海外電力関連 解説情報

「ドイツにおける脱原子力政策による電力供給構造の変化と課題(上)」

2013年2月27日

 我が国のエネルギー政策を議論する際、ドイツが進める脱原子力発電、再生可能エネルギーの積極導入が“成功例”として引き合いに出されるケースが目立つ。それでは、ドイツに見習って再エネ設備を大量に建設していけば、脱原発と電力の安定供給を同時に実現する体制は現実のものとなるのであろうか。世界が注目するドイツの挑戦は、電力需給の現実を分析する過程で様々な課題が浮かび上がってくる。再エネ設備増強の裏で、安定供給に欠かせない供給予備率が低下するとともに、風力や太陽光といった再エネ発電が気候の変化による影響を避けられないために、想定値を上回って発電した場合には周辺国に輸出して過剰電力を調整、逆に不足する際にはフランスなどの原子力発電国からの輸入に頼る傾向が表れている。さらに、風況が良いドイツ北部の風力発電による電力を南部の需要地に送る送電系統整備が十分に進んでいない事実も見過ごせない。つまり、再エネによる電力は、原発の代替機能としての火力発電の燃料節約になってはいるものの、最大需要への役割はいまだに担えていないのが実情であり、需要と供給を調整するスマートグリッドの開発や電力貯蔵技術の高度化など、革新的な技術の実用化なしに再エネを増やしていくことへの限界も見えてきたのが現実といえよう。

□原子炉停止を火力、再エネ、輸出入バランスで補完

 ドイツでは、福島事故後の2011年7月、原子力法の改正が連邦両院で可決され、同事故後に停止していた比較的古い原子炉8基(出力合計:882万kW)の再稼動を取り止め、残りの9基(出力合計:1270万kW)については2015年、2017年、2019年に各1基、2021年と2022年には各3基を閉鎖する脱原発計画を決めた。

 同国の2010年の発電設備容量は1億7019万kWで、石炭を主力とした火力発電が48%を占め、次いで水力を含む再エネが35%、原子力が13%、その他4%。また、発電電力量は6296億kWhで、石炭火力が42%と最も多く、原子力は22%と2位であった。再エネは、2000年4月に「再生可能エネルギーに優先権を与える法律(EEG)」が施行されたことで飛躍的な伸びを示し、2010年の発電設備容量は太陽光が1755万kW、風力が2719万kWに達し、太陽光設備容量では世界トップ、風力でも米国、中国に次ぐ世界3位になった。火力発電は、輸入に頼る石油、石炭(無煙炭)が減少傾向にあるのに対し、世界6位とされる豊富な国内資源に裏付けされた褐炭火力は最近10年間、ほぼ同レベルで維持され、再エネ導入に伴う需給調整電源と位置づけられるガス火力の増強も継続されてきた。

 それでは、こうした電力需給構造は原発停止でどのように変わったのか。8基の原子炉を停止した2011年3月の翌月に当たる2011年4月から2012年3月までの1年間(A)と前年度にあたる2010年4月から2011年3月までの1年間(B)のエネルギー源別国内発電量と国内消費量を比較してみよう。消費電力量は(A)が5796億kWh、(B)が5917億kWhとほぼ横ばいで推移した。ただし、エネルギー源別発電量の内訳では、原子炉停止の影響によって原子力が1341億kWhから919億kWhに422億kWh下がり、比率も23%から16%に低下している。代わって火力が3809億kWhから3923億kWhへと114億kWh増えて、比率も64%から68%にアップ。水力を除く再エネが527億kWhから710億kWhに184億kWh、比率が9%から12%に上昇した。さらに、電力輸入が442億kWhから519億kWhに77億kWh増加、輸出を582億kWhから556億kWhに減少させ、輸出入のバランスを図ることによって全体として原子力の発電量低下を補完した。

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□太陽光や風力が高い伸びを維持しても原子炉全廃は補完できない

 ドイツ政府は、原子力による発電電力量の減少を補うため、従来型の火力発電の増強とともに、風力、太陽光などの再エネ開発をさらに加速させる方針である。ただし、ここで注目しておく必要があるのは、電力設備の稼働率の問題だ。

 2011年のドイツにおける電力設備別稼働率は、トップである原子力が87%、次いで褐炭火力の78%と高い実績を残しているのに対して、風力は19%、太陽光は11%と格段に低い。このため、稼働率が高い原子力の停止分を補うには、風力や太陽光の設備容量に換算すると5~8倍も増強する必要があることになる。

 最近の風力設備増加は一時の急激な伸びから飽和傾向を示しており、ここ数年は年間200万kW程度の伸びである。また、太陽光の導入スピードは加速しており、年間700万kWを超えるまでになっている。ただし、2012年6月の固定価格買取制度改正で、導入量が縮小していくとの見方もあるのが現状だ。仮に、太陽光や風力の設備容量増加がこの高い水準を維持したとしても、全ての原子炉停止によってなくなる発電設備をカバーするには10年以上の年月が必要と試算され、原子炉全廃時期の2022年には間に合わない可能性が高い。

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□欧州送電系統運用者は風力や太陽光発電を信頼性なき設備と算定

 欧州の送電系統運用は2009年7月以降、欧州送電系統運用者ネットワーク(ENTSO-E)が全体の設備状況や見通しを集約し、予測報告(SO&AF)として毎年公表している。この中で、各国の設備計画が取りまとめられ、需給見通しとともに、電力系統としての健全性を示す「供給信頼度水準」が評価されている。

 将来の設備信頼度を予測するために、まずどのような需要に対応するかを想定。年間を通じて最も需要が高くなる時点で評価することになっているが、欧州地域では、冬季と夏季に需要ピークがあり、冬季は毎年1月の第3水曜日の午後7時、夏季は7月の第3水曜日の午前11時とされている。それぞれの需要の大きさは、長期的な経済成長や電力需要の伸びを前提に算出される。

 これに対する設備については、当該時刻に存在すると予測される全ての発電設備を予測して、「供給信頼度水準」を評価する。その際、まず火力や原子力、再エネなどの発電設備の全てを加算、正味総発電容量(NGC)として整理。次にこうした設備について定期点検などで使用できない可能性を推定する。また、風力や太陽光は、全く風がない、日照もないケースもあり得るので、多くの系統運用者は、需要想定時に働かない利用不可容量として、信頼性のない設備に算定している。このような設備をNGCから除外した発電容量を信頼できる利用可能容量(RAC)と呼ぶ。基本的には、このRACが想定される需要を上回れば問題ないのであるが、系統運用上はRACがさらに一定量の余裕度を最大需要に加味した値を確保できれば、供給信頼性があるものとみなされる。

 □原子力停止前後の供給信頼度の変化と課題

 SO&AF見通しにおいては、需要側や設備側の想定に関しいくつかの前提条件があって、シナリオ別に分析されるが、ここでは電源計画として「未確定ではあるが各送電系統運用者が得ている情報から実現性の高いと判断される計画を考慮した見通し」(シナリオB)について説明する。ENTSO-Eは、2011年2月に2011年版SO&AFを、同年12月に2012年版を公表しているが、この2つの見通しからドイツの発電設備に関して、2011年3月の原子炉停止前後の開発計画を比較してみる。

 停止前の開発計画では、原子力は2025年を超えても安定的に電力供給することとされていた。火力は、CO2削減に向けて総発電設備に占める割合を減らし、2025年には2011年比で10%減、再エネ設備は2025年までに2011年の約1.5倍に増強する計画であった。

 これに対し、停止後の計画は、2022年を最後に原子力はゼロとなるため、再エネの導入を加速させ、2025年には2011年の2.6倍とする挑戦的な内容に変わった。具体的には、毎年約600万kWの再エネ増強を10年以上続ける必要を求められるものだ。現在の風力200万kW/年間、太陽光700万kW/年間という増加ペースが落ちなければ、何とかなりそうな数字ではあるが、設備を設置する適地の減少に加え、再エネ導入による電気料金上昇を抑制するための措置が進む中で、容易に達成できるとは思われない。

 再エネ増強が計画通り図られたとしても、SO&AFでは風力と太陽光の発電設備が信頼性のない設備に算定されているため、RACは原子炉停止前よりも全ての基準年において減少している。ドイツにおける冬季のピーク需要が8500万~9000万kWであり、系統運用上の余裕として500万kW程度は必要であることを考慮すると、停止後の供給信頼度の健全性は現時点でも危うい状況にあるといえる。RACの2015年から2020年にかけての変化(減少)は350万kWで、欧州35カ国の中でドイツが最も大きく、2015年および2020年時点における供給予備力(RAC-最大需要)のNGCに対する比率(供給予備率)も35カ国で2番目に悪い国になっているとENTSO-Eは指摘している。

 これを改善するには、原子力に代わる信頼性のある電源として、CO2排出増加につながる火力発電設備の増強に頼るしかないが、住民の了解取得などで必ずしも順調にいっていない。また、再エネの増加に伴って生じる短時間の出力変動に対し、これを吸収する設備として石炭火力が維持され、ガスコンバインド火力発電の導入も進められていく必要がある。今後の火力発電には、再エネの出力変動を補完する役割がますます重要となるが、調整用電源になるとほとんど休止状態のプラントが出るなど稼働率は悪化して事業者の負担が増えるため、こうした設備への何らかの導入インセンティブの創出が政府の課題となっている。 (つづく)

 

 

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