「ドイツにおける脱原子力政策による電力供給構造の変化と課題(下)」
2013年3月8日
□質的転換が求められる再エネ開発目標
ドイツは、欧州の中で最も多くの多国間電力系統を保有し、電力の輸出入が一番多い国である。年間の総電力消費量の約10%程度を輸出入しているのが実情だ。基本的にフランスやチェコなどから輸入し、オーストリアやスイスなどに輸出している。2011年の輸出入状況は、前年に比べて輸入が約80億kWh増加、輸出が約40億kWh減少し、相対的に輸入する方向に110億kWh程度シフトした。当初、脱原子力により純輸入国になるかと思われたが、2011年は少なくとも輸出国を維持した。しかし、輸入の大半を占めるフランスやチェコ、スウェーデンなどの国は、いずれも原子力発電比率が30~70%と高い国であり、この点では国内の脱原子力政策と矛盾しているといえる。
導入推進を掲げる再生可能エネルギーは、出力が絶えず変動するため、系統に組み込んで需要に合わせてコントロールすることは難しい。ドイツエネルギー・水道事業連合会(BDEW)は2011年5月、脱原子力による電力供給の短期的な変化について検証を行った。その結果、風力および太陽光の出力変動は大きく、さらに瞬時に変化するため、国内の調整用電源だけでは十分に吸収できず、大きな変動があった場合には輸出でその変動(増加)をカバーする実態が明らかになった。
2007年から2011年までのドイツにおける風力と太陽光を含む再エネ(除く水力)の月ごとの発電電力量と輸出電力量の推移、予測が難しく変動も速い風力について最も多い輸出先であるオーストリアとスイスへの輸出電力量との関係を分析すると、2007年から2010年ごろまでは再エネにより発電した電力が基本的に国内ではなく、他国への輸出に回されていること、さらに風力発電量と2国への輸出量に強い相関関係が見られることから、両国に豊富にある揚水発電所向けに電力が輸出されたことを示すと考えられる。
一方、ベース電源である火力、原子力、水力に輸入電力量を加えたものと、各月の国内電力消費量を比較すると、2010年ごろまではかなりの一致が見て取れる。これは、国内需要に対して3つのベース電源と輸入によって調整していたことがわかる。つまり、これまでのドイツにおける電力需給の運用は、調整が難しい風力などの再エネは輸出に頼り、国内需要は原子力など3つのベース電源と輸入によって対応されてきた基本的な構図が浮かび上がる。再エネは国内ではなく、もっぱら他国への輸出用電力となっているのである。
ただし、原子炉8基が停止した2011年3月以降、変化が見られる。ベース電源である原子力発電の減少を火力で十分に補完できないため、これまでの構図を変えざるを得なくなっているようだ。ドイツでの再エネの開発目標が、単なる「設備の拡大」から「需要への対応」へと質的転換を求められるようになったと考えられる。
□次々に浮上する再エネ推進の問題点
8基の原子炉停止後、初めて迎えた冬の2012年2月、ドイツの電力系統は極めて不安定な状況となった。天然ガス供給の予期しない低下や、需要予測と現実があまりに乖離していたことから、2011年夏に連邦系統規制庁(BNetzA)が送電事業者に準備させていたドイツとオーストリアにある停止中火力発電所を一度ならず使用する事態となった。同庁はこれを重く見て、原因を調査するとともに、今後の対策をまとめた報告書を2012年5月に発表した。
報告書では、2012~2013年の冬季にも停止中火力の稼働を準備すること、既設の火力発電所の閉鎖は規制措置により回避すべきこと、再エネは系統で受け入れ可能な範囲にとどめるべきこと、などを提言した。こうした事態を受けて、政府は2012年11月、冬季における需要ピークに備えて、規制当局と送電系統運用者が系統信頼度の維持に重要な電源として指定した老朽火力の運転継続を義務付ける法案を連邦議会で決定した。
また、ドイツ北部の風力発電による電力を需要地である南部に送電するのに、南北の送電系統の脆弱性から、電力が国外のチェコやポーランドの送電系統を迂回して流れるという電力潮流問題も顕在化している。2012年になり、チェコの送電運用会社は、両国間の電力潮流がしばしば送電設備容量を大きく超えるという理由で、統合されているオーストリアとドイツの市場の分割を求めるとともに、有害な潮流に対応するためチェコとドイツの国境に、計画外潮流を抑制し安定した電力管理を行うための移相変圧器を設置しようとしている。チェコ側は、異常潮流が原因でチェコ国内が停電することになれば、損害賠償を求めると警告している。
さらに、2012年11月のBDEWの発表によると、ドイツの2012年第3四半期の国外への電力輸出量が輸入を146億kWhも上回った。これは、再エネ発電によるもので、発電電力量急増によってスポット価格が下落し、オランダなどの周辺国が割高な火力発電所を停止させ、ドイツからの輸入に切り替えたためといわれる。ドイツ国内では割高な料金となっている再エネ電力が割安に輸出されている皮肉な結果を招いているとの指摘もある。こうした問題から、電力需要家の団体であるドイツ工業会(VIK)は2012年11月、ドイツが電力輸出国を保っているという状況が、ドイツのエネルギー政策がうまくいっていることを意味するものではないと批判した。
□見えてきた限界と技術革新の重要性
ドイツは、脱原子力という急ブレーキを踏み、風力や太陽光などの再エネ導入ペースを従来よりも一段と上げて前進しようとしている。電気料金の上昇を無視すれば、その挑戦的なペースでの設備増強は可能かもしれない。しかし、それで「再エネによって脱原子力を図る」が実現するかというと、決して簡単ではない。
需要に対する供給力の信頼性を下げずに、脱原子力を実現する(原子力比率を下げる)には、現時点ではCO2削減は難しくなるが、同規模の火力発電のバックアップが必須となる。再エネ電力は、代替火力の燃料代の節約にはつながるが、最大需要への備えとしての役割は担えない。さらに、再エネ電力を他国に輸出するというこれまでのような国内需要から切り離した運用には限界が見えてきている。つまり、単に再エネの発電設備を作ればいいという時代から、他の電源や他国と調和をとりながら、電力供給の信頼性を確保していく新しい時代に入ったのである。
ドイツ政府も課題としてあげている系統の強化拡大やベース電源、調整電源としての火力発電の増強も重要であるが、再エネ電力を自国内で吸収する努力も求められることになる。需要と供給を調整するスマートグリッドの開発、電力貯蔵技術の飛躍的な高度化など、新しい技術開発を実現しない限り、これ以上の再エネ増加は限界にきているように感じられる。ドイツが目標とする技術革新への挑戦がいよいよ始まったということであろう。
さて、このような現状に対し日本国内では、ドイツの挑戦が「再エネの割合が原子力を超えて25%に」とか、「脱原子力後も電力輸出国」のように、順調に進んでいるかのような報道も見られる。しかし、ドイツは日本よりも十年も前から行動を起こし、ようやくこれから本当の挑戦が始まるという状況を正しく理解しないで表層だけを真似するのはあまりに危険であろう。
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