「米国報道にみる日本の原子力ゼロ政策への反応」
2012年12月4日
日本政府は2012年9月14日、エネルギー・環境会議において「2030年代に原子力発電稼働ゼロを可能にする」という目標を盛り込んだ「革新的エネルギー・環境戦略」を決定した。日本が原子力ゼロを目指すという大きな方針転換は、米国ではどのように報道されたのか。主要紙の報道内容など、日本の政策への米国における反応を紹介する。
□経済や環境への損失を警告したワシントンポスト
ワシントンポスト紙は9月16日、“日本の原子力ゼロの夢”と題する社説を掲載した。日本の脱原子力の目標は、日本の経済や環境に対して深刻な損失を与えるであろう、という論評から始まり、2基を除いた全原子力発電所が停止している現状は、「電力不足や石油・天然ガスの輸入の急増を招いている。節電で産業活動に影響が出ているばかりでなく、国民の生活の質を低下させ、黒字であった貿易収支が赤字に転換するとともに、日本のCO2排出の不吉な前兆となっている」と指摘している。
さらに「日本政府は反原子力活動の要求に甘んじ、再生可能エネルギー(風力、太陽光など)で対処すると主張しているが、実現可能性やコストについて詳細な見通しを持っていない」と政策に具体的な裏付けが伴っていない点も挙げた。また「観測筋は、“民主党は何カ月後かに控える選挙で票を失いたくないだけだ”と考えており、単なる美辞麗句を並べているだけかもしれない。日本国民はそのような選挙戦略に巧みに操られているだけで、実際に日本は原子力を放棄することはないかもしれない」と論評している。
□化石燃料依存への回帰を指摘したウォールストリート・ジャーナル
ウォールストリート・ジャーナル紙は9月14日、“日本は段階的な原子力廃止へ向かう”という見出しの記事を掲載した。この記事では「原子力ゼロ政策は約束ではなく希望であり、原子力廃止には更なる議論が必要である」という政府の説明も加え、玉虫色の政策を発表した野田政権は各方面から厳しい追及を受け、政治的な混乱にもつながっていると指摘。1980年にスウェーデンは、2010年までに12基の全原子炉を廃止することを決めたが、実際に廃炉としたのは2基だけで、2010年には原子炉新設を決定している。このようにスウェーデンで脱原子力政策が実行できていない事実にも触れ、日本の政策も懐疑的であるとほのめかしている。
「もともと日本が原子力を推進した理由は、化石燃料(石油、天然ガスなど)輸入への過度な依存を減らすためであったが、原子力発電を廃止するならば、再び日本はそのリスクにさいなまれるだろう」と解説。記事の最後は、電気事業連合会の八木誠会長の「(政府の)判断は極めて遺憾。政府が現実的な政策決定をすることを望む」というコメントで締めくくられている。 「もともと日本が原子力を推進した理由は、化石燃料(石油、天然ガスなど)輸入への過度な依存を減らすためであったが、原子力発電を廃止するならば、再び日本はそのリスクにさいなまれるだろう」と解説。記事の最後は、電気事業連合会の八木誠会長の「(政府の)判断は極めて遺憾。政府が現実的な政策決定をすることを望む」というコメントで締めくくられている。
□反原子力のニューヨークタイムズも厳しい批判
ニューヨークタイムズ紙は同じく9月14日、“日本は2040年までに原子力を廃止する政策を決定”という見出しの記事を掲載した。この記事の執筆記者は、福島事故に関して度々記事を書いてきており、その論調は一貫して反原子力と受け取れる主張を展開してきた。今回の原子力ゼロ政策は、そのような反原子力の視点からも、手厳しい批判を受けている。記事の要点は「多くの人が2030年までに廃止することを期待したが、政府は2040年までに先延ばししたために人々は怒っている」との内容である。
その他にも、「電気事業者の利益を守るために40年を超えた運転を認められる可能性がある」、「2012年の夏に停電が起きなかったことは、日本が原子力なしでやっていけることを裏付けしている」という内容が盛り込まれている。また、今回の原子力ゼロ政策は「脱原子力派あるいは産業界のいずれの支持も取り付けられないであろう」とも見通している。
□米NEIは原子力ゼロ政策実行に懐疑的な見解
一方、米国の原子力エネルギー協会(NEI)の報道担当者は9月14日、「今日の意思は、明日の現実ではない」とコメントし、日本の原子力ゼロ政策の実行に懐疑的とする見解を示した。スウェーデンの原子力政策にも触れ、「2010年までに原子力発電所を廃止することを決めたが、現在でも10基の原子炉が運転し、電力の40%を原子力が供給している」という事実を例に挙げた。ただし、「日本とスウェーデンの大きな違いは、スカンジナビア諸国は福島のような事故を経験していない」とも付け加え、安全運転の実績が世論に与える影響が大きいという認識を示した。
また、アイダホ国立研究所のディレクターであるグロセンバチャー氏は、9月18日に開催されたシンポジウムで「日本とドイツの脱原子力政策は、先進工業国として経済競争力を欠く困難に直面するだろう」とした。
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