧州の巨大な連系線に気候変化によって生まれた余剰電力を吸収させることで系統安定度が維持されるのは、欧州大陸だからこそ可能といえる。このため、スペインではさらなる系統安定化対策として、ピレネー山脈東部にスペインとフランス間の国際連系線を新たに建設中である。

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