「大幅に上昇したオーストラリアの小売電気料金」
2012年12月26日
オーストラリア(豪州)では、1990年代後半からの規制緩和により、州電力庁の分割民営化、全国で統一した卸電力市場の創設、段階的な小売の自由化といった電力システムの制度改革を実施してきた。ところが、近年になって電気料金が大幅に上昇を続け、今後もこの傾向が継続するとの見通しが強い。実態と背景を探ってみる。
□3年間で40%も値上がりした家庭用電気料金
自国の豊富な石炭資源を利用できることから、豪州では長年にわたって割安な電気料金の恩恵を享受してきた。しかし、2007年以降、料金上昇が続いており、豪州エネルギー消費者協会(EUAA)が2012年3月に公表した国際比較調査の結果によると、既に日本、欧州連合(EU)平均、米国の水準を上回っている実態が明らかになった。2008年の世界金融危機以降の対米ドル高、対ユーロ高となった豪ドル為替相場の影響を考慮しても、こうした国々よりも高い水準となっている。
2007年から2010年の3年間の家庭用電気料金の値上がり幅は約40%に達しており、燃料価格の高騰によって上昇している欧州と比較しても、短期間で急激に値上がりしている実情が明確だ。さらに、豪州エネルギー市場委員会(AEMC)は、電気料金の上昇傾向は今後も続くと予測している。なお、2012年の豪州の家庭用小売電気料金の平均単価は25.21豪セント(約20.42円)/kWhとなっている。
□背景にある燃料価格の高騰、新設設備の増加、環境関連費用
こうした電気料金の上昇に大きく影響しているのが、卸電力調達費用と送配電線使用料の高騰である。送配電線使用料はピーク需要の増加、電力供給信頼度基準の強化、老朽設備の更新などに必要となる莫大な投資、さらには料金規制上の問題を背景に急上昇している。卸電力調達費用の増加は、現行のスポット価格は比較的安く推移しているものの、小売料金の規制期間の卸電力調達コストの上昇が想定されているためだ。
この背景には、国際的な燃料価格の高騰や新規参入者の増大に伴う新設設備の増加、炭素価格制度の導入などがある。2012年7月から実施された炭素価格制度は、火力発電所を含むCO2排出量の多い事業者に対して、排出価格を1トン当たり23豪ドル(約1860円)の負担を義務化しており、これによる初年度の平均的な家庭の負担は電気料金で10%(週3.3豪ドル、約267.3円)アップすると試算されている。
また、再生可能エネルギーに関しては、2020年までに発電電力量の20%(450億kWh)を再エネでまかなうという目標を掲げた「再生可能エネルギー目標制度(RET)」があり、その中心を風力発電が担っている。同制度は2001年4月にスタート、小売事業者に販売電力量の一定割合について、再エネ証書の調達を義務付けており、その結果、風力発電の導入が進んでいる。この一方で、間欠性電源である風力発電にはバックアップ電源が必要であることから、風力発電の増加と並行して、負荷追従性が高いオープンサイクルガス発電も増加している。AEMCによると、最近の電気料金上昇分の7%はRETによる商業用再エネ発電の導入費用、3%は州政府が独自に行っている固定価格買取制度や省エネ証書制度などの費用とされる。炭素価格制度やRETが電気料金に与える影響はまだ軽微だが、今後は増加していくことが確実といえる。
□連邦政府が「電気代が安価な時代は終わった」と明言
豪州連邦政府は2012年11月、基本的なエネルギー政策である「エネルギー白書」を公表した。世界的な環境意識の高まりから、豪州でも2012年7月に排出量取引の前段階として炭素価格制度が導入され、長期的には国産資源を活用した石炭火力発電から、クリーンエネルギーへの移行を目指し、今後10年間は天然ガスを移行期におけるエネルギーとする青写真を描いている。
豪州エネルギー市場管理会社(AEMO)はこれを実現するためには、2030年までに全国電力市場(NEM)管内で発電所や送電線の新設に720億~820億豪ドル(約5.8兆~約6.6兆円)もの投資が必要であるとしている。また、別の試算では、送電投資に240億豪ドル(約1兆9500億円)、配電投資に1200億豪ドル(約9兆7000億円)が必要という結果も報告されている。しかし、民間企業にとっては、政策変更懸念や炭素価格リスクがつきまとい、先行きの不透明感から投資判断に苦慮しているのが実情だ。
連邦政府は電気料金が上昇している現状を認め、「電気代が安価な時代は終わった」と明言し、民間企業による発電投資や送配電投資を促すため、更なる規制緩和を進める方針を打ち出している。しかし、連邦規模のエネルギー政策は、連邦と州のエネルギー大臣で構成される「エネルギーに関する閣僚会議(MCE)」で議論され、MCEの上位機関で、連邦と州の首相の意思決定機関である「政府間評議会(COAG)」で決定されるように、エネルギー政策には州政府の意向が色濃く反映される。特に規制緩和は州政府の権限を弱めることを意味し、反発も予想されるため、連邦政府のシナリオ通りに進むとは限らない可能性もある。
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