「米国における原子力発電所の高経年化対策への取り組み」
2012年11月7日
米国の原子力発電所では、40年間の運転免許を20年間延長する更新手続きが進められている。稼働している原発104基のうち、73基が更新手続きを終えて60年運転が許可されており、このうち10基は実際に40年間を超える運転期間に入った。こうしたプラントの長期間運転は、プラント機器の健全性を維持するための高経年化対策技術によって支えられており、世界各国でも材料劣化などの問題に対処する調査、研究が積極的に展開されている。ここでは、主に米国での高経年化対策への取り組み状況をまとめる。
□稼働中原子炉の7割に60年運転の更新許可
米国における原子力発電所の運転免許が初めて発行されたのは、1969年に遡る。新規運転開始時の有効期間は40年間と設定されたが、運転免許更新に備えて米国原子力規制委員会(NRC)は早い段階から高経年化の課題に取り組んできた。1982年にNRCは経年化研究プログラムを立ち上げ、本格的な調査、研究に着手。1991年にはこうした研究成果などを踏まえて、更新のための必要項目をまとめた連邦規則「原子力発電所運転ライセンス更新のための要求事項」を策定、発行し、さらに詳細な実施ガイドラインを作成するためにパイロットプラントによる実証プログラムをスタートしている。
この実証プログラムで得られた研究成果などを踏まえ、NRCは1995年により効率的で予測可能となるように連邦規則を改正、運転免許更新に関する規制の整備を整えていった。1998年に最初の更新申請が行われ、以後、更新手続きが相次いだ。その結果、2012年8月末現在、米国で稼動中の原子炉104基のうち約7割にあたる73基が運転ライセンス更新の審査を終え、60年運転が許可されているのが実情である。
□60年超運転に向けた研究の展開
米国の主な高経年化研究は、エネルギー省(DOE)による軽水炉持続可能プログラム(LWRSプログラム)と、産業界として米国電力研究所(EPRI)が進める長期間運転プログラム(LTOプログラム)で実施されている。さらに、NRCは運転開始後40年間を超えたプラントに対して経年管理対策として特別検査を実施しており、将来を見越した60年超運転に向けた取り組みも、すでに開始している。
DOEでは、原子力発電所の60年超運転を視野に入れて、NRCやEPRIなどと高経年化研究の課題を2007年から議論を始めた。2008年3月には、DOE、NRC、EPRIとの協議を踏まえて、同研究の範囲を特定し、同年10月にはLWRSプログラムをスタートさせた。
同プログラムは4段階に分けられている。まず、データの蓄積と解析手法の開発を進めて60年超運転の有効性を見極め(フェーズⅠ)、これらの研究成果をもとに、事業者が60年超運転に向けて免許更新と必要な投資をするかどうかの判断を行う(フェーズⅡ)。さらに、改良した解析手法など各種高経年化対策技術について、NRCの認可を得て60年超の運転免許更新の判断基準を確立し(フェーズⅢ)、実際に米国の原子力発電所が60年超運転に入る(フェーズⅣ)。LWRSプログラムはこのような過程を想定、現段階ではフェーズⅠの作業を行っている。
こうした研究の予算については、2009会計年度の200万ドルから徐々に増やされ、2011会計年度以降は2000万ドル以上の予算を投入している。DOEはフェーズⅢに入る2020年頃には、今の5倍となる約1億ドルの予算確保を想定している。LWRSプログラムは、①材料の経年劣化問題への対処②改良型原子燃料開発③改良型計器・情報・制御システムの技術開発④リスク情報を活用した安全余裕の特性評価⑤経済性・効率性の改善――の5つの分野に分けられ、この基本方針に沿った研究が進められている。
□エネルギー省、産業界が連携、NRCも厳しいチェック体制
一方、LTOプログラムは、DOEのLWRSプログラム開始とほぼ同時期の2009年1月に始まった。産業界として取り組んでいるLTOプログラムの目的の一つは、事業者が60年を超えて運転すべきかどうかを判断するため、必要な技術的根拠を確立する点にある。また、長期間運転における発電所資産の運用方法やその評価技術の確立も目指しており、安全性や性能のみならず、経済性の評価も実施することとしており、事業者が免許更新すべきか判断する時期である2014~2019年(LWRSプログラムのフェーズⅡに相当)に研究成果を出す目標にしている。
DOEによるLWRSプログラムと産業界によるLTOプログラムは、個別に立ち上げられたものだが、それぞれのプログラムを効率的に実施、より高い成果を得るため、2010年にDOEとEPRIは両プログラムの連携に関する覚書を交わした。これ以降、1年ごとにプログラムの実施計画などを示し合い、連携を図りながら研究を進めている。
また、運転免許を更新したプラントは、臨時検査や予防メンテナンスなどの経年化管理プログラムの実施を要求されるが、40年運転に入った2プラントについて、NRCは経年化管理プログラムに関する特別検査を実施している。同プログラムの実施状況を確認し、追加的な知見や今後、改良すべき点の抽出などを行うのが主たる目的である。特別検査から得られた知見は、60年超運転に際しての経年化管理プログラムの検討材料とされる。
想定される経年劣化のシナリオに関する検査や監視プログラムについての要求内容は、「一般的な経年化の教訓報告書」に記載されているが、現在、NRCは同報告書で網羅していない経年劣化事象に対応するための調査研究を行っており、知見などを共有するために、国内および海外との連携を強化していく方針である。材料劣化に関しては、原子炉圧力容器、炉内構造物、溶接部、コンクリート、ケーブルの絶縁材、埋設配管などが重要なキワードであり、60年超運転を前にこれらの研究成果を深める作業は必須だとしている。
さらに、米国では3つのパイロットプラントが選定され、DOEと産業界共同で材料経年劣化に関する実証プロジェクトが進められている。ニューヨーク州にあるジーナ原子力発電所やナインマイル・ポイント原子力発電所においては、原子炉内構造物の経年管理検査の改良、格納容器の総合的な評価、原子炉圧力容器の寿命予測のための試験片調査などを詳細に調査・研究しているのが現状である。
□原子力発電所高経年化対策会議での反応
2012年5月中旬、米国ソルトレイクシティーにおいて、国際原子力機関(IAEA)主催の第3回原子力発電所高経年化対策会議が開催された。2002年から5年ごとに開かれているが、今年の会議には37カ国から約340人の規制当局、大学、産業界等の関係者が参加、原子力発電所の高経年化対策について広く議論が展開された。同会議では、各国の福島第1原子力発電所事故対策の紹介はあったが、福島事故と高経年化対策との関連に言及されたものはわずかであった。
日本からは「原子力安全・保安院の報告によれば、福島事故に経年劣化が影響を与えた可能性は低い」という見解が発表され、米国の原子力エネルギー協会(NEI)は「米国の運転ライセンス更新に対する福島事故の直接的影響はない」とした。ただし、IAEAは「福島事故により、これまで示されていた経年劣化に対する裕度が減少し、設計基準の再評価や新たな研究が必要である」と指摘した。
同会議において、NRCは福島事故を踏まえた長期間運転の検討課題として、次の4点をあげ、検討を進めていることを表明した。
・今後の全電源喪失の規則変更を受けた経年劣化対策への反映
・2012年3月に発令されたNRCの3つのオーダー(仮設機器の配備強化、使用済み燃料プール計器の強化、ベント系統の強化)に関連する設備が経年化管理プログラムに含まれるべきかどうかの検討
・運転ライセンス更新審査時に新たなリスクについての審査を行うかどうかの検討
・長期間運転に関連した知見の評価の継続
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