「欧米で相次ぐ再エネ発電設備メーカーの経営破綻と国民負担の増加」
2013年7月4日
世界的には再生可能エネルギー導入によって、CO2排出量の削減や雇用創出などの成果が強調される一方、再エネ導入が進む欧米諸国では、固定価格買取制度(FIT)による電気料金の上昇や系統運用への支障などの問題が発生しているだけでなく、再エネ発電設備メーカーの経営破綻が大きな課題として浮上している。再エネ発電は、あたかも新時代の"救世主"であるかのごとき印象で受け止められるが、中国メーカーの急激な台頭に伴う、欧米における再エネ産業の苦境という負の側面にも目を向ける必要があるといえよう。
□欧米で増え続ける安価な中国製再エネ設備の輸入
欧米では、再エネ導入が推進された結果、中国などから大量に再エネ発電設備が輸入されている。メーカー別に太陽電池の輸出シェアの推移を見ると、2005年時点ではシャープや京セラといった日本メーカーとQセルズなどドイツメーカーが大きなシェアを占めていたが、2008年にはサンテックとJAソーラーの中国メーカー2社が急増、2010年には中国企業4社が輸出量の4分の1を占め、その多くは欧米諸国に輸出されている。
また、2010年時点では、米国における太陽電池モジュールの輸入総額23億9800万ドル(約2350億円)のうち、中国からの輸入額が48.1%を占める。さらに、2011年時点では米国の風力タワーの輸入総額の44%は中国製である。
欧米の報道では、欧米の再エネ発電会社が中国製品を輸入する理由として低価格を挙げている。各種資料でも、欧米製よりも中国製の太陽電池や風力タービンが大幅に安く、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)2012年版によると、2010年時点の風力タービンの平均価格(ドル/kW)は、中国の644に対して、米国1234、日本1991、ポルトガル1261、スウェーデン1858、スイス1924、オーストラリア1725と中国製に比べてほぼ2~3倍となっている。
□相次ぐ欧米の再エネ発電設備メーカーの経営破綻
こうした結果、中国の再エネ発電設備メーカーが成長、欧米の大手再エネ発電設備メーカーが衰退しているのが実情だ。欧米では、大手メーカーが経営破綻に陥り、再エネ分野での産業育成機会が失われつつある。ドイツでは、Qセルズやソロンなど3社が経営破綻に追い込まれた。
Qセルズの場合、2012年4月に事業継続が困難となったため、再建計画の実施を見送り、倒産手続きを申請した。従業員数が1999年の創業時の19人から2008年に2500人へと急増した同社は、破綻に至るまでに解雇を繰り返し、韓国のHanwhaグループが同社を買収した2012年9月には、従業員1300人が引き続き雇用されたが、さらに199人が解雇となった。
米国でも、革新的な太陽光発電技術で広く知られた大手太陽光電池メーカーのソリンドラが2011年8月、日本の民事再生法にあたる米国破産法の適用を申請する計画を発表、翌9月に経営破綻し、従業員1100人が解雇された。同社は2011年5月にオバマ大統領が、再エネなどの分野で雇用創出を目指す「グリーンニューディール」政策をアピールするために訪問した象徴的な企業であった。
こうしたケースに表れているように、中国製の安い再エネ発電設備が大量に輸入されたため、経営破綻や工場閉鎖、規模縮小によって雇用機会が失われ、失業者が増えているのは、ドイツや米国にとどまらず、デンマークやスペインなどでも深刻な事態として受け止められ、欧米でたびたび報道されている。
□欧米の再エネ導入支援が中国メーカーを成長させる構図
欧米では、再エネ導入を支援するため、太陽電池メーカーに対して、補助金、所得税や固定資産税の控除、融資などの助成制度が提供されてきた。しかし、助成制度の適用を受けたメーカーが倒産すると、その経済的損失は実質的に国民の税金で負担されることになる。
ドイツでは、太陽電池メーカーに連邦政府や州政府、欧州科学基金、欧州地域開発基金が、税額控除や補助金の交付、などを与えてきた。助成制度の資金源は、ドイツ国民が支払う国税や州税、欧州連合(EU)加盟国の負担金である。設備投資額の3割相当の助成金を受けていたと推測されるQセルズをはじめ、数多くの太陽電池メーカーが倒産したことにより、ドイツ国民や欧州国民に損失を与えることになる。
米国では、2009年の「グリーンニューディール」政策の一環として、エネルギー省が再エネ発電設備メーカー4社に計12億8200万ドル(約1260億円)の融資保証を行った。このうち、ソリンドラは5億3500万ドル(約520億円)の融資保証を受けていたが、このうち約8割は焦げ付くことになり、税金が投入される見通しである。
欧米では、再エネ発電設備の購入に対する補助金の交付や税控除、融資、加速償却の許可などによって、助成金を得た欧米の再エネ発電会社が自国の再エネ発電設備メーカーから発電設備を購入することによって、再エネ発電設備メーカーが成長し、雇用機会も拡大すると想定していた。ところが、実際には欧米の再エネ発電会社は自国民が負担した助成金で、中国製再エネ発電設備を購入して発電、自国民が電気料金で支払ったFITの恩恵を受け取っている。その結果、欧米のメーカーは経営破綻に追い込まれ、中国メーカーは成長している。つまり、欧米の国民は、電気料金や税金を通じて中国の再エネ発電設備メーカーの成長を間接的に支援している構図が形成されているのである。
以上
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