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ドイツのエネルギー事情は今― 風力や太陽光のために火力発電をつくっている ― (原子力文化振興財団「原子力文化」2014年5月号掲載記事)

2014年5月30日


ドイツのエネルギー事情は今
― 風力や太陽光のために火力発電をつくっている ―
科学技術の先進国であり、一方では「黒い森」に代表される自然保護の国……ドイツという国には、そういったイメージがあります。
そのドイツが脱原発で、再生可能エネルギーに力を入れていると、テレビや新聞で伝えられます。
実態はどうなんでしょうか。
ドイツのエネルギー政策や事情についてお話合い願いました。


川口 マーン惠美氏 (かわぐち・まーん・えみ)
作家、拓殖大学日本文化研究所客員教授
大阪生まれ。日本大学芸術学部音楽学科卒業後、85年ドイツのシュトゥットガルト国立音楽大学ピアノ学科修了。シュトゥットガルト在住。90年『フセイン独裁下のイラクで暮らして』で、鋭い批判精神が高く評価され注目を浴びる。『住んでみたドイツ 8勝2敗で日本の勝ち』『ドイツで、日本と東アジアはどう報じられているか?』など著書多数



東海 邦博氏 (とうかい・くにひろ)
(一社)海外電力調査会 企画部副部長
1951年 和歌山県生まれ。74~76年パリ大学留学を経て、77年東京外国語大学フランス語学科卒。海外電力調査会入社後は、調査部主任研究員、欧州事務所長(パリ)、企画部主管研究員などを経て現職。欧州中心に海外の電力・エネルギー調査業務に従事。電力・エネルギー・原子力関係紙・誌に寄稿多数。『電気事業とM&A』などの共著書がある



東海 ドイツはもともと石炭が豊富な国で、一九七三年のオイルショック前は石炭中心で、残りを輸入石油で補っていたと思いますが、オイルショックの後、「国内炭をしっかり生産していきましょう」、それから「原子力の開発をやりましょう」、この二つが、大きなものとして出てきたと思います。
 ところが、一九八六年に旧ソ連に属していたウクライナのチェルノブイリ事故で、原子力推進であった社会民主党(SPD)が原子力反対になりました。その前から緑の党など、原子力反対の政党はあったと思いますが。


川口  私がドイツにまいりましたのは八二年で、緑の党が連邦議会に議席を得たのは八三年です。当時、緑の党は環境問題と男女同権などがテーマで、国政に参加できるような成熟した党ではなかったのですが、とにかく原子力には大反対でした。その当時の反原発は、まだ学生運動の流れのようなところがありましたが、その後、チェルノブイリでパッとスイッチが入って、国民全体の運動につながっていきます。
 反原発デモに一〇万人が集まるような時代がかなり続きました。そういう意味では、ドイツの反原発の歴史は、大変長いといえます。 だから、「原発についてどう思っていますか」という質問をしたら、福島の事故前でも、ドイツで一六歳以上の人間なら、みんな何か言ったでしょう。原発の是非について、誰もが一度は考えたことがあったという事です。
 私の一番上の娘がチェルノブイリ事故の翌年の生まれですが、放射性物質がバイエルン地方の草原に落ちて、それを牛が食べて、微量なのでしょうが、牛乳から放射性物質が出たので、お母さん方がパニックになってしまった。これを機に、世論は決定的に変わったと思います。
 SPDも反対に回り、緑の党と意見を同じくするようになりました。SPDは労働者の党ですから、それまでは原子力産業の雇用を念頭に、あからさまには反対していませんでした。


東海 その後、キリスト教民主同盟(CDU)のコール首相の時代があって、すぐに脱原発にはいかなかったですね。
 九八年に緑の党とSPDの連立政権ができて、二〇〇〇年に合意して、二〇〇二年に法律ができて、脱原発を決めた。
 ただ、あの頃は個々の原発の運転期間を原則三二年間にする、という話でした。それでまたずうっとやって、二〇〇五年に大連立でメルケル政権ができます。


川口  メルケル首相のCDUと、SPDが大連立をしました。
 その大連立の交渉のとき、エネルギー政策に関しては方針がまとまらず、「両党の意見は一致しないということを確認した」と発表するしかなかった。
 ですから、その後四年間膠着状態でエネルギー政策が何も進まなかったと記憶しています。


東海 その後、二〇〇九年に今度はCDUと自民党(FDP)という原子力推進派の連立政権になって、二〇一〇年一〇月法律を改正して脱原子力の見直しをします。脱原発ではやはりいけないという世論―これは産業界や労働界だと思いますが―があって、メルケルさんは二〇一〇年、一度、見直しをして一二年間の運転期間延長になった。



再生可能エネルギー法は、気候変動防止にも役に立っていないと


川口  二〇〇九年の二月にある取材のお手伝いをして、ベルリンで経済産業省に取材に行きました。そこでは役人が「次の政権は絶対にSPDが落ちる。CDUとFDPになれば、エネルギー政策はどんどん変わります」と言っていました。そのとおりになったのです。
 ただ、実際にCDUとFDPが二〇一〇年に原発の運転期間を延長したとき、国民の反発が激しかった。それで、メルケル首相はあわてたのだと思います。
 そしてすぐ日本の事故です。メルケル首相はこれを機に政策を変えるべきだと思ったのではないでしょうか。


東海 日本の事故があって、もう一度脱原子力に戻った、という単純な話ではなくて、いろいろ政治的な背景があって、事故を機会に戻ったのですね。


川口  ええ。「福島が私たちを変えた」と言ったのは、政治的な理由の方を隠したかったからだと私は思っています。
福島の事故が三月一一日で、その頃はメルケル首相が行なった運転年数の延長が批判を浴びていたときです。翌土曜日、勢いづいた反原発派は、バーデン・ヴュルテンベルク州の原発の一つを止めろと言って、人間が手を繋いで一四キロの列を作るデモをやりました。そして、その後すぐに行われた州議会の選挙で、なんと、緑の党が政権を取ったのです。
この州は保守的で戦後五十数年間、CDUの牙城のような州でした。得票はCDUが多かったのですが、第二党に躍り出た緑の党がSPDと連立して政権を奪ってしまいました。
 翌年、他の州でも選挙が控えていたので、メルケル首相は焦っていたでしょう。


東海 なるほど。


川口  二〇〇六年に政府がつくった研究・イノヴェーション専門家委員会という調査機関があります。研究や技術開発に関する調査をして、毎年一回その結果を政府に提出するのですが、それが今年は二月二六日でした。


 衝撃的なレポートで、結果だけ申しますと、「再生可能エネルギー法は、気候変動防止にも技術の革新にも役に立っていない。同法律を継続することを正当であるとする理由は一切見つからない」と述べています。
 この法律は、再生可能エネルギーを二〇年間固定価格で買い取ることを定めていますが、その財源は市民の払う電気代です。しかし国民は、「気候変動を防止するためだから」と、電気代が上がっても我慢を強いられていた。それが「全然役に立たない」となると、国民はショックです。
 今までは、与野党の攻防もあり、エネルギー政策の見直しは一向に進みませんでしたが、現在、SPDとCDUが大連立したので、潮目が変わるはずです。だから、こういうレポートもニュースになり始めたのでしょう。


東海 そうですね、ドイツは福島事故を契機にして、脱原子力に戻りますが、原子力の代わりにドイツが開発を進めてきたのが再生可能エネルギーです。九〇年代から風力や太陽光などを対象とした再生可能エネルギー法ができて、「再生可能エネルギーで発電するなら高い価格で買います」となってきます。


川口  だから、発電施設だけが膨れ上がって、全発電施設の容量、一億七八〇〇万キロワットのうち、太陽と風が六八〇〇万キロワットです。


東海 バイオなどを入れると、あと一〇〇〇万キロワットくらい上積みされて、七、八〇〇〇万キロワットです。発電の設備としては四割、五割くらい再生可能エネルギーが入ってしまいました。
CО2は出ませんが、買取価格が非常に高いから、それが補助金として消費者にかかり、電気料金がどんどん上がっています。二〇一三年ですと、一般家庭の消費者で自分が払っている電気料金の二割くらいが再エネの補助金です。年間一世帯当たり二万円を超えるぐらい払っています。


川口  二〇一一年の福島の後の脱原発の決め方はひどい決め方でした。
 ドイツ人は現実的な頭脳とロマン主義的な精神を併せ持つ複雑な人たちです。当時はロマン主義が勝ち、国会議員も市井の人々も、「自分たちは、唯一、物質主義に侵されない倫理的な国民である」と酔いしれました。


東海 自己陶酔ですか。


川口  「理想のために値段が少しくらい上がってもいい」とみんな言ったのです。
 私はドイツ人は値段が上がっていいという人たちではないことを知っていましたから、そのうち絶対にいやだと言うだろうと思っていましたが、今、皆が正気に返って、不安を感じ始めています。
 「北の方で風力発電ができます。特に海は一年中風が吹くから、沖合でたくさんやればドイツの電力は全部賄えるのです」と言った人たちがいました。
 でも、「産業のあるのは南です。北の風力電気を大送電線で南に引っ張ってこないといけない。どれだけ大変でお金がかかるか」と警告した人たちもいました。
 しかし、当時のアンケートでは、「あなたの家の近くに送電線が走ったらどうしますか」と聞くと、「やむを得ない」と言った人たちが八〇%もいた。今は、五%くらいしかいないと思います。


東海 ドイツで電力会社の人などに聞くと、送電線の建設は非常に難しいと言います。
 まず地元が反対する。電磁波から始まって、景観、景色が悪くなるなどの反対があって、建設が難しいと言うのですが。


川口  ドイツ人は木が好きな民族です。北から南に電気を送るには、ドイツの真ん中の広大な森林地帯に大送電線を三本通さなければいけません。しかし、木を切るのは反対。それから土地の買収も進みません。景観、電磁波など、そういう問題もあります。


東海 一番不思議だったのは、北部に風力発電所が非常に多く建設されました。フランスやイギリスだと、田舎でも景観が悪くなると、農民などが反対します。でも、ドイツはどんどん建ちました。
 ですから、田舎なら、あまり気にしないのかなと思ったのですが。
川口  風力発電はよい物だと思っているのでしょう。自治体も企業家も、広い土地を使って、産業としてウィンドパークに投資しました。でも、洋上風力で今、建っているのは、岸から平均六六キロも離れている。世界で一番遠いところに建てているのがドイツです。だから開発はなかなか進みません。北海やバルト海は海が荒くて工事が難しいし、工事現場にはイルカや海鳥が生息しているので環境団体が反対するし、また第二次世界大戦時にイギリス軍が投下し損ねて、帰りに海に捨てていった爆弾が不発弾として海底にある。それを探して撤去しているので、とにかく進まない。
 去年八月に三つ目の沖合(オフショア)のウインドパークが完成したのですが、陸までケーブルが繋がっていない。完成は今年の春頃と言っていました。一〇〇件以上のオフショアのパークが認可はされているらしいのですが、投資家が足踏みしているようです。



二〇二二年までに原発は止められないとシュレーダーは書いた


東海 昨年の冬にできたSPDとCDUの大連立政権の中で再生可能エネルギー法の見直しの検討が始まりましたが、今後どうなるのでしょう。


川口  見直しの必要は、CDUの前政権のときから叫ばれていましたが、SPDや緑の党が「脱原発から後戻りしている」など非難するので進まなかったのです。
 ところが今度の大連立で、SPDの党首ガブリエルという人が産業技術エネルギー省の大臣になりました。彼は党首で、大臣で、副首相でもある野心満々の人で、自分がエネルギー大臣になったとたん、「今までのエネルギー政策は無政府状態であった」とCDUの無策を責めた。「自分はそれを是正して、これからすばらしいエネルギー政策をやるんだ」という意味です。
 連立が成立したのが一二月一七日ですが、すでに一月末には再生可能エネルギー法の改定案を出しています。


東海 今まで再生可能エネルギーは、基本的に固定価格買取りで買ってきました。それを見直していくのでしょうか。


川口  今まで容量の制限はなかったのですが、太陽光の設備の新設は一年間で二五〇万キロワットが限度、風力も一年間で二五〇万キロワットまでとなります。
 オフショアは技術開発の意味で投資を続けるそうですが、でも今までの目標、二〇二〇年までに一〇〇〇万キロワットが六五〇万キロワットに、二〇三〇年までに二五〇〇万キロワットが一五〇〇万キロワットに下方修正されました。
 それから買取り価格も下げる。また、現在、買取りの区分けが四〇〇〇種類もあるそうで、それを簡素化する。でも、以前に決めた買い取り価格は二〇年間変更できません。


東海 CDUは今回の選挙前、その時のアルトマイヤー環境大臣が「すでに決まっているものも一部見直します」と言っていました。


川口  アルトマイヤー氏はいろいろいいことを言ったのですが、SPDや緑の党に全部つぶされたのです。
 脱原発の当然の帰結として、今、ドイツは火力発電をたくさん建てています。
 つい最近、シュレーダー元首相が本を出しました。私はまだ読んでいませんが、『Klare Worte(明確な言葉)』という本で、その中で「二〇二二年までに原発は止められないだろう」と言っているらしい。まだ影響力がある人の発言なので、みんなびっくりします。
 それ以後、シュレーダー氏のインタビュー記事があちこちに出ていますが、「太陽光や風力など自然のエネルギーが増えれば増えるほど火力が必要である。そうするとロシアのガスが必要だから、ロシアと仲良くしなさい」と。
 シュレーダーはロシアと仲が良すぎた人で、汚職まがいのことまでやり、ガスプロムの子会社の役員に収まっている人ですが、堂々と「だからロシアと仲良くしろ」と言っている。一番頭のよかったのは彼ではなかったかと思いましたね。


東海 風力や太陽光は常時発電できませんから、それを火力発電で補うのですが、スペインやほかの国でも太陽光や風力が入り過ぎた国は、火力発電の運転時間が少なくなり過ぎて維持できない。補助的に発電するだけではペイしない。特にドイツはそうだと思います。


川口  ガス火力発電の稼働率は一八%と言われています。


東海 電力会社は「それだったら止めます」と動き始めた。再生可能エネルギーが入るほど火力も必要になるが、それが逆にどんどん運転できなくなってしまう、というすごい矛盾があります。


川口  やめられると困るから、政府は電力会社にもお金を払って待機してもらう。今度の新しい再生可能エネルギー法にそのお金も組み込まれています。再生可能エネルギーの買い取りに掛かるお金も、政府ではなくて私たちが払いますが、そのうえ、火力の待機のためにも払わなければいけない。電気代はますます高くなるでしょう。


東海 だけどドイツは二〇五〇年には電気の八〇%は再生可能エネルギーで賄う、という非常に楽観的な見通しを出してますよね。


川口  今度の改定案ではそれがなくなって、二〇三〇年までしか出していません。五〇年に八〇%は消えました。
 シュレーダー元首相の本に戻りますが、二〇〇二年に決まった稼働年数三二年という数字は、「電力会社は四〇年と主張し、環境保護者は二五年と主張したから、足して二で割った」そうです。


東海 当時は州政府がどんどん緑の党とSPDになるので、一回検査や燃料交換で止めると、再稼働できないことがあって、それなら三二年でも何年でも決まったほうが運転できると、電力会社は合意してしまったようです。



脱原発はメルケルが決めた線まで戻る可能性はあるか


川口  メルケル首相がこの間の脱原発を決めたときは倫理委員会に諮りました。倫理委員会というのは、ナチ政権のときに、科学が倫理を無視して非人道的なことが行なわれたという反省に基づいてできたものです。原発のことを問うのはおかしい。
 しかも、メンバーに原子力の関係者が入っていなかった。哲学者や社会学者、一番多かったのが聖職者だったそうです。


東海 それで今後の脱原子力ですが、これは変わらないのでしょうか。再生可能エネルギーのコストが高くなり、いろいろな問題が出てきている。一方、原子力発電所はまだ九基、一〇〇〇万キロワット動いています。それを二〇二二年に止めず、もっと先まで動かす。二〇一〇年にメルケルが決めた線まで戻る可能性はありますか。


川口  原発を再稼働するような動きはありません。
 ただ、ドイツ人は意見を変えるのがうまい。しかも、論理的につじつまを合わせるのがすごく上手です。とはいえ、この件に限っては、なかなかプライドが許さないでしょうね。
 メルケル氏が二〇一〇年に稼働年数を延ばしたとき、電力会社はその見返りに核燃料税を払うことになりました。しかし、そのあとすぐ脱原発が決まった。それでも電力会社は核燃料税を払わされており、不当だとして訴えて、今年一月に最高行政裁判で勝訴しています。
 シュレーダー氏は「二〇二二年までに脱原発などとしたから、裁判沙汰になる。稼働延長の取り下げだけにしていれば、電力会社も文句は言えなかったはずだ」と本に書いているようです。


東海 三二年間運転できるというのと、期限を区切って運転するのは意味が微妙に違います。三二年間運転させるという定義は時間数に換算して三二年間分なので、例えば燃料取換えのために止めたなどは除外されるのです。
 ところが、二〇二二年までと言われると、取り替えなども含んでそこまでです。


川口  二〇二二年までたった八年です。まだ変わる可能性はあると思います。
 夏に、太陽が出て風が吹くと、大量の電気ができます。それを全部買い取らなければならない。挙句の果て、送電線がパンクしないように、お金を払ってオーストリアやフランスに引き取ってもらっているといいます。
 自分の持ち家があってパネルを屋根に乗せられる人が利益を得ている。大企業も負担を免除、あるいは軽減されている。負担しているのは、お金のない庶民です。だから一般庶民の間で、不公平だという声が高まっています。


東海 産業界の言い分は「再エネコストが我々にも家庭用並みに乗せられてしまうと、電気料金が非常に高くなる。そうすると、自分たちは例えば同業種のフランスの企業と戦えない。工場はドイツの外に出ていくしかない」という理屈です。
 電力市場は自由化でやっています。その自由化しているシステムと再生可能エネルギーの買取制度が全く矛盾しているのです。


川口  デュッセルドルフのあるノルトライン・ヴェストファーレン州で、褐炭の露天掘りの許可を巡って、二〇年間争われていたのですが、最高裁の判決が、大連立が成立した去年の一二月一七日に出たのです。二〇四五年まで採掘していいと。露天掘りはたぶん一番安いエネルギーです。ですから、これから褐炭をどんどん燃やして……。


東海 ドイツは褐炭が二割くらい、石炭が二割くらい、合わせて四五%ですよね。


川口  褐炭は増えて去年二五・八%です。


東海 そうですね。今、ヨーロッパはガス火力を止めてしまって、安い石炭か褐炭を使っています。


 なぜ石炭をまた使い出したかは、もう一つ理由があって、アメリカでシェールガスが出て、ガスの価格が石炭と同じくらいに安くなっている。CO2を出さないので、アメリカは燃料がガスにシフトしています。アメリカが発電用に使っていた安い石炭がドイツやフランス、イギリスに入り、結果、ガス火力を止めています。再エネが入ってきてペイしないということもあるのですが、ちょっとでも利を得ようと思えば、安い燃料を使う仕組みになっていますので、CO2排出権を買ってでもそのほうが安いので、石炭を使っている。ですから、ドイツも褐炭や石炭による発電が増えています。


川口  でも、ドイツ人は全然知らない。石炭、とくに褐炭など、過去のものだと思っています。褐炭の露天掘りが四五年まで続くかもしれないと聞いて、びっくりしたのではないかと思います。



ドイツでは原発はまだ半分以上動いている


東海 再生可能エネルギーが二〇五〇年八〇%という目標は消えたという話ですが、二〇五〇年に仮に四〇%、五〇%入っても、残りの五〇%を原子力でやらないなら、すべて火力ですから、褐炭なり石炭やガスが入ってきます。
 ドイツはガスの三七%くらいをロシアから輸入していますね。
 ヨーロッパ全体で見ても三割くらいロシアに依存しています。ロシアからのガスのパイプラインは、ウクライナやベラルーシを通ってきます。あの地域で問題が起こると、ヨーロッパのガスの供給が止まる。二〇〇九年に一回ありました。


川口  当時、風も吹かなかったから、ドイツはすごく困ったのです。
 そういえば、同じ量の電気をつくるのにフランスと比べると、ドイツはCO2の排出量が八倍だそうですね。


東海 フランスは原子力が七五%、水力が一〇%ですから、九割くらいがCO2を排出しません。
 ドイツはまだ半分くらいが石炭、褐炭で、ガスも一〇%くらいありますから、六割くらいが火力電源です。再生可能エネルギーはまだ二二%程度です。原子力は去年一五・四%です。
 火力がまだ六割も残っていますから、CO2のキロワット・アワー当たりの数値を比べると、ドイツのCO2の排出量は八倍くらいになるでしょう。


川口  太陽光はあれだけお金をかけていて、電力量としてはまだ四・五%です。


東海 運転稼働率は一〇%ですね。
 ドイツの原子力発電所は優秀で、稼働率が平均的に九〇%ぐらいです。太陽光は稼働率は一〇%ですから、一〇〇万キロワットの原子力発電所があるとすれば、同じ量の発電は、太陽光だとほぼ九倍の設備がないとできません。
 一般人がみなそう考えるとは思いませんが、ある程度以上の教育を受けたドイツ人は、論理的、理性的に考える人だと思っていました。再生可能エネルギーで七割、八割の電力が賄えるとなぜ考えられるのか、と非常に不思議です。


川口  ロマン主義だからです。ポーランドなどの隣国が原子力をやりドイツに電気を売ろうとしているのに、ドイツだけが夢と理想だけできてしまった。


東海 ロマン主義的に行き過ぎてしまったのでしょうか。最後に、日本の今の状況についてご意見がありますか。


川口  日本で私が「ドイツでは原発はまだ半分以上動いていますよ」と言うと、「もう全部止まっているんだと思いました」という人がほとんどです。
 ドイツは、一七基のうち九基の原発を動かしながら、どうやったら脱原発ができるか考えている最中です。理想を掲げつつ、右往左往しているのが今のドイツなのに、日本人はその理想が現実だと勘違いしてしまっているのです。もう少し待って、ドイツの着地点が決まってから見習うところは見習えばいいと思います。
 ドイツと日本は条件が違います。日本は褐炭もないし、電力のネットワークもない。闇雲に見習うと、ドイツよりももっとひどいことになりますよ。

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