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【フランス】大統領選挙、中道・マクロン氏が選出される

2017年5月8日

【フランス】大統領選挙、中道・マクロン氏が選出される

2017年5月7日、フランス大統領選挙の決選投票が行われ、既存政党と距離を置き、選挙運動「前進」を立ち上げたマクロン前経済相(39歳)が極右政党ル・ペン氏を破り当選した。右派、左派の二大政党以外からの大統領選出は、1958年の第五共和制開始以来初めてのことである。マクロン氏は、現オランド政権下で制定されたエネルギー移行法(2025年までに原子力発電比率を現行の75%から50%に低減など)を推進することを表明しているが、その実現に向けては課題も大きい。


◆マクロン氏のエネルギー政策
(1)概要
マクロン氏は、現政権で策定された「エネルギー移行法」を引き継ぐことを表明しており、「原子力依存度の低減(2025年までに原子力発電電力量比率を現行の75%から50%に低減、原子力発電設備容量の上限を現行の6,320万kWに設定)」、「再エネの拡大(太陽光、風力発電の設備容量を2022年までに現在の2倍に)」、「温室効果ガス排出量の削減(5年以内に石炭火力を全て廃止)」、「エネルギー消費量の削減(建物の断熱化)」などの政策を掲げている。

 

<表 エネルギー移行法とマクロン氏のエネルギー政策>


エネルギー移行法

マクロン氏の政策
(左記に加えて)

原子力比率

原子力発電電力量比率を2025年までに50%に低減(現行75%)

原子力発電設備容量の上限を現行6,320kWに設定

40年超運転の可否は2018年以降(原子力安全規制局による包括審査後)に判断

・フェッセンハイム原子力発電所の閉鎖(フラマンビル原子力発電所3号機の運開にあわせて)

再エネ比率

最終エネルギー消費量に占める再エネの比率を2030年までに32%に引き上げ(現行15%

2022年までに風力と太陽光の設備容量を2倍に(エネルギー移行法の達成ラインに沿った導入目標)

・許認可に関わる行政手続きの簡素化

・大規模な電源入札の実施

化石燃料

消費量

2030年までに30%削減
2012年比)

5年以内に全ての石炭火力を閉鎖

・シェールガスの採掘禁止

・炭素税を2030年に100ユーロ/tCO2に引上げ

・電気自動車の普及促進

・欧州大での炭素下限価格の導入

温室効果
ガス
排出量

2030年までに40%削減
1990年比)

最終エネルギー消費量

2050年までに50%削減
2012年比)

・公共施設、低所得者宅のエネルギー効率化にそれぞれ40億ユーロを投資


また、EU全体の連携を重視しており、「エネルギー単一市場の導入や、欧州大での炭素下限価格の導入を積極的に進める」とするとともに、「同一市場にアクセスするものは同一規制に従うべき」と強く主張しており、Brexit交渉においては英国に対し強硬姿勢で臨むことが予想される。

(2)エネルギー移行法実現に向けた課題
エネルギー移行法については、その実現可能性が国内外から疑問視されており、特に原子力依存度低減政策(原子力発電電力量比率を2025年までに75%から50%に低減)は、フランスにおいて原子力発電が担っている役割の大きさなどを考えれば、その実現は困難とされている。その実現に向けた主な課題は以下のとおり。

①代替電源の確保
安定供給、温室効果ガス排出量削減、電気料金低減に大きく貢献する原子力に替わる電源を確保することは容易ではないが、化石燃料消費量の削減も同時に目指す中では、再エネに頼るほかない。しかし、フランスの再エネ導入状況は必ずしも順調ではなく、特に風力発電については許認可手続きの複雑さとともに、景観への悪影響などによる地元住民の反発が導入の足かせとなっている。洋上風力にいたっては、欧州大で1,300万kWが導入されているにもかかわらず、フランスでは1基も導入されていない。
エネルギー関連情報配信会社PLATTSは2017年4月のレポートにおいて、「2025年原子力比率50%を達成するためには、2,500万kWの原子炉の閉鎖が必要と想定され、それを全て再エネで補完する場合には、(設備利用率の違いなどを考慮して)1億kWの新設が必要となる。フランスはこれまでに1,200万kWの風力発電と700万kWの太陽光発電を導入しているが、新設に必要となる広大な土地、風力タービンの生産能力を考えるとその実現は不可能である」と評価している。また同社は「2025年に原子力比率70%、2030年に50%であれば実現可能であるかもしれないが、その場合はフランスは電力輸出国から輸入国に転じることになる」とも述べている。なお、マクロン氏は2022年までに風力、太陽光発電を現在の倍にする、つまり1,900万kWを新設することを公約に掲げているが、原子力比率を50%に低減するためのPLATTS社の試算(2025年までに1億kW新設)には遠く及ばない。

②40年超運転の可否判断
原子力依存度低減のためには、廃止する発電所を決定する必要があるが、その前段として40年超運転を認めるかの判断が必要となる。フランスの原子炉58基のうち半数は1970年代後半から1980年代前半に運転開始したものであり、マクロン氏の任期である2022年までに19基(計1,700万kW)の原子炉が経年40年を迎えるが、マクロン氏は「原子力安全規制局が2018年末までに40年超運転の安全性に関する包括的な評価報告書を出す予定であり、その結論を踏まえて政治的判断を下す」と述べるにとどまっている。40年超運転を認める場合にどのように原子力依存度低減政策と平仄を合わせるのか、認めない場合にどのような代替電源確保策を提示するのかが注目される。

以 上

 

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