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「転換期を迎えたドイツの太陽光発電政策」

2012年10月15日

 太陽光発電の導入に世界で最も積極的に取り組んできたドイツが、その政策を見直している。大きな要因は、太陽光発電の大量導入が需要家の費用負担を大きく増加させているという実態が年を追って明らかになってきたからだ。これを受けて、政府は2011年末から太陽光発電買取制度の改正論議を進めてきた。その結果、2012年6月末に修正法案が連邦議会と各州を代表する連邦参議院で可決、成立し、ドイツの太陽光発電政策は一つの転換期を迎えた。こうした動きには「正しい方向への第一歩」との評価があるが、同国が乗り越える課題は残されており、“太陽光先進国”として世界の注目を集める政策の行方からは、今後も目を離せない。

□一般家庭の再エネ負担額は月間1000円超に

 ドイツでは、2000年から再生可能エネルギー法が施行され、太陽光発電による電力を固定価格で20年間にわたって全量買い取る制度が導入された。この制度にけん引されて、太陽光発電設備は大きく伸び、設備容量は2005年に世界のトップに上った。その後も大量の設備が設置され続け、2012年4月時点の累積導入量は2700万kWに達し、世界でも圧倒的な設備容量を保有している。

 その一方で、このような急速な太陽光発電設備の設置は、電力需要家の負担を増加させる事態を招いた。一般家庭の再エネ買取制度による負担額は、2012年現在、3.592ユーロセント(約3.6円)/kWhとなり、年間消費電力量3500kWhのケースで月間10.47ユーロ(1000円超)にまで上昇、このうち約半分は太陽光発電に起因するとされる。

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□発電設備の低下と買取価格見直しの遅れが招いた超過利潤

 では、どうしてこれほどまでに需要家負担が急激に上昇する太陽光発電の導入が増えてしまったのだろうか。端的に言えば、政府が買取価格を適正に設定できず、太陽光発電設備を設置する事業者や一般家庭が必要以上の利潤を得られる構造を作り出してしまったためと考えられる。ただし、政府は、想定される将来の発電原価の低下を織り込み、設置時期が後になるほど当該設備による電力の買取価格を引き下げる制度設計にして、超過利潤を防ごうとはしていた。さらに、定期的に発電原価と買取価格の乖離をチェックする努力も払われていた。

 ところが、発電原価の算定の基礎となる発電設備の価格は市場原理で決まるものの、再エネ電力の買取価格は法律で決められているため、その価格改定には議会を通過させる必要があるので、設備価格が急激に低下する過程においても、買取価格の調整に遅れが生まれる構造になっていた。このために、設備の大量導入による効果や安価な海外メーカーの参入によるコストダウンが鮮明になった2009年以降は、設備価格と電力の買取価格の乖離が表面化、事業者や一般家庭が太陽光発電を行うことによって、より大きな利潤を得られるようになっていた。

□買取価格の20~29%引き下げなどの修正法案が可決、成立

 こうした制度上の問題に対して抜本的な対策をとるべく、2011年末からエネルギー政策を所管する連邦環境省(BMU)と連邦経済技術省(BMWi)を中心として、太陽光発電買取制度の改正論議が進められてきた。この議論は、太陽光発電産業の雇用への影響を危惧する州政府の反対で困難を極めたが、最終的に連邦政府側が各州政府を代表する連邦参議院の要求をほぼ受け入れる形で合意が成立した。

 その主な内容は、(1)買取価格を2012年4月から20~29%引き下げる(2)2012年5月から買取価格を毎月1%ずつ引き下げる(3)1万kW以上の設備については設備区分に限らず固定価格買取制度の対象外とする(4)累計導入量が5200万kWに達した後は、その後に系統に接続する太陽光発電設備については固定価格買取制度の対象外とする(5)2012年4月1日以降に系統に連系する10kW超~1000kW以下の設備については、2014年1月から各設備の年間発電量の90%を固定買取価格制度の対象とする――などである。法案は2012年6月28日に連邦議会、6月29日に連邦参議院で可決、成立したが、法律の施行日は2012年4月に遡及するとされた。

 法案可決について、アルトマイヤー連邦環境相(CDU:キリスト教民主同盟)はこれによりパラダイム転換が起こり、「数年のうちに太陽光発電事業者は買取制度がなくても電力を市場で売却できるようになるであろう」と楽観的な見方を示している。また、太陽光発電産業を抱えるザクセン・アンハルト州のハゼロフ州首相(CDU)は「太陽光発電市場に静寂が戻り、投資家は安定的な投資計画が立てられるようになった」と語っている。

 他方、電気事業者の代表として連邦エネルギー・水道事業連合会(BDEW)は、修正法案は「正しい方向への第一歩」と評価する一方、頻繁に買取価格が改定される制度が導入されることで、連系受け付けを行う系統運用者の業務が増大するとの危惧を表明。太陽光産業の代表としてドイツ太陽光産業協会(BSW)は「買取価格の引き下げ率30%はあまりに大きすぎる」とコメントしている。

 今回の法改正は、ドイツの太陽光発電政策が大きな転換点を迎えていることを顕著に表しているといえ、世界各国も今後の行方に関心の目を光らせている。果たして「世界一の太陽光発電大国」はこれから、どのような道を歩んでいくのであろうか。

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