【米国】トランプ大統領がパリ協定から脱退する方針を表明
2017年6月2日
【米国】トランプ大統領がパリ協定から脱退する方針を表明
ドナルド・トランプ大統領は2017年6月1日、ホワイトハウスで演説を行い、米国がパリ協定から脱退する方針を表明した。
1.パリ協定
(1)目的
パリ協定は2015年11月にフランスのパリで開催されたCOP21で採択された協定で、世界共通の目標として、産業革命前からの地球平均気温の上昇幅を2℃より十分低く保つとともに1.5℃以内に抑える努力を追求することなどにより気候変動の脅威への世界的な対応を強化することを目的としたものであり、締結国は自ら目標を設定し、それを達成するための取組みを実施する。パリ協定には190ヶ国以上が合意し、147ヶ国が正式に批准もしくは承認している。
(2)脱退に関する規定
パリ協定の脱退に関する規定は「協定の締約国は、協定が発効した日から3年を経過した後いつでも、国連に対して書面で脱退の通告を行うことで、脱退できる」となっている。パリ協定は2016年11月4日に発効したため、米国がパリ協定からの脱退を通告できるのは2019年11月4日以降となる。さらに実際の脱退は国連が通告を受けた日から「1年を経過した日、またはそれよりも遅い日」とされているので、最も早くても2020年11月4日となる。
2.今回の発表要旨
今回のパリ協定からの脱退の方針を発表したトランプ大統領の演説の要旨は以下のとおりである。
(1)パリ協定からの脱退の表明
米国とその国民を保護するという重大な責務を果たすため、パリ協定からは脱退する。
今後の方針として、米国のビジネスや労働者、国民、納税者にとって公平な条件でパリ協定への参加を再交渉するか、あるいはそのように公平な、新しい取り決めをするかの交渉をただちに開始する。各国がこの交渉に応じれば素晴らしいことだが、そうならなくともかまわない。
(2)経済への悪影響を考慮
パリ協定は米国を不利にし、他国を利するものである。パリ協定は米国に財政的・経済的に大きな重荷を課すものとなっている。パリ協定を順守すると2025年までに270万人、2040年までには650万人の雇用が失われ、米国のGDPは30億ドル減少する結果となる。
また、われわれが保有する豊富なエネルギー資源が国内経済の大きな支えとなっている中、パリ協定の順守により、国内の富が他国へと大量に流出することになる。経済成長が1%程度であれば、再生可能エネルギーが国内需要のある程度を賄うことができるが、目標とする経済成長率3~4%を前提とすると、国内で利用可能なあらゆるエネルギー資源を活用しない限り、停電あるいは計画停電の危機に瀕することになる。
(3)脱退に向けた対応
パリ協定のうち、拘束力のない部分の実行を即日停止する。これにはグリーン気候基金(GCF)への貢献の停止も含まれる。米国が数十億ドルをGCFに拠出する一方で、他国は資金を拠出していない。これは不公平である。
政権は、環境問題に真摯に取り組んでいる。パリ協定からの脱退は気候変動ではなく、経済や雇用への懸念によるものである。環境には深く配慮し、米国が環境問題への国際的取り組みでもリーダーであり続ける。
3.環境保護局(EPA)スコット・プルイット長官のコメント
トランプ大統領の演説後、トランプ大統領に促され、EPAのスコット・プルイット長官が簡単にコメントした。プルイット長官は、気候変動問題の強硬な懐疑派として知られる。
プルイット長官のコメントの要旨は下記のとおりである。
・米国は、この決定について他国に弁解する必要はない。
・米国は引き続き、二酸化炭素排出に関する協議に他国と関わり続けるつもりである。
4.関係者の反応
トランプ大統領がパリ協定から脱退する方針を発表した直後、ジェンティローニ伊首相、マクロン仏大統領、メルケル独首相は、「パリ協定は地球にとって欠かせないものであり、再交渉はあり得ない。われわれはパリ協定を実行に移すため、最大限努力する。米国の脱退という決定を遺憾に思う」との共同声明を発表した。
フランス前大統領のオランド氏も声明を発表し、「トランプ大統領は地球の未来を棄てたが、米国民は違うと信じている。米国の脱退でパリ協定が中断されることはない」とトランプ大統領へ遺憾の意を示すとともに、今後もパリ協定が重要であることを示した。
国連のグテーレス事務総長は、「米国の決定は、世界全体で取り組んでいる温室効果ガスの削減への取組みにとって大きな失望である。しかし米国各州や産業界が先導して低炭素社会に向けて取り組むことを信じている」とコメントした。
また、欧州連合(EU)のカニェテ欧州委員(気候変動・エネルギー担当)は、「トランプ政権の一方的な決定を遺憾に思う。重要なパートナーが気候変動対策に背を向けた悲しい日であった。今後は、世界でより一層パートナーシップを確固たるものとし、新たに取り組んでいく。この中には米国各州、産業界、および国民も含まれる」とコメントした。
一方、米国内では、トランプ大統領が演説中で「自分はピッツバーグを代表するために大統領に選ばれたのであって、パリを代表するために選ばれたのではない」と述べたのを受け、ピッツバーグ市のビル・ペドゥート市長(民主党)は、「ピッツバーグ市では80%がヒラリー・クリントンに投票した。われわれは、パリ協定を遵守していくつもりだ」と述べた。
また、パリ協定への残留をトランプ大統領に強く勧めてきたテスラ・モータース社のイーロン・マスクCEOは、トランプ大統領のパリ協定脱退宣言を受け、これまで務めてきた大統領のBusiness Advisory Committeeを辞任した。
以 上
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