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【フランス】 アレバの経営危機を背景とした仏原子力産業の再編が完了

2018年10月5日

フランスの総合原子力企業アレバ(AREVA)は、2014年度決算において数年続きの赤字となる48億ユーロという大きな純損失を計上した。
こうした同社の危機に対し、フランス政府は2015年以降、増資による体力強化とともに、国有電力会社EDFをも巻き込んだ原子力産業の再編を主導した。
この再編はアレバの原子炉・サービス部門のEDFへの移管とアレバ燃料サイクル部門の分離を柱として、2018年2月、日本企業の出資完了をもって、最後のステップが完了した。
以下、その概略経緯をまとめる

1. アレバの業績不振
フランスの国有会社アレバは、フロントからバックエンドまでの原子力事業を行う世界最大の総合原子力企業である。
同社は2015年3月に発表した2014年度決算において、4年連続の赤字となる48億ユーロという大きな当期純損失を計上した。
このアレバの業績不振は、福島第一事故などによる外部環境の悪化とともに、鉱山会社の買収失敗、フィンランドでのオルキルオト3号機(OL3)建設プロジェクトの長期化・コスト増、アレバとEDFの確執など多くの原因によるものと考えられた。
フランス政府は、原子力大国を支えるアレバのこうした構造的な危機に対し、2015年頃から本格的にその支援と業界再編を実施した。

2. 原子力産業再編の基本構造
フランス政府は経営危機に瀕しているアレバだけでなく、英国ヒンクリーポイントC建設計画への投資を控えるEDFも含めて、国全体の在り方を考慮し業界再編に取り組んできた。
具体的には、二つの流れで行われた。
一つは、原子炉・サービス部門を担っていたアレバの子会社(アレバNP)を安定的な事業である新燃料製造も含めてEDFの傘下とすること。
もう一つは、今後も確実な収入が期待できる燃料サイクル部門をアレバ全体の中から分離すること、であった。
また、その際、アレバの経営危機の最大の原因ともなったフィンランドの新規建設工事における賠償問題など、いわばアレバの負の遺産を、アレバ本体(アレバSA)に残し、上記の健全な部門から切り離すこととした。
以上の再編による原子力産業構造の変化を、2015年再編前と2018年現在の再編後を比較して図-1に示す。



また、アレバ全体(2014年度決算)における各部門が占める売上高等の割合を表-1に示す。
アレバNPの分割は、フロント事業売上31億ユーロの56%に当たる新燃料製造もあわせて行われており、分割の規模はアレバ全体の約半分に当たるものであった。
さらにフランス政府は、この再編に当たり、残務整理するアレバSAに対し20億ユーロ、サイクル部門の新会社(NewCo)に対しても、25億ユーロの増資を行い、その体力強化を図った。



3. 再編の主な経緯(表- 2 参照)
(1)EDFによるNew NPの買収
フランス政府は2015年6月、再編の柱となるアレバの原子炉・サービス部門である子会社アレバNPをEDFの傘下企業とすることを決定した。
この動きは、海外への輸出も視野に入れた原子炉新規建設部門を、国として強化しようとする意図があったと考えられる。
当初、この買収に当たりアレバNPの価値についてEDFとアレバでは大きく意見が割れたが、最終的に25億ユーロとすることで2016年1月合意した。
同社のアレバからの分離に当たっては、フィンランドにおいて同国企業と賠償請求で争っているオルキルオト3号機(OL3)の契約やアレバ子会社(クルゾ社)の製造不具合等の問題が、アレバSA(子会社のアレバNP)に留め置かれ、一切が引継がれないことになった。
その結果、アレバNPの新会社(NewNP)の事業範囲は、OL3関係を除く原子炉・機器の設計と供給、燃料の設計と供給、その他関連サービスとなった。
New NPは当初、EDFが過半、アレバが25%以内で外部からも出資を受けることとしていたが、欧州委員会からアレバが出資者として許可されず、最終的にその出資比率はEDFが75.5%と過半を占め、日本の三菱重工が19.5%、フランスのエンジニアリング会社のアシステム(Assystem)5%となった。
同社は2017年12月、EDFの子会社として発足し、「Framatome(フラマトム)」と会社名を変更した。
また、EDFは2017年5月、アレバNP(現フラマトム)との間にエンジニアリング会社(Edvance)を設立(EDF80%、アレバNP20%出資)することを決定した。
Edvanceは国内外で新設される原子炉および一次系機器の設計や建設(施工管理)を担うこととなる。
なお、2007年にアレバと三菱重工で設立されたATMEA社は2018年1月、EDFと三菱重工が50%出資し、フラマトムが特別株を保有する体制とされた。



(2) アレバ本体からのNewCoの分離
上述の流れとは別に、燃料サイクル分野に特化した新会社(NewCo)は、2016年後半からアレバ本体(アレバSA)からの切り離しの手続きに入った。
NewCoの事業範囲は、ウラン鉱山、フロントエンド(ウランの転換・濃縮)、バックエンド(再処理、MOX製造、廃炉等)となった。
アレバは2016年、フランス政府等から50億ユーロの増資を受けることになったが、政府による増資は2017年1月、欧州委員会に承認されたものの、二つの条件が付された。
すなわち、①フランスにおいて建設中の最新型炉(EPR)において発見された圧力容器の製造不具合について原子力安全局(ASN)が前向きな回答を出すこと、②New NPの買収を欧州委員会が承認すること、の二つであった。
同条件は2017年後半にいずれもクリアされたため、政府のアレバSAへの20億ユーロとNewCoへの25億ユーロ増資が実現した。
また、NewCoへの民間からの出資については、中国がかなり活動したようである。
中国核工業集団公司(CNNC)は、フランス政府に続く第2株主となることや取締役を送り込むことを強く求めた模様である。
しかし、最終的に、日本の三菱重工、日本原燃が5%ずつの出資(合計5億ユーロ)することに落ち着いた。
仏原子力庁(CEA)長官は、「長期的には、信頼関係のある日本とのパートナーシップが望ましい」と述べたという。
なお、同社の最終的な出資比率は、仏政府45.2%、アレバSA40%、三菱重工5%、日本原燃5%、CEA4.8%となり、2018年1月、「Orano(オラノ)」と会社名を変更した。

(3) 海外進出に向けたEDFの強化
EDFは、総費用217億ユーロとみられる英国ヒンクリーポイントCの建設、国内既設発電所の運転期間延長に向けた設備改造、上述のNew NPの買収など、今後多額の資金を必要とするため、現在、海外の子会社や保有株式を整理し、それらの投資に備えている。
さらに同社は2017年3月、フランス政府から30億ユーロの増資を受けるとともに、一般投資家からも10億ユーロを調達するなど、その財務体質の強化を図っている。

4. まとめ
2018年2月の新会社オラノへの日本企業の増資完了をもって、アレバの経営危機に端を発したフランスの原子力産業の一連の業界再編は完了した。
これまで、原子力発電を主軸としてきたEDFは、原子力の海外進出に向けて設計・建設部門も保有する、より大きな総合原子力企業となった。
世界では、こうした設計・建設部門も持つ原子力企業はロシアや中国にもあるが、フランスが国を挙げてこうした原子力企業をテコ入れした背景には、世界の原子力商戦における競争力強化があったことは間違いない。

【情報提供:一般社団法人海外電力調査会

以上

 

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